草原にて(3)
そうやって誰かに強く問いかけるなんて、いつもの自分らしくない。
けれども、一度言葉が出始めると抑えることは出来なかった。
「ああ、そりゃな。それがどうした?」
隠す素振りも見せずに、クマさんはあっさりと認めた。
クマさんの口から慧さんの話を聞きたくなくて、私はそれ以上問う気にもなれなかった。
けれども、せめて全てを知っているということを示したくて、あえて違う話題を出した。
「クマさんは私の五歳上だって聞きました」
慌てるかと思いきや、クマさんはこれもまたあっさりと「それがどうした?」と返してきた。
「隠してたんじゃないんですか」
「いや別に。どうせそのうち伝わるし、自分から言うことでもないだろ」
お酒が入っているくせに、クマさんは至って冷静だ。
そんな姿に、私はもう何週間も前から心を掻き乱されている。
それが悔しくて、それでも全部は言えなくて、今言える限りを口にする。
「出会ってからそれ程経ってなくても、仲良くなれたと思っていたのに、その人の話を別の人の口から聞くのは、辛かったです。何だか、仲間外れにされているようで」
慧さんやクマさんと仲がいいせいで、周りから距離を置かれているのは構わなかった。
けれども、その二人からも距離を置かれていると考えると悲しかった。
そうやって考えているうちに、言葉が詰まって出て来ない。
私の顔を見た途端、クマさんは面食らった表情を見せた。
「おい、頼むから泣くなよ。俺が悪かったから」
おろおろしつつも、クマさんは私の頭に手を伸ばす。
それで少し安心してしまい、ますます泣いてしまった。
「クマさんといると、何だか落ち着くんです……」
クマさんは撫でる手を止め、何か言いたそうに私の方をじっと見た。
けれどもそれも一瞬で、何も言わずに私の頭を再び撫で続ける。
「人ごみが、怖いんです」
脈絡のない話が口から出ても、クマさんは頭を撫でながらただ頷いて私の方を見てくれていた。
クマさんには、私じゃなくて慧さんがいるのに。
そう分かっていても、一度こぼれ落ちた言葉はとどまることを知らなかった。