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星見る人びと  作者: 瀬戸真朝
「ねぇ君、星に興味ない?」
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新歓祭にて(2)

そのまま後ろを付いていくと、サークル棟の階段を三階まで上がってすぐの角部屋で先輩の足が止まる。

中に入ると、男女合わせて十人くらいの姿があった。


「一年連れて来たぞー。お前らも早く行ってこーい」


私に声をかけた先輩がそう口にしながら中に入っていく。

入れ違いに何人かが出て行く中、「早速ですか!」「さすが伊藤いとうさん、早いですね」などの言葉が室内を飛び交う。

人に囲まれて畏縮していた私は目が合わせられず、下を向きながら小さくお辞儀するので精一杯だった。

室内には机が長方形に並べられていて、十人入っても少し余裕がある広さだ。

人数比は男性の方が少し多かったが、ほぼ均等と言っていいだろう。

部員の多くは椅子に座らずに立ったままで、壁には月や名前を知らない星の天体写真が貼られていた。

じゃあここに座って、と扉から一番離れた窓際の角側の席に案内された。

言われた通りにそこに座ると、伊藤先輩は壁側に席一つ空けて座り、私たちは向き合う形になる。

その距離の取り方に少し安心感を覚えた。


「そうだ。お茶持ってきて、クマ。もちろん二人分ね」


席に着いた途端、伊藤先輩はすぐ近くの壁際に立っていた一人の男性に声をかけた。


「あん? なんで俺が」


そう言いつつも、『クマ』と呼ばれた人物は後ろを通り、伊藤先輩とは反対方向に置かれた冷蔵庫の方に向かってゆっくり歩いていく。

伊藤先輩の声がその男性の声の低さを引き立たせていた。

体格は大柄で肩幅も広く、何かスポーツをやっていてもおかしくないような体付きだった。

身長も私と比べたら多分二十センチ以上差がある。

黒髪で黒縁のメガネをかけていて目は細かった。

その姿だけで見るなら繊細なイメージの伊藤先輩と対照的で威圧感さえ感じさせる。

森で出会って襲い掛かられたら、一溜まりもなさそうだ。


「……確かに、熊っぽい方ですね!」


思ったことをそのまま口にしてしまうのも悪い癖の一つだった。

肝心の本人がいつの間にか目の前にいて、お茶を置こうとしている手を止めたまま私を見ている。

騒がしかった場が一気に静まった。何か大変なことを言ってしまったと気付く。


「ごめんなさい、私──」


口を押さえても、もう手遅れだった。

立ち上がって謝ろうとした時、クマ先輩以外の全員が笑い始める。

特に声が大きい伊藤先輩の方を見ると、何がおかしいのかお腹を抱えている。

一方で、クマ先輩は一言も発さずに奇異な目で私を見ていた。

この状況でどう反応していいか分からず、私は戸惑いながら室内を見回す。


「こんなに笑ったの、久しぶりすぎる……君、名前は?」


いきなり伊藤先輩に声をかけられた時、頭の中で今まで何度も繰り返された光景が一瞬 ぎる。

だが、ここはあの教室の中ではないと自分に言い聞かせた。

そして思い浮かんだ当たり障りのない答えを口にする。


「え、えっと、笹川ささがわです……あの、えっと……」

「笹川ちゃんね。君、絶対大物になるわ。あはは、ほんと面白い」


うろたえている私をよそに、伊藤先輩は笑いが収まらなさそうだった。

訳が分からなかったが、落ち着いた頃になってようやく伊藤先輩は口を開いた。


「あのね、熊っぽいからクマなんじゃなくて、大隈おおぐま洋之ひろゆきって名前なの」




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