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星見る人びと  作者: 瀬戸真朝
『それは不快ではなく、心地よいくすぐったさだった』
16/31

天体観測にて(2)

「おう、ちゃんときれいに見れたか?」


慧さんが他の一年生の指導に行ってる間、クマさんが来てくれた。

少し躊躇はしたものの、昼間の時よりは意識せずに済んだ。


「ちょっとまだぼやけててよく見えなくて……」

「貸してみろ」


手馴れた動作でクマさんが調整した後、「ぼやける以前に微動ハンドルの位置が悪いんだ。ここを触って──」と言われて訳も分からずに頷いた。

するとクマさんは呆れるのを堪えるように「次の観測の時に詳しく教える。もういいからここ覗け」と指差した。


「うわぁ……きれい」


望遠鏡を覗き込むと、まさに月並みだと言うに相応しいがそれしか言葉が出なかった。

肉眼では小さすぎてよく見えない月のクレーターがはっきりと見える。

月全体とクレーターが付いている箇所ではそれぞれの色が全く異なり、白い月に黄ばんだシミが付いているようだった。

今日は観測に適さないと言われたが、こんなにくっきりと自分の目で見るのはもちろん初めてだ。


「『月にウサギがいる』と言われている理由が何だか分かった気がします。いてもおかしくないですよね」


今まではどうしてそう言われているか分からずにいたが、これだけくっきりとクレーターを見ると何となくウサギの形のように見えなくもないと思えた。


「でも、餅つきしてるようにはどうしても見えませんよね。この模様を見て『月ではウサギが餅つきをしている』と考えた昔の人って、想像力がすごい豊かというか……」


思ったままにそう呟くと、何がおかしいのか珍しくクマさんが吹き出すようにそっと笑った。


「何ですか」

「いや、こんな歳になって真顔でそんなこと言える奴はなかなかいねぇなと思って。お前って意外と──」

「子どもっぽいって言いたいんですか!」


少しムキになって返すと、クマさんはまた少し笑った。


「悪かったな。ま、昼間より元気そうなら良かった」


クマさんからそう言われると、何だか少しくすぐったい思いになる。

けれどもそれは不快ではなく、心地よいくすぐったさだった。


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