表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星見る人びと  作者: 瀬戸真朝
「〝星見る人〟──そのまんま俺たちのことだな」
13/31

入会式にて(2)

「お前、ほんと元気ないな」


ふと話しかけられて、ついクマさんの方を向く。

その横顔はハンドルを握りながらまっすぐ前を向いたままだったが、一瞬だけこちらに目を向けた。

そのままクマさんは何も言わなかった。

クマさんとだと無言の時間が苦ではなく、むしろ心地いい気がする。

けれども言葉では説明出来ない何かが働いているようで、さっきまで心地いいとか思っていたのに、途端にここから逃げ出したい気分にもなってしまう。

何も話さなくていいのなら、無理に避ける必要はないのに。

どうしてなのかは、分からない。


再び気まずくなってしまった時、車が信号で止まった。

すると、クマさんはおもむろにカーステレオに手を伸ばす。

入ったままのCDが回り始め、聞き覚えのあるメロディが流れてきた。


「あぁこの曲、『スターゲイザー』だ」


会話が止み、後ろの席にいた女の子が呟く。

それから、何年前の曲だとか何の番組に使われたかで車内は盛り上がった。

シングル曲の中でも、この曲は私も好きだった。


「そういえば、〝スターゲイザー〟ってどういう意味なのだろう。サークルの名前にもなってるけど……」


一年生の子がふと思い付いたように呟いた。


「〝星見る人〟──そのまんま俺たちのことだな」


運転席から聞こえたその声は、私にしか聞こえないくらい小さな声だった。

後部座席の二人はそもそも誰が歌っているのか分からないそうで、そのうち「一発屋だったんじゃないか」と二人は結論付けて、別の話題で盛り上がっていた。

いつもなら自分の拳を強く握るところだが、そうすることもせずにゆっくりとクマさんを見れた。


「その意味、知ってる人を見たのは初めてです」


クマさんは運転しながらただ頷く。

私は深く座り直し、イヤホンとは違って宙を漂いながら耳に届く歌声に意識を向けた。

音量は絞っていたが、息遣いが今にも聞こえてきそうだ。

その声が持つ独特の透明感に魅せられる。

その後もアルバム曲が続き、つい聴き入ってしまった。


「もうすぐ着くぞ」


気が付けば宿泊場所の近くにいるようだった。窓からは自然の緑色が大学周辺よりも目に付く。


「少しは元気になったみたいだな」


車が止まると、後ろの二人はすぐに降りた。

降りようとシートベルトを外していると、クマさんは私の方を見ながらそう言ってくれた。


「心配……ありがとうございます」


自分からそう言うなんて、思い込みのし過ぎかなと心配もしたが、「ん」とだけクマさんは言うと車から降りた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ