入会式にて(1)
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サークル棟前で慧さんと、そのすぐ後ろにいるクマさんの顔を見ても、気分は晴れない。
そんな私の気持ちとは裏腹に空は雲一つない快晴で、絶好の天体観測日和のようだった。
サークル室での出来事から一週間が過ぎ、新歓合宿当日が訪れた。
二人と鉢合わせそうな場所やサークル棟を避けて通っていたため、あれから一度も会っていなかった。
「どうしたの、亜梨子ちゃん? 元気ないね」
「いえ、何でも……」
今までは会う度に嬉しかったはずなのに、今は二人の顔さえ見たくなかった。
「なんだよ、元気ねぇな」
慧さんだけでなく、クマさんまで声をかけてくれた。
だけど私は何も言えずにいる。
二年生の先輩方から二人のことを聞きました、とも。
出発するという会長さんの声が聞こえたのを機に、二人とは離れた列に入って歩いた。
だが、大学の駐車場に着いて発表された私の配車はクマさんの車で、心の中で戸惑いが広がる。
どうしてこんなに二人を避けたくなってしまうのか、自分でも分からない。
二年生は仲の良さを考慮してこの配車にしたのだろうけど、今の私には逆効果のようだった。
「アリコちゃん、助手席乗らないかい?」
あの日いた二年生の男の先輩が声をかけてきた。どうやら同じ配車のようだ。
「あの、えっと……」と口ごもる前に、「頼むよ、アリコちゃんなら大隈さん得意でしょう? 俺、沈黙に耐えられなくて……」と小さな声で手を合わせる。
結局断り切れずに頷くと、先輩は大げさにありがとうと返してきた。
しぶしぶ助手席に座り、運転席に先に乗っていたクマさんに「よろしくお願いします」とお辞儀すると、「おう」とだけ返ってきた。
クマさんの車は車高が高いシルバーのワゴンRで、後部座席に一年生の女の子とさっきの先輩が座っていた。
挨拶は交わしたものの、それからは後ろの二人だけで話が盛り上がっていた。
そういえば慧さんやクマさんたちのような先輩とは話すものの、一年生とは殆ど会話をしていないことに気付く。
二年生もクマさんや慧さんがいる時は私に話しかけてこない。
後ろで楽しそうに話しているのを半分耳に入れていると、早く同期とも仲良くならなくては、という焦りに近い思いがようやく生まれた。