4 この世界の仕組み
舞は広間から普通の部屋に移動してこちらの国の服に着替えた。
どうやら美羽は別の部屋に連れていかれたようだ。
舞が連れてこられた部屋には誰もいなかったので、移動する途中に聞いた女官の話しを簡単にまとめてみる。
1.この世界には特に名前がなく、3つの大陸から出来ている。
2.大陸は魔の大陸、人間の大陸、神々の大陸がある。
3.ここは人間の大陸である。
4.この大陸には1つのとても巨大な大国と4つの大国、20数カ国の小国がある。
5.今居るヴィルカイン王国はとても巨大な大国で、国土、魔法、産業、武力、経済のどれも他の国を圧倒している。
6.人の平均寿命は80ぐらい。(魔術師は魔力量によって寿命が違う)
7.貴族は公爵、候爵、伯爵、子爵、男爵の順に偉い。
8.会議の決定には多数決を使う。(国王からの勅令は例外)
ちょうど舞がまとめ終わったころに14歳ぐらいの女の子が入ってきた。
その少女は水色っぽい髪とクリーム色の目でかわいい顔立ちである。
「私はこのたびマイ様付きの侍女になりました、ミシェナ・リンロイと申します。」
うわ、美羽と並ぶくらいにかわいい子だな。
この子が私の侍女?
そう言えば、女官が侍女をつけると言っていたな。
「えーっと、よろしく頼む、ミシェナ。」
こういう場合どう対処していいか分からない舞は、とりあえず笑いかけてみる。
すると、ミシェナは顔を真っ赤にした。
「マイ様は、こんなにきれいな顔をなさっているのにどうして正妃の座を拒絶なさったのですか?」
きれい?
私の顔が?
そんなはずはないだろう。
確かに母の顔や父の顔はととのっていたが、私の顔は父にも母にも似てないのだから……。
「私の顔はそこまで良くないと思う。確かに両親は綺麗な顔だったが私は父にも母にも似なかったからな。」
自嘲気味に笑うとミシェナが慌てた。
「そんなことはありません!マイ様のお顔は私が見た中でも上位に入ります。」
「そうか、ありがとう。褒め言葉として受け取っておく。」
舞の言葉を聞いてミシェナは落ち込んだ顔をしたが、それ以上は何も言わなかった。
変な沈黙が流れる中、舞の頭にふとある疑問が浮かんだ。
「そういえば、私たちは誤って召喚されたような空気だったが、本当はどんな人物を召喚したかったんだ?」
「本来なら、この世界に住む15~19歳までの女性を一人だけ召喚するはずでした。」
確かに私は現在17で美羽は15だから年齢は該当している。
だが私たちはこの国の人間ではないぞ。
しかも2人だし。
「……では、異世界から2人も召喚した今回の召喚は威力が強すぎたということか?」
「はい、そうだと思います。なんでも、本来1人の魔術師が行うはずの儀式を36人の魔術師が行ったそうです。」
「36人!?」
1人でいいところを36人でやってたのか。
それなら、異世界から2人も連れてこられそうだな。
だが、待てよ。
「36人なんてどこにいたんだ?あの広間にはそれっぽい人たちはいなかったようだが…。」
「それでしたら、審査の間の下に控えていてそちらで術を使い、上の階に召喚させたそうです。」
「審査の間?」
「ええ、マイ様がたが召喚されたのは審査の間と呼ばれている部屋です。普段審査の間は悪事を働いた貴族たちを裁くための部屋なのですが、失敗して変なものを召喚した時のためにあの部屋にしたそうです。」
……いろいろと、つっこみどころがまんさいだが知りたいことが分かったので流すことにしよう。
とは言え最初に見たあの部屋が罪人を裁くための部屋だったとは複雑な気分だ。
豪華な部屋だと思ったのに。
「まあ、確かに妥当な線なんだろうな。そういえば忘れていたが、王太子について知りたいんだが教えてくれないか?人柄とか。」
「王太子さまのお人柄は、簡単にまとめるととても頭がいいのですが、とても冷たく冷酷な方です。」
「冷たい?」
審査の間で見た王太子がそんなに冷たいと感じなかったので舞は首をかしげた。
むしろ残念な王子というか……。
「はい、この国では王子さま方の発言ひとつで王位争いが起りそうな状態でした。そのため、王太子さまはいつも気をはりつめておられたようです。御友人を助けたりする事も第2王子派に隙を見せる事になるためお出来になりませんでした。そのことが、王太子さまを冷酷だと思わせる原因のなっているのだと思います。」
第2王子と王太子の発言ひとつで王位争い?
それはやばいだろう。
「ちょっと待ってくれ、それって美羽もまき込まれるのか?」
美羽は家が金持ちなだけあって地球ではそういった金持ちのいざこざになれているしかし地球とこちらでは作法なども違うから危険かもしれない。
こちらだと命まで狙われそうだ。
いくら美羽でも危ない。
命まで係わるとなると流石に黙ってみている事は出来ない。
舞の心配に気づいたかどうかは分からないが、ミシェナはが首を横に振った。
「いいえ、王太子妃さまがまき込まれる心配はほとんどないでしょう。今回の事で王位争いが起りそうな状態はおさりましたから。」
「そうなのか?」
発言ひとつで王位争いが起りそうなくらいの状態がそうそう解決するとは思えない。
なぜ、今ではもう大丈夫なのだろうか?
王子たちは2人とも王子という地位についているのに……。
「はい。王子さま方はもともと仲がよろしいのにあまり話ができないことや、王位争いが勝手に起こりそうなことを悩んでおられました。なので、今回の正妃召喚の儀を利用しようとお考えになったのです。」
「はっ?召喚の儀を利用する?」
舞は、意外な答えに目を丸くした。
それに対してミシェナはこくりとうなずくと目をきらきらさせて話し始めた。
「そうです。このことは召喚の儀を行った大きな理由のひとつにもなっていると言われています。この国では、第二王子さまが王太子さまの命令で動くということで、自分は王太子さまのために尽くすと証明になります。まあ、表面上はですが。」
「やはり、表面上はなのか。」
「はい。ですが、もともと第2王子様が王位に興味がない事は有名な話しですし、マイ様がご心配するほどひどくはありません。」
もともと王位に興味がないのに王位争い一歩手前ってことは周りが騒がしかったって事か。
ずいぶんと、めんどくさそうだな。
だがこれで表立った動きは出来なくなったって事か。
それならば、あの王太子が何とかするだろう。
どこまで出来るのかは分からないが……。
やはり王家となると複雑そうだな。
「そうか、ありがとう。それでミシェナはずっとこの部屋にいなければならないのか?」
「いいえ、そんなことはありませんのでご安心ください。」
「では少し下がっていてもらえないだろうか。さすがに疲れてしまった。」
「分かりました。では、御用がありましたら机の上のベルを鳴らして下さいませ。」
綺麗にお辞儀をしてからミシェナが出ていくのを見届けて舞はソファーに横になった。




