新しい命
夏鈴様からご依頼をいただいた番外編です。
舞視点となっています。
もしかして私太った?
徐々にウエストがきつくなってきているとは思っていた。
そんなことはないと気づかないふりをしていたが、ついにお気に入りのズボンがはけなくなった。
もう見過ごすことの出来ない変化に思わずふらつく。
するとミシェナが駆け寄ってきた。
「ま、マイ様!?大丈夫ですか?」
奥では堕天使族長を呼べ、マイ様が病気だとアリシアたちが慌てふためいているのが見える。
否定しようと口を開いたところで、ディランがやってきた。
「マイ様、病気だときいたぞえ? ミシェナがついていながらなんと不甲斐ない。」
「い、いや、そういう訳じゃなくて……。」
忙しいはずの堕天使族長まで来てしまっては今さら太ったことに衝撃を受けたせいだとは言えない。
やれ風邪か?魔王様に報告するか?と騒いでいるアリシアたちをミシェナが連れて部屋から出て行った。
「ようやく煩い連中がいなくなったのう。まったくせわしないことじゃ。それでマイ様は倒れそうになったのであったな。他に何か症状はないかえ?」
「ない。というよりも……。」
そこまで言ったところでディランが魔法を使う。
頼むから人の話を聞いてくれ!
荒ぶる心の内を押し隠し、表面上は大人しく身体検査を受ける。
どうせ特に何も問題なしとでるだろう。
そう考えて黙っていると、ディランの表情が徐々に驚きに満ちてくる。
「お、おめでただのう!」
「ん?やっぱり何ともなかっ……、は?おめでた?」
よく意味が分からない舞をその場に残し、ディランがどこぞへ消えていった。
どうやら魔法をかける間ディランが結界を張っていたようでディランが出て行った後すぐにアリシアたちが飛び込んでくる。
「マイ様、病気は大丈夫なのかしら?」
「堕天使族長が物凄く魔力を無駄に放出しながら出ていきましたけど!?」
「あんなに慌てるのめずらしい……。」
心配そうに3対の目に見つめられてたじろぐ。
しかし舞とて自分に何が起こっているのか分からないのだ。
何も答えることができずに黙る。
すると悪い病気かとアリシアたちがさらに騒ぎ立て始めた。
丁度その時、ジェラルドが部屋にやってきた。
「マイ! おめでただと聞いた!」
ニコニコと笑い、ジェラルドが抱きしめてくる。
「お、おめでたって何だ?」
今がチャンスとばかりに、連発されるよく分からない言葉をようやく聞く。
するとジェラルドは一度不思議そうな顔をした後、驚いた表情を浮かべた。
「ディランが言ってなかったのか?妊娠したのだろう?」
「に、妊娠!?」
驚きのあまり叫んだ。
するとアリシアたちが一瞬でその場から消える。
恐らく言いふらしに行ったのだろう。
ま、マテまて待て。
落ち着くんだ、自分。
前にあれが来たのはいつだ?
……あれ?
何か月か来てない?
う、うそだろ!?
一人で百面相をしている舞を見てジェラルドも間違いないと確信を得たようだ。
再び笑みが浮かぶ。
「子供は女の子がいいな。舞に似た。名前はマイリンとかどうだろう?」
「ま、マイリン?」
あまりのセンスのなさに意識が現実に戻った。
いや、マイリンはない。
いくら女の子だとしてもない。
私の名前にりんをつけるとか、恥ずかしすぎる。
おそらくこの世界の人には分からないだろうが、私が嫌だ。
どっかのぶりっ子系のアイドルみたいになってしまうではないか!
思考が失礼な方向にいっているが、舞は気づかない。
「とりあえずマイリンは却下。まだ女の子とも分からないしな。」
「ああ、そうだな。だが私に似た男はやめろ。絶対にかわいくない。」
「そうか?私はジェラルドに似た男の子がいいな。名前はマリウスで。」
歴史書にでてくる初代魔王と同じ名前を言ったところでディランが部屋に入ってきた。
先ほどとは打って変わり落ち着いている。
「盛り上がっているところすまぬが、マイ様は特につわりや貧血等の症状がでてないかえ?」
「ない、な。」
つわりはひどいものだという噂を思い出し、顔色が青くなった。
それに対してジェラルドが貧血か?と血相を変える。
そんなジェラルドを冷たい目で見ながらディランが口を開いた。
「もし、まだそういった症状がでてないのなら安心していいと思うぞえ。そういった症状のピークは8週目から10週目くらいまでじゃ。マイ様はすでに12週に入っておる。人型の魔族ではつわりや貧血がある方がまれじゃからのう。一応聞いたまでじゃ。」
「となると私はそういった症状を一切感じないですむのか?」
「確証は持てないがおそらくそうなるのう。」
「そうか、それは良かった。」
ほっと胸をなでおろすと、ディランが扇で口元を隠す。
「ところでマイ様のお子の種族は何になるのじゃろうな?」
考えてもなかった事を言われて固まる。
そういえば私の種族って何だ?
人?
いや、人ではないだろう。
ジェラルドも魔王という種族はないはずだ。
一体何の種族なのだろう?
「なあ、ジェラルドの種族は何だ?」
思わず質問がこぼれる。
するとジェラルドが驚いた顔をした。
「言ってなかったか?私は淫魔族だ。」
「はっ?」
いんま?
淫魔って淫魔?
夜がしつこいのはそのせいか。
変に納得したが、ちょっと待て。
ジェラルドが淫魔……。
確かに牙ないし、ドラゴンや何かになるわけでもなかった。
しかし淫魔……。
「何かおかしいか?」
「いや、予想外というか……。」
もっとこう、かっこいい種族だと思った。
魔王だし。
淫魔って言ったら悪いが弱そう。
「マイ様は勘違いしておるようじゃが淫魔族は強いぞえ。精神攻撃においては淫魔族を上回る種族が存在しないものだしのう。その他の攻撃手段としても吸血鬼族に少々劣る程度じゃ。そもそもこの国において強弱を決めるのは魔力だからのう。肉体の強弱ではないわ。妾は魔王様よりもマイ様の種族の方が気になるのう。」
「そうだな。舞は一体何という種族なのだろうな?」
2人に見つめられるが、私自身も分からない。
魔力の強い人間?
いやでも魔核があると言われたから違うのだろう。
「うむ、マイ様も分からぬようだのう。東の魔国にも人型の魔族はおるが、恐らくどれともマイ様は違うのじゃろうな。そうなるとどれくらいでお子が生まれてくるか全く分からぬ。一応先ほどのつわりなどの症状については一般的な人型で人型の子を産む魔族のを言ったが正しいかも分からぬ。ただ人もそういった魔族とは妊娠から出産までが同じらしいか、恐らく合ってると思うがのう……。」
「とりあえず様子見ということか?」
「うむ、そうなるのう。申し訳ない。」
「よし、舞は今日から安静な生活だな。ナイフ投げなど持ってのほかだ。」
「えぇー!」
楽しみの一つを奪われて異議を唱えるが黙殺された。
そしてジェラルドがディランに向かって一番気になることを聞く。
「子供は女の子か?」
「それは生まれるまでのお楽しみということで良いのではないかのう?」
ディランは意味深に笑うと退室していった。
「あの様子は女の子だろうな。」
「いや、男の子だろう。」
答えのない無意味な言い争いをしていると、魔王都に祝いを知らせる銅鑼が鳴り響いた。
驚いてジェラルドの顔を見るが、ジェラルドにとっても予期せぬことらしい。
2人で顔を見合わせていると魔族たちからの祝いの声が部屋にまで届いてきた。