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どちらが王妃?  作者: kanaria
番外編
42/45

遅く生まれた伴侶

ミーシャ様からご依頼をいただいた話です。

過ぎ去った日とリンクしています。

フェルディア視点です。

最近何者かがよく結界の近くにいるのは知っていた。

しかしその人物が結界に触れることはないため放置してきた。


放置し続けてどれほどたった頃だろうか。

ふと興味をもったので会いに行ってみた。

すると若い魔族が膝を抱え込んでいた。


「なぜお前は此処に来るんだ?此処に入れない事はいくら小さいとはいえ分かるだろう?」


恐らくこの魔族がよく此処に来る魔族だとあたりを付けて話しかける。

無視されるかもしれないと思ったが、予想外に魔族は答えた。

顔はさらに伏せてしまったが……。


「うん。入るつもりはないから大丈夫。ただ、ここには誰も来ないから。」


「……避難場所として使っている訳か。」


「……。」


まさか此処を逃げ場として利用してたとは驚きだ。

確かに触れたら死ぬような魔法のかかっている結界の近くなど普通の魔族は来ない。

避難場所として使うには適してないとも言い切れないが、まさかこんな若い幼いともいえる魔族が世間から逃げるために使用してるとは衝撃だ。

私が若いときはどうだったかな。

……意外にこの魔族と似たような感じだったかもしない。

魔力が多いせいで周りからやたらと期待されてたために。


なんとなく若い魔族を遠い昔の自分と重ねてしまい、慰めるように頭を軽くたたいた。

すると若い魔族が頭を上げた。


「なに?」


「荒らさないなら結界の中に入るか?ちょうど息抜きをしに来たところだ。」


澄んだ茶色の目に魅了され気づいたらそんなことを言っていた。

今まで結界の中には魔王様しか入れたことがないというのにだ。

その魔王様も結界内の花の様子を見るためだったから入れたようなものだ。


「……、うん。」


若い魔族、恐らくクロスディア家のアーシアが頷いたことにどこかほっとする自分に驚きつつも手を引いてアーシアを結界内に連れていく。

手を引いたのは結界内に安全に入れるためだというのに手を離した時は少し残念に思った。


「ここら辺で良いか。」


此処でしか咲かない花の前で立ち止まりお茶の準備をする。


いくら慰めるためとはいえこの場所に連れてきたのは失敗だったかもしれない。

この花を傷つければ処罰の対象になる。

綺麗な花が咲いているが、若い魔族を連れてくるのには適さないだろう。


場所を変えようかとも考えたがいまさら過ぎるため諦めた。

しかしアーシアは特に花に駆け寄る気配を見せない。

お茶の準備が終わると普通に椅子に座りお茶を飲む。

若い魔族特有の落ち着きのなさが感じられずにフェルディアは安心すると同時に心配になった。


なぜこの子はこんなにもおとなしい?

会話をせずにただお茶を飲む若い魔族は初めてだ。

この子の魂が見える体質がそうさせるのか?


花についての会話をしていてもアーシアに対する疑問が尽きない。

時折傷ついたように潤む目から目が離せない。


この子は何にそんなに傷ついているのだろうか?

魂が見えるということはそれほどの負担になるのだろうか。

私では慰めることもできないのか……?

長い時を生きているというのにいい言葉が出てこない自分が情けない。


そうこうしているうちに日が暮れてきた。

流石にこれ以上遅くなっては家族が心配するだろうと思い、名残惜しい気持ちを押し殺して口を開く。


「そろそろ帰ったらどうだ?暗くなってくるぞ。」


「むぅ、アーシーはもう25歳だから夜出歩いていても平気。」


25歳か……。

クロスディア家に三つ子が生まれたのはつい昨日のようなのに、もうそんなに月日が経っていたのか。

歳をとるとどうも時間間隔が狂う。


そんなことを考えつつフェルディアは笑った。

自分の年齢について話しているとアーシアが悩みを打ち明けてくれた。


まさか初対面でここまで打ち解けてくれるとは思ってもいなかった。

少しでも悩みを薄くできればいいのだが……。


アーシアが傷つかないように細心の注意を払いつつ言葉を紡いでいく。

すると最後は満面の笑みを浮かべてくれた。

もっとアーシアと話しをしたくてペンダントを渡す。

ここの結界を素通りできるように作ったものだが誰にも渡すことなく持っていたものだ。

最後に互いの名前を告げてアーシアは去って行った。


なぜ、なぜ今頃なのだろうな。

私の寿命がもう近いというのに……。

アーシアはまだ気づいてないようだから、この思いは隠したまま旅立とう。

もしかしたらアーシアの伴侶は別にいるかもしれない。

それはそれで嫌だが、私が伴侶であるよりもアーシアは幸せになれるだろう。

本来なら近づくべきではないこともわかっている。

だがそれは私自身が我慢できない。

すまない、アーシア……。

勝手なのは承知の上だが年寄りに最後に思い出をくれ。

もっと若ければ告白もできただろうが、そんなことを考えることすらできない私を恨んでくれ。

一生涯私のことを憎んでくれてかまわないから、だから私が死んだ後に後を追ってくることだけはやめろ。

願わくばアーシアの伴侶が別にいるよう……。


フェルディアはアーシアとお茶をした椅子に深く座り空を仰いだ。

両手で覆われたその瞳からは一筋の雫が流れ落ちた。

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