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どちらが王妃?  作者: kanaria
第3章 自覚編
35/45

6 悪夢と温かみと真実 

「なぜお前なの!?」

「たかだか人間のくせに!」

「魔王妃にふさわしい訳ないわ。」

「後から出てきたくせに!」


いつまでも続くこの誰だか分からない声をこれ以上聞きたくなくて舞は両手で耳をふさぐ。

すると声が止み、美羽が現れた。


「まさか舞が人を殺すような人だなんて思ってもいなかった。失望したわ。もう私に話しかけないで。やっぱりあなたは雨宮家に相応しくない。誰にも似てない顔がその証拠よ。」


美羽は舞を軽蔑した目で見てどこかへと去って行く。


違う!

殺したくて殺した訳じゃない!


舞は暗闇で叫ぶが、その声が空気を振動させる事はなかった。

続いて現れたのはミシェナやアリシアたちだ。


「私たちはマイ様の美しさに魅かれていました。昔のマイ様の突然異世界に放り出されたというのにそれに耐えようとする姿勢がとても輝かしかったです。ですが今のマイ様にその輝きはない。もう侍女を辞めさせてもらいます。」


残念そうにミシェナがそう言い、全員が舞に背を向けて歩いて行く。

これにはもう何も言う事が出来ず、その場に座り込む。

呆然とする舞に追い打ちをかけたのは魔王だった。


「その様な弱い心の持ち主だったとは知らなかった。それでは魔王妃になど望めない。さらばだ。」


一切表情を変えずに言い切り、クマのぬいぐるみと共に立ち去る。

優美な後姿を見せつけて。

その背を最後まで見届け一筋の涙が零れ落ちた時、舞の意識は途切れた。





ん、朝、か……?


窓から差し込む強い光を感じて目をこする。

上半身を起こすと近くにクマのぬいぐるみが見え、夢中になって抱きしめた。

しばらくするとグチャグチャに入り乱れる感情がどうにか収まり、ようやく舞はぬいぐるみを離す。


「ごめん。ありがとう。」


ベットから下りてクマのぬいぐるみをひと撫でし、廊下からすぐの多目的部屋へ移動しようとする。

しかし、徐々に聞こえてくる声に舞は足を止めた。


「…………わ。もう、マイ…………1日……わよ。」


「それ……魔王様はいらっしゃらない。」


「もう魔王様が何をお考えなのか分からないわ。」


「最後に魔王様がマイ様にお会いになられたのは6日前です。仕事が忙しいなんて嘘なのではないでしょうか?」


「そうよね。いくらなんでもあり得ないわ。」


「自分こそが魔王妃になるって吹聴してる女も現れたし。」


6日?

もう魔王が来なくなってそんなに経つのか。

私が思っていたのよりも1日多い。

それに魔王妃になるという女?

という事はやはり魔王には特定の女性がいたという訳か。

いや、最近出来たのかもしれない。


扉をひとつ隔てた先にある普段と同じ声にホッとしつつも胸にモヤモヤがたまる。

そんな不快感を打ち消すかのように舞は扉を力強く開けた。


「おはよう。」


すべての感情を押し隠し微笑むとミシェナたちが驚いた顔になる。

しかしそれは一瞬で次の瞬間にはアーシアが抱きついてきた。


グェ


強く抱きしめてくるアーシアの背中を叩き苦しい事を伝える。

すると腕の力が緩んだ。

息を吐いて緊張をほぐした後、周りを見まわす。

なんとそこではミシェナとアニシアが泣いていた。


な、何があったんだ?

アリシアも目じりが下がってるし。


「目が覚めたのね。よかったわ。」


困惑して眉をしかめる舞にアリシアが声をかける。


「ああ、起きはしたが、どうしてミシェナとアニシアは泣いているんだ?」


「どうして泣いているかって!?そんなのはマイ様が昨日1日中寝ていたからに決まっているじゃないの!」


「あ、アリー姉さまの言うとおりです。今日はもう襲撃を受けた日から2日目です。堕天使族長に診せても極度の緊張のせいで寝ているからいつ起きるかも分からないと言われていましたし。」


アリシアと泣いているアニシアの話を聞いて舞は驚いた。


襲撃を受けたのは昨日ではなく一昨日だと?

しかも昨日は1日中寝ていたのか。

まさかそんなに寝ていたとは思わなかった。

お腹もすいてないし。

だがこの様子だとミシェナたちにかなり心配をかけたようだ。

それなのにあんな夢を見るなんて情けない。

しっかりしなくては。


気持ちを引き締めてミシェナたちに心配をかけた事を詫びる。

するとようやくアーシアが舞から離れた。

それをきっかけにミシェナたちが朝食の準備を始める。


食事か。

昨日、いや一昨日は食べられなかったが大丈夫だろうか?


少し不安になりつつもミシェナたちを見ていると、椅子に座った舞の前に驚きの物が置かれた。


「雑炊?」


「はい、マイ様が以前食べたいとおっしゃられていたのでアリシアたちと作り方を研究してみまして。ただ匂いが少しありますので無理はなさらないで下さい。」


その言葉が届くと舞の心にほんわりとする温かいものが湧き上がって来る。


「ど、どうなさりましたマイ様。やはりお身体の調子が悪いのですか?」


ミシェナの慌てた声に首をかしげると涙で頬が濡れているのに気づく。


ああ、泣いていたのか。

何だろうこの感じは。

今までにないほど嬉しいのに涙が止まらない。


「ありがとう。」


気づいた時には感謝が口から零れた。

そんな舞を見てミシェナたちは目を見開く。

固まっている4人に舞が再び首を傾げると、4人は花が綻ぶかのように笑った。


「そこまで喜んでいただけるとは思ってもいませんでした。もし平気なようでしたらどうぞお食べになって下さい。」


「そうよ。それ作るの苦労したんだからね。」

「できれば食べてほしい。」


「ああ、本当にありがとう。感謝している。」


もう一度お礼を言い、スプーンで口に運ぶ。


懐かしい。

日本にいたころは好きでよく食べていたきのこ雑炊だ。

こちらの世界では米自体を見かけなかったから和食は食べられないと思っていたのに。


ミシェナたちの優しい気づかいに感謝をしながら完食する。

これ以上心配をかけないように頑張ろうと決意を固めていると、ノック音が響いた。

それをきっかけにミシェナが食器を片づけに行き、アリシアが扉を開ける。

すると入って来たのは東の魔国の第3王子だった。


「久しぶりだね。最近体調悪いみたいだけど大丈夫?誰かに襲われたとも聞いたんだけど。」


特に断りを入れる事もなくローラントは椅子に座る。

あまりに自由気ままな態度にアリシアたちが睨む。

しかし舞はそれを目線で制し、ローラントに笑いかけた。


「御心配いただきありがとうございます。体調はおそらく大丈夫だと思います。ただ睡眠が長くなっただけですので。」


「睡眠?それなら気をつけた方がいいかもね。心に負担がかかり過ぎると睡眠時間が長くなる魔族って多いから。」


「そうなのですか。」


ストレスのせいで睡眠が長くなっているかもしれないのか。

そう言えば日本にいたころからストレスがかかると睡眠時間が長くなる体質だったな。

私は魔族ではないとは思うが。

とはいえ今の状況では上手くストレス発散が出来ない。

とりあえず朝起きられるように誰かに起してもらうしかないか。

それで起きれば良いのだが……。


こっそりとため息をついてからローラントを見ると、ローラントはバツが悪なそうな表情を浮かべた。


「あのさ、話は変わるんだけど、ジェラルドがマイのところに来れないのって俺のせいなんだ。ごめんね。こういう時ほど好きな人に側に居て欲しいだろうけど、厄介な情報を持って来ちゃってさ。ジェラルドは寝る間も惜しんで働いてるんだよね。本当にごめん。」


好きな人?

私にとって魔王が?

よく分からない。

確かに居てくれると心強い人ではあるが、好きだなんて恐れ多い。

それに魔王には別に恋人が居るようだしな。

私などでは相手にされないだろう。


とりあえず理解できない所は無視して他に気になったところを聞く事にした。


「厄介な情報とは何でしょうか?お伺いしてもよろしいのでしたら、聞かせていただきたいのですが。」


「う~ん、マイになら話しても大丈夫かな?この部屋は盗聴防止の結界も張ってあるみたいだし。」


ローラントはそう呟くとアリシアたちの方を見る。

しかし今舞には誰かがついていなければならないので部屋から出て行く事も出来ない。

そんな中ミシェナも戻って来た。

状況を把握できていないミシェナは首を傾げている。


「彼女たちは大丈夫です。私の侍女ですし、とても信頼しています。」


「そう?じゃあ、話すけど絶対に他に話さないでね。」


ミシェナたちに念を押すとようやくローラントは舞の方に向き直る。


「今東の魔国が西の魔国との戦争に向けて動こうとしているんだ。だからそれを止めるためにジェラルドが頑張ってるんだよ。まあ、戦争を始めようとしているのは東の魔王本人じゃなくて魔王太子である兄上だけどね。」


「せ、戦争ですか……。」


なんだか大変な事になっていたんだな。

全く知らなかった。

恋人でも出来たのかと邪推をしてしまっていたのが恥ずかしい。

まったく勘違いも良いところだ。


チラリとミシェナたちを見るとミシェナたちも視線を彷徨わせたり俯いたりしている。

そんな一気に暗くなった空気にローラントの能天気な声が響く。


「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。ジェラルドが寝る間も惜しんで働いてくれたおかげで戦争は回避できそうだしね。兄上は魔王太子から降ろされるだろうけど。」


戦争に対して舞たちが不安を感じていると勘違いした発言に部屋の空気はさらに暗くなる。

しかしローラントには舞たちの考えている事が分からなかったようで頬を掻くと退出して行った。

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