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どちらが王妃?  作者: kanaria
第3章 自覚編
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5 報告と危機管理

少しして舞が目覚めたという事を知った吸血鬼族長のシュドルクが舞の居る部屋を訪れた。

未だ舞の部屋は使えないので今居る部屋で対応をする。

テーブルを挟み向かい合う形で座り、まず紅茶で喉を潤した。

一息ついたシュドルクが舞を見る。


「このたびの事は警備が手薄であるために起った事件だ。魔王宮の警備を担っている吸血鬼族と人狼族、ドラゴン族を代表して謝罪する。本当に申し訳なかった。」


頭を下げたシュドルクに舞は驚く。


普通すぎる対応だ。

最初にあった時の失礼な態度はどこへ行った?

いくら初めの態度がわざとだと予想していたとはいえ驚きだ。

これならミシェナやアーシアが以前に言っていた普段のシュドルクが現実味を帯びて来る。

無口かどうかは分からないが。


吸血鬼族長は無礼なものという固定観念が強かったアリシアとアニシアにいたっては壁の近くで口をポカンと開けている。

それを見て少し微笑んでから舞は口を開いた。


「頭を上げて欲しい。別に怪我をした訳でもないし、次にこういう事が起らないように気をつけてくれればそれでいい。こういった襲撃が起るのは不可抗力な気もするしな。」


「すまない。怪我がないのは不幸中の幸いだと思っている。次はもう起る事のないよう、今以上に警備の目を行き届かせるようにするつもりだ。まさかマイ様ほどの魔力の持主を襲うという考えに至る者がいるとは思わなかった。」


頭を少し上げたシュドルクは悔しそうな表情を浮かべて俯く。

そんなシュドルクに舞はここに来た本題を促した。

これによりシュドルクはもう一度舞に謝罪をしてからようやく完全に頭を上げる。


「それでは、まずはこちらが今分かっている事を話させてもらう。そこに出ていなかったことや気づいた事などがあったら言ってもらいたい。マイ様は今回の被害者であり下手をすれば再び狙われる可能性があるためすべてを話す。またマイ様がお目覚めになるまでのようにマイ様を守る立場にいる侍女にも教え続ける。しかし今から話す情報は黙秘事項であるため公言しないで欲しい。」


真っ先に私の知っている事を聞いてくるかと思ったが違うのか。

確かに先に情報を提示されていた方が知っている情報を重複しなくて済むだろう。

どの道すべてを教えるのであれば先に言う方が効率が良い。

とはいえ私自身が知っている事なんてほとんどないが……。

もっとあの時襲撃者について知る事が出来たのではないだろうか。

そうすれば捜査も楽になったというのに。


悔しさから微かに口元を歪めながら舞は頷いた。

舞の表情が歪んだ事にシュドルクは疑問を持ったようだが特に言及することなく情報の提示を始める。


「まず襲撃者の人数は不明、種族はおそらく人間や獣人もしくはエルフ族のような人間の大陸に住む者だ。マイ様の部屋で死んでいた襲撃者の1人はまったく魔力がない人間だった。人間を使ったのは首謀者を特定させないためであると思われる。だが、これにより首謀者は転移もしくは召喚などの魔法が使える上級魔族だという事が分かった。とはいえ首謀者の特定にまでは至っていない。」


そういえば魔の大陸の周りには死の海流があって海から入るのは不可能だったな。

空から入ろうとしても特殊な乱気流があるため魔の大陸につく事はほぼ不可能だ。

となれば転移か召喚が妥当か?

いや、他にも手はあるな。


「なぜ上級魔族と断定するんだ?例えば下級魔族に翼を持つ者がいるだろう。彼らが自らの翼を使い海面すれすれを飛べば魔の大陸に人間を連れて来る事が可能なはずだ。他にも水中を自在に泳げる下級魔族は人間の息が出来るようにさえすれば連れてこられるのでは?」


そう言ってシュドルクを見るがシュドルクは首を横に振った。


「下級魔族は上級魔族で中以上の魔力を持つ者には完全服従だ。反意を持つことなどありえない。上級魔族が計画のために誤魔化して連れてこさせることは可能といえば可能だろうが手間がかかる。出来たとしてもマイ様が召喚された直後から計画を立てないと下級魔族では連れてくることすらできないだろう。」


「そうか。」


そう言えば魔族の本能について教わった時そんな事を言われた気がする。

となると首謀者は上級魔族か。

下級魔族は上級魔族から命を受けて動く事は出来ても自らの意思で私を害そうとは出来ない事になるし。


無意識のうちに自分の唇に触れていた左手を下し、視線をシュドルクに戻す。


「では私が知っている事を話す。襲撃者の人数は恐らく2人だ。1人逃げた。また襲撃の際、彼らは1度も魔法や魔術を使用していない。私が倒した方はどういった武器を使っているのか分からないが、逃げた方はナイフを使っていた。そして服装は黒で全身を覆っていた。唯一出ていたのは目の部分だけだ。逃げた人物の目は銀色をしていた。役に立てなくて悪い。」


「いや、人数が分かっただけでも少しの進展だろう。もし他に気づいた事があったらその都度言って欲しい。」


「分かった。」


気づいた事を話すのは当り前なので頷く。

するとシュドルクはミシェナやアリシアたちを一度見てから今まで以上に真剣な表情になった。


「首謀者が捕まるまでマイ様の安全は確実と言えない。そのため起きて行動する時は侍女の誰かと共にして欲しい。1人は危険だ。また、寝てる時は出来れば寝ずの番を侍女にしてもらいたいのだが、さすがにそれは厳しいと思うので結界を張ってもらいたい。」


1人での行動は禁止か。

仕方がないとはいえ4人に迷惑をかけるな。

あまり部屋から出ないようにしよう。

それに寝る時の結界か。

いや、結界は絶えず張っていた方が良いだろうな。

不意打ちにも対応できるし。

あとでミシェナたちとも話すべきだろう。


軽くため息をつき、少しミシェナたちを見た後シュドルクの話を承諾する。

その様子を見てシュドルクはスッと立ち上がり退出の意を述べ、部屋から出て行った。

それにより部屋に漂っていた緊張が霧散する。


やはり魔の9大貴族と話すのは肩がこる。

まして今回は内容が重かったし。


体をほぐす為のびをするとミシェナたちが寄ってきた。

いまだに茫然としながらアリシアが口を開く。


「まさかあれが吸血鬼族長とか全然信じられないわ。双子の兄弟とかじゃないのかしら?」


「吸血鬼族長が双子とかありえない。そんな事よりマイ様のこれからが大事。」


アーシアはアリシアを睨みつけてから舞を見る。

その言葉でアリシアも頭を切り替えたようで他3人と同じように舞を見た。


「とりあえず私は出来るだけ部屋から出ないようにする。どうしても出なければならない時は誰かしらを連れて行く。あと絶えず物理的な攻撃にも魔法的な攻撃にも耐えられる結界を張るつもりだ。」


「普段から結界を張っておくのは良い事だと思います。ですが結界は部屋にも張っておいた方が良いのではないでしょうか?見られて困る物は置いていませんが部屋を荒らされる可能性があります。」


「ええ、ミシェナの言うとおり部屋にも結界は張るべきね。透視と盗聴、特定の人以外侵入不可とかの。」


確かに部屋にも結界を張る方が良いな。

気づいたら部屋がグチャグチャとか最悪だ。

他にもアリシアの言うように透視や盗聴も気にしなければいけないのか。

めんどくさい。

とは言え自分の命がかかっているのだから仕方がないか。

結界を張るくらいはしっかりやらないといけないな。

ミシェナやアリシアたちにも迷惑をかけるのだし。


「今話に出た結界はすべて私が張る。嫌な事になってすまない。ミシェナたちも身の周りに気をつけて欲しい。私の侍女というだけで危険かもしれない。」


「マイ様が気にする必要はありません。このような事をしようと考えた奴が最低なんです。それに私たちは私たち自身で結界を張るようにします。」


憎しみを込め吐き捨てるようにミシェナが言い、他の3人はそれに頷く。

それを見て胸が温かくなった舞は4人にお礼を言った。

そんな中でふとある事が頭をよぎった。


「あ、ところで部屋はどうなるんだ?魔王妃の部屋に戻るのか?」


「お望みとあれば魔王妃の部屋に戻る事が可能です。あのような事が起った部屋には戻りたくないのではと思いまして。」


確かに今すぐ戻りたい部屋ではないな。

嫌な記憶が刺激される。

あ、だがあれは持ってきたいな。


「あの部屋でなければどこの部屋になるんだ?あとクマのぬいぐるみも持ってきたい。」


「部屋は今居る部屋になります。魔王妃の部屋と違って面会の部屋がなく侍女室も1つしかありません。ですが、風呂とトイレ、寝室に廊下からすぐの部屋はついています。ですから今までと同じように生活が出来るでしょう。クマのぬいぐるみに関しては私が持って来ましょうか?」


「では部屋はここで頼む。クマのぬいぐるみは出来れば自分で持ってきたいのだが……。」


部屋からなるべく出ないと言ってすぐに破る事を言っているがあのぬいぐるみだけは自分で持ってきたい。

ミシェナを信用しているが、あのぬいぐるみは大切だからな。

とは言えやはり迷惑だから持ってきてもらうか?

襲撃のあった寝室に入らなければならないし。


目を伏せて悩んでいるとミシェナが慌てた。


「いえ、ただ例の部屋に入るのは嫌かと思いまして。出来過ぎたまねをして申し訳ありません。」


「謝る必要はない。ただの我儘だ。そこまで考えてくれていたのならばやはりミシェナに取って来てもらうか。」


そう言って軽く微笑むとミシェナが急いでクマのぬいぐるみを取って来た。

持ってきてもらったクマのぬいぐるみを一度強く抱きしめてから風呂に入り、ソファーに置いたクマのぬいぐるみと共に寝室へ向かう。

とりあえず何も考える事なく眠りたかった。

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