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どちらが王妃?  作者: kanaria
第2章 西の魔王宮編
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11 魔王と優しさ

夕食を食べ終え風呂にも入った後、舞はすぐに寝室に向かった。

今日1日いろいろあったせいで疲れが出たのだ。


結局不可侵の庭と草原についてよく分からなかった。

あの場所に不可侵という名が付くのはもう滅んだ花が咲いているからなのだろうか?

いや、それ以上に問題なのが魔法が使えなかったことだな。

ミシェナによると魔の大陸では魔法が生活に必要だというのに。

それに瞬間移動的な魔法が使えれば魔王宮の移動が簡単だ。

だが、魔法が使えなかった原因の魔力とはどういうものだろうか。

どうすれば調節なんか出来るんだ?


もやもやした気持ちのまま扉を開くと、昨日と同じ椅子に魔王が座っている。

どうやら本を読んでいるようだ。


な、なんで此処に魔王が居るんだ!?

しかも、くつろいでいるように見える。

此処は私の寝室だよな……?


驚きと困惑により扉を開けたまま固まった。

なかなか入ってこない事に疑問を持った魔王が本を閉じて舞を見る。


「どうかしたのか?」


「い、いえ、どうして魔王様が此処にいらっしゃるのでしょうか?」


魔王に声をかけられた事により石化が多少解けた舞はぎこちなく口を開く。

すると、魔王の眉間にしわがよった。


「いつまでもそんなところに居ないで椅子に座ったらどうだ、魔王妃候補殿?」


そう言われて一瞬顔をゆがませてから椅子に座る。

扉は舞の手から離れると音もなく閉まった。


「分かりました。ジェラルド様。」


舞が言いかえると魔王が眉間を軽く揉んだ。


「まあ、いいだろう。ところで今日は大変だったようだが、何をしていたのだ?」


……、私の質問は無視か。

それにしても私が今日何をしていたかなんて知っているんじゃないのか?

手に持っている本がそれを物語っている。


舞が本を眺めている事に気づいて魔王は言葉を足す。


「ああ、さすがに異様なほどの魔力が流れてきたのは知っている。魔法を使おうとして失敗したのだろう?」


「……迷惑をかけてしまって、すみません。」


「いや、別に迷惑だと思っていない。私も生まれたばかりの頃はよく屋敷を吹っ飛ばしたものだ。だが、さすがに城でそれをされると困るので人間が魔術を使うやり方が載っている本を持って来ただけだ。役に立つかもしれないと思ってな。」


生まれたばかりで屋敷を吹っ飛ばすってすごいな。

魔族では当り前の事なのか?

それとも魔王が特別なのだろうか?

おそらく後者だろうな。

ミシェナたちもその様な事を言っていた。


まあ、それはいいとして『魔力があれば猿でも使える魔術入門編』というタイトルの本を選ばなくても良いと思う。

よくそんな人間の大陸の本を持っていたな。

人が使う魔術と魔族が使う魔法は似て非なるものだから人の魔術書など魔族には役に立たないというのに。

第一魔族は生まれた時から魔法が使えるから本など必要ないはずだ。


半目になって本の題名を見ると何を思ったのか魔王が本の説明を始めた。


「この本は人間に化けた魔族が書いたもので他にも『ミジンコでもどうにかなる魔術シリーズ』や『ピーマンでも理解できる魔術シリーズ』などがあって人間の間で大人気らしい。名前を付けるセンスは無いが内容は結構良く、魔力の使い方などがしっかりと書いてあるのでシュドルクの一押しだそうだ。」


ネーミングセンスが無いのは魔王も分かっているのか。

これが魔法書的なののノーマルだと言われたらどうしようかと思った。

いや、だがこれがベストセラーってことはこれが一般的なのか?


それにしてもシュドルクが選んだのか。

さすが魔王の騎士だけあって行動が早い。

私が魔力を爆発させてからそんなに経ってないのに。


「そうなのですか。その本はいつまでに返せば問題ないですか?」


「別に返す必要は無い。お前にやろう。」


「あ、ありがとうございます。」


くれるという事に一瞬戸惑ったが断る方が失礼だと思い、ありがたく頂くことにした。


「それで話しは戻るが、今日の午後何をしていたんだ?ミシェナたちが血相を変えて執務室に来たぞ。」


「心配をかけてしまってすみません。不可侵の庭と草原で花を見てました。」


「不可侵の庭とを草原?ああ、そういえば、あの辺りは不可侵であったな。道理でミシェナたちが見つけられない訳だ。」


魔王は納得した顔で頷く。


「不可侵とはどういうものなのですか?入ると殺されると聞いたのですが……。」


丁度良い機会だと思い問いかけると魔王は口元に手をあてた。


「ふむ、不可侵とは簡単に言うと上級魔族の中でも上の上の者が持つ特権と魔王宮に住む上級魔獣により造られた場所の事だ。入ると殺されるというのは特権を持った魔族と上級魔獣が張った結界により死ぬという事だな。」


「その特権とは何なのですか?結界内に私とアーシアが入っても問題ありませんでしたが……。」


死に至る原因は何となく分かったが、特権の内容と自分たちが死ななかった理由がいまいち理解できずに首を傾げた。


「この特権は魔王宮に結界を1つ張ってその場所を保有する許可が下りるというものだ。お前たちが死ななかったのはお前が行った場所がアーシアの場所だからだ。まあ、私やお前であれば魔力が多いので結界が在ろうと無かろうと関係はないと思うがな。」


舞のしつこいとも言える質問に対して表情を少しも変えずに魔王が説明していく。


結界を1つ張る許可か。

だが、上の上の上級魔族と上級魔獣が結界を張ったらいくら大きなこの魔王宮だとしてもかなりの場所に入れなくなるのではないだろうか。

それにあの不可侵の庭と草原がアーシアの場所なら、なんでミシェナやアリシアたちは驚いたんだ?

アーシアの場所だと知っていても良さそうなのに。


分からない事が多くて頭を抱えた舞を見て魔王が微笑んだ。


「お前は魔の大陸に来てから2日目なのだから知らない事が多いのは当り前だ。分からない事はすべて聞けばいい。」


舞は目を見開いた。


やばいだろ、この微笑。

どんな女性だって落ちる気がする。

特に美羽なんてイチコロだ。

男性に興味のない私でさえ動揺させるこの顔とか、もう兵器でしかない。

普段は無表情なのがさらに際立きわだたせるのだろうが…。


「どうかしたか?」


突然おかしくなった舞を見て魔王が声をかける。


「い、いえ、何でもないです。それよりも結界を張る許可が与えられているのでしたら、魔王宮の大半に結界が張られているのではありませんか?それに、あの場所がアーシアの物ならばなぜアリシアたちが驚いたのか分かりません。アリシアたち3人は魔族で珍しく仲の良い姉妹だと聞いていますし。」


魔王の問いかけにより正常な思考回路に戻った舞は慌てて話しを戻す。

それを見て魔王は一度首を傾げてから説明を始めた。


「上級魔族で上の上の者は11人で魔王宮に居る上級魔獣も3体しかいない。それに上級魔族の各族長らは上の上だが結界は自分たちの宮の部屋に張っているため不可侵と付く場所は全部で5か所だけだ。この5か所についても3か所は人があまり行かない場所なのでそこまでは問題ない。」


此処で一度話しを切り、魔王は舞を見た。

特にこれ以上不可侵について疑問が無かったので頷いた。

それに魔王も頷き返し話しを続ける。


「アリシアたちが驚いたのはただ単に知らなかっただけだろう。もともとアーシアは唯一結界を張っていない者として有名だった。そしてこの頃はもう1人特権を持つ魔族が居た。アーシアはその魔族に懐いていて、その魔族の死と同時に結界を引き継いだ。その2、3日後に3人そろって人間の大陸に行ったから教えてなかったのだろう。」


「そんな事があったのですか……。」


予期せずアーシアの過去を聞いてしんみりした空気が漂う。

そんな舞の頭をひとつ撫でて魔王は部屋を出て行った。

舞は驚いてしまい、ただ魔王の寝室に繋がる扉が閉まるのを見ていた。


「男性に頭を撫でられたのなんて初めてだ。」


しばらくしてぽつりと呟いた。

自然と頭の中は魔王でいっぱいになっていた。

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