8 謎の美女たち
翌朝目覚め着替えてから寝室を出た。
するとそこにはミシェナに似た美女がいる。
どうやら食事の準備をしているようだ。
誰だ?
ミシェナに似ているがミシェナの親族だろうか?
と言うかなぜ此処にいる?
まだ覚醒していない頭のせいもあり混乱している舞を見つけて美女が挨拶をしてきた。
「おはようございます。申し訳ございませんが、朝食の準備が整うまで少しかかりますので少々お待ち下さい。」
「あ、ああ、おはよう。別に気にしなくて良いぞ。」
普通に挨拶をしてきたが、誰だか分からない。
どうしてこの人が朝食の準備をしているんだ?
ミシェナやアリシアたちはどうしたのだろうか?
徐々に覚醒していく頭とともに不安が湧き上がってくる。
意を決して美女に聞こうとした時、扉が開きアリシアたちに似た美女が3人入ってきた。
アリシアたちに似た人たちが3人も!?
こっちの世界三つ子は珍しくないのか?
いや、魔女族長の家系は三つ子が産まれやすい遺伝なのかもしれない。
……、本当にそんなのって遺伝で決まったか?
自信が無い。
異世界だからかもしれない。
いや、それよりも彼女たちは誰だ?
舞に気づいた3人は混乱をよそに挨拶をしてきた。
「「「おはようございます。」」」
「ああ、おはよう。」
3人の揃った声を聞きようやく舞の頭は完全に起きた。
ミシェナに似た美女が1人部屋に居たというだけなら、その人はミシェナでないかもしれない。
だがアリシアたちに似た三つ子までいるとなると彼女たちがミシェナとアリシアたちの可能性が高いんじゃないか?
なぜ一晩でここまで成長したのかは分からないが。
頭の中で疑問が整理された時ミシェナに似た美女が話しかけてきた。
「マイ様、朝食の準備が整いました。遅くなってしまって申し訳ありません。」
「いや、急がせてしまったようですまない。ところで君はミシェナだよな?」
丁度いいチャンスだと思い聞いてみると不思議な顔をされた。
しかし次の瞬間質問の意味がわかったようで焦り始める。
「も、申し訳ございません。堕天使族長が元の姿に戻った方が良いとおっしゃられたので……。」
「そうだったのか。実は同じくらいの年齢だったんだな。それなら、仕える身であっても問題が無ければ普通に話してくれないか?」
そう言ってミシェナ達を見ると様々な表情を浮かべていた。
アリシアの嬉しそうな顔は良いがミシェナとアニシアは微妙な感じだ。
アーシアに至っては固まってるし。
人間の大陸は身分が重要視されていたせいで敬語だったが魔の大陸もそういったのが在るのだろうか?
はぁ
何処の国もめんどくさい。
「あらら、アニシアとアーシアはマイ様のお願いが聞けないのかしら?ミシェナも。」
他の三人の様子に気づいたアリシアが笑いながら話しかけた。
それにより復活した3人は口々に述べる。
「そうは言うけど、わたしとマイ様じゃ魔力の差が有り過ぎて敬語なしはきついの。姉さまたちは上級魔族の中で上に入る魔力を持ってるけどわたしは中だから威圧っていうかがひどくて。」
「仕える主に敬語なしは問題です。それに目上の人に敬語を使うのは私の中の決まりの1つでもあります。」
「アーシーはビックリしすぎただけ。元々敬語使ってないし、問題ない。」
「確かにアニシアにはきついかもしれないわね。マイ様の魔力は魔王様と同じくらいあるし。わたくしでも少し辛いもの。」
納得したようにアリシアが頷いた。
だが舞には疑問が生まれた。
「私の魔力量はそんなに多いのか?魔王様と並べるほどに。」
「ええ、多いです。ですから上級魔族で上の魔力の持主でないと普通に話す事は出来ず、中の魔力以下は自然と敬語になります。」
ミシェナの説明に加えるようにしてアリシアたちも口を開く。
「そして、下級魔族は目を合わせる事が出来ないわ。」
「魔獣においても上級魔獣はマイ様と話せますが、中級魔獣はマイ様に近づくのが精一杯で話しなど出来ないでしょう。」
「下級魔獣は気配を感じるだけでにげる。」
何処のボスキャラだ。
仲間内でも恐れられるとか。
魔王様が敬語かどうかに拘ったのもこのせいか?
皆が敬語で話すのに嫌気がさしたとかそんなとこだろう、きっと。
どこか哀愁漂う舞の姿に慌ててミシェナが話題を変えた。
「ま、マイ様、そろそろ食事をなさらないと料理が冷えてしまいます。」
「そ、そうよ。冷めてしまっては味が落ちるわ。」
「そうだな、頂くとしよう。」
2人の慌てた様子に、舞の表情が自然と緩む。
だがなぜかアニシアの顔が暗い。
「アニシア、どうかしたのか?」
心配そうに聞くと、アニシアは躊躇うそぶりを見せる。
しかし、意を決したように舞に聞いた。
「マイ様はわたしが上級魔族で中の魔力量しか持たない事に対してどう思われますか?」
「どう、とは?」
意味が理解できずに首をかしげた。
それとは対照的に意味を理解した3人は俯く。
勇気が少なくなってしまい視線を下に向けながらアニシアは答える。
「わたしは族長の姉妹でありながら中の魔力しか持っていません。族長とこれほど近い血を持っていながら中しか持たない者はわたしだけです。マイ様はわたしを軽蔑なさったり遠ざけようとなさりますか?」
「なぜ、それだけで軽蔑したり遠ざけたりしなければならない? 好きで少ない魔力に生まれてきた訳でもないのに。」
「確かに好きで生まれてきた訳ではありませんが魔力の少ないものが近くに居ると馬鹿にされるかもしれません。」
アニシアのこの言葉に対してアリシアが口を開こうとしたが、なにも言えずに口を閉じた。
ミシェナとアーシアは物言いたげにアニシアを見る。
人間が生まれてきた時の身分ですべて決まる身分社会だとしたら、魔族は生まれ持つ魔力量ですべてが決まる魔力社会か。
私には誰がどれだけの魔力を持つかなんて分からないというのに。
この様子だとアニシアは苦労をして来たんだな。
先ほどの説明からして本能で起きる分人間より性質が悪い。
「そんな事別に気にしない。と言うより、私を馬鹿に出来る者などそう居ないんじゃないか?」
その言葉にハッとして4人は舞を見た。
それに苦笑をしながら舞は続ける。
「上級魔族の中でも上じゃ無ければ私と敬語抜きで話せない。上にも敬語を抜くのに抵抗を感じる者が居る。こんな状態で私を馬鹿に出来るのなんかほんの一握りだろう?別に陰で何かを言われたとしても気にしなければ良い。私はそういうのに慣れているから問題ない。」
「慣れているっていうのも問題じゃないかしら。でも、そんなこと気にする必要は無いと言ったはずよ。。気にしてたら近寄らないわ。それに、わたくしも忘れかけていたけどマイ様に陰で悪口言えるのなんて上級魔族でも中以上でないと無理よ。」
「そうよ。まして本人の前で悪口を言うのなんて上の上じゃなきゃ出来ないわ。聞こえるように言うのも。」
アーシアは何も言わなかったが2人の言葉に頷いている。
そんな4人の様子を見てアニシアは泣きだした。
「す、すみません。嬉しすぎて涙が止まらないので失礼します。」
そう言ってアニシアは部屋から出て行った。
「マイ様、ありがとう。あの子はずっと魔力量の事で陰口を言われ続けてきたのよ。いつも側に居るわたくしたちも一緒に。だからすごく気にしていたの。でも、これで少しは気にせずマイ様の側に居る事が出来ると思うわ。」
「そうですね。ここまで気にしていたというのは予想外ですが、アニシアに対する誹謗中傷は接点の無い私にまで届いていましたから、かなりのものです。拒絶なさらなかった事を誇りに思います。」
「マイ様、かっこいい。」
あまりに褒められて赤くなりつつ舞は食事を取り始めた。
魔族の本能などについて聞きながら。