表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どちらが王妃?  作者: kanaria
第2章 西の魔王宮編
22/45

7 魔王と恋の予感

魔王視点です。

本日の執務が終わり、一息ついた時にふと頭をよぎるものがあった。


そういえばおもしろい魔王妃候補が来ていた。

なんとも変な娘であった。

その上つい先ほどウィングベルトとディランとマリネージュが来てしきりと魔王妃候補を褒めていた。

マリネージュとディランは時々お気に入りを作るからおかしくはないが、あのウィングベルトまで気に入るとは珍しい。

いや、ウィングベルトがお気に入りを作るのは初めてではないか?


魔族の場合自分以外はあまり気にしない所がある上、興味や執着の対象になるのは伴侶以外、魔王と少数のお気に入りだけだ。

伴侶とその他にはかなりの差があるが魔の9大貴族があんなにも気に入るのは初めてだ。


ふむ、会いに行ってみるか。

丁度寝室が繋がっているしな。


魔王は寝室に行き、扉を開けた。

良い作りの扉は音もなく開き、閉まる。

舞の寝室で見た物に魔王は衝撃を受けた。


なんと、小さな存在なのだ。

魔力量は私と並ぶくらいにあるというのになんと儚くてもろい。

一体何があったというのか。

昼の娘の様子からは想像もつかない。


舞に少し近づくと声が聞こえた。

まるで迷子になっている幼子のような舞の声が。


「…………。まあ、帰れたところで母様も父様は喜ばないだろうな。寧ろいなくなった事に喜んでるかもしれない。DNA検査の結果親子だと分かったがそのせいでさらに困っていたし。なにしろ血が繋がっていると分かっても親族から私に対する風当たりは強かったから。」


“DNAけんさ”とはなんだ?

初めて聞いた。

この娘の居た世界に存在していたものだろうか?

そんな事より親族との仲が悪いのか?

いや、この娘が一方的に嫌われているようだ。


「なぜ血のつながりがあると知ってもお前の親族は態度を変えなかったんだ?人間とは血筋にこだわり、家族は大切にするんだろう?」


気づいたら魔王の口から疑問がこぼれていた。

しかし舞は突然の声の驚く様子もなく魔王に食って掛ってきた。


「確かに人間は親族に対して愛情を持つ事が多いでしょう。ですが、どんな事にも例外があるんです。」


やはり人間は難しい。

そういえばシュドルクから人間は身分の高い者ほど心が穢れると聞いた事があった。

それが関係しているのかもしれない。

となるとこの娘も元の世界では身分の高い家の子どもだったのか?

まあ、元の世界の身分はこの世界では関係ないが。

なにしろこの世界に呼ぶ事は出来ても元に返す事は出来ないのだから。


少し哀れに思い魔王は謝罪した。


「ふむ、そうなのか。私は魔の大陸から出た事が無いから分からなかった。傷つけたようで、すまない。」


「……、別に構いません。」


ぶっきらぼうにそう言った瞬間舞の瞳から涙が零れ落ちた。


綺麗だな。

穢れのない涙とはここまで綺麗なのか。

だが、なぜか見てる私まで辛くなる。

泣かないで欲しい。

私以外が原因で泣くなどあって欲しくない。


「なっ、なっ?」


突然舞が声を上げた。

それによって魔王は自分が舞を抱きしめている事を知る。

しかし魔王は腕に力を込めた。

壊さないように注意しながら。


「泣くな。お前が泣く必要は無い。」


「泣く?私は泣いてなんか……。」


舞はそう言うと手を動かそうとした。

しかし魔王に抱きしめられているせいで動かない。

そこで我に返ったようで暴れだした。


「は、離して下さい。何で魔王様が私を抱きしめているんですか!?」


そういえば、なぜ私はこの娘を抱きしめているんだ?

確かに涙を流して欲しくないと思ったが……。

涙を流して欲しくない?

なぜ涙を流して欲しくないなどと?

普段ならば思うはずもない事だ。

私らしくもない。


「なぜ、なぜだろうな?自然とこうなった。」


そうだ、自然とそう思ったのだ。

だがなぜ?

自分の事のはずなのに全く分からない。


魔王が混乱のさなかに居ると舞が小さくため息をついた。


「……、そうですか。では腕を外していただけませんか?この態勢は少し苦しいので。」


そういえば、まだ離してなかった。

これでは娘が動けないだろう。


「分かった。」


そう言って腕を離した。


名残惜しい。

もっと感じていたかった。

この娘のぬくもりを。


そんな思いがよぎると椅子を引く音がした。

それによって魔王は我に返る。


先ほどから考えがおかしい。

疲れているのか?

今宵は早めに寝るとしよう。


そう決めてから近くの椅子に座る。

それを見て舞も椅子に座った。

クマのぬいぐるみを抱えて。


どうやら気に入ったようだ。

シュドルクに相談したかいがあった。

抱えている姿が可愛らしい。


ぬいぐるみを置きに行くのを制して何が欲しいかそれとなく聞いてみると娘が笑った。

口角が少し上がっただけではあったが、確かに微笑んだ。

悲しさの中に歓びが混じっているその表情は消えそうな儚さから一転し、月のような印象をもたらした。


その表情に見惚れながらも話しを続けて行くと娘が失言をした。


人間ではありえないぐらいの謙虚さだろうが取り方によっては我が国の財政が酷いと言っているようにも聞こえる。

まあ、娘の様子から馬鹿にしている訳ではなさそうだ。

だが下手に突っ込めば謝り倒されそうだから適当にごまかすのが良いだろう。

そういえば自己紹介をしていなかった。

ほど良い所で話しを自己紹介に変えるか。


魔王が名乗ると舞も名乗った。

しかし舞にはサブネームがない。


サブネームが無いのか。

無くてもそこまで問題ない。

特に考えなくて良いだろう。


その後もいくらか話しをしたが舞が敬語を止める気配は全くない。


このままでは私の事を魔王様としか呼ばないだろう。

この娘……マイのことは気に入っているゆえ名前で呼んで欲しい。

敬語も使わないで欲しい。

もっと近づきたい。

どうしたものか。


「やめないならお前の事を魔王妃候補殿と呼ぶ事にしよう。」


良い案が浮かばず、なげやりに魔王が言った。


これでマイが“別にかまいません”とでも言ったら逆に距離を感じる。

すごく選択を間違えた気がする。

一度言った言葉は戻せないと分かっているが、これは戻したい。


焦って舞を見ると舞は眉間にしわがよっていた。


もしかして今のは良かったのか?

なぜ?

マイにとって問題となるような事は何一つないはずだが。


魔王の眉間にもしわがより始めた時、舞が一度目を伏せたのが分かった。

決意のこもった眼で魔王を見上げてくる。


「分かりました。2人の時に限り出来るだけ敬語をゆるめ、ジェラルド様と呼ばせていただきます。」


妥協案を出して来たか。

まさかそれほど魔王妃候補殿と呼ばれるのが嫌だとは。

私が嫌いなのか?

確かに突然知らない誰かの妻になれと言われたゆえ仕方がないのだろうが、とても悲しい。

いや、これから互いを知る機会はいくらでもあるのだ。

これから距離を縮めていけば良い。

妻になるかどうかは置いておくとしても。

まあ、このまま私の妻となるのがマイでも良い。

初めて会ったというのに、おかしいほど気に入っている。

だから敬語をやめて欲しいが、これ以上は激しい抵抗に遭いそうだ。


「まあ、それ以上は無理か。慣れてきたら普通に話しジェラルドと呼んでくれ。」


そう言い、ふと時計を見るともう午後の7時を過ぎていた。


時が経つのは早いな。

もう夕食の時間を過ぎているではないか。

そろそろ部屋に戻った方が良いだろう。


そう考えて立ち上がり自分の部屋に戻った。

すると、ちょうど良く扉がノックされた。


「入れ。」


近くにある本を取りつつそう言うと、侍女が入って来て食事の準備を始める。

それを気にもとめず本を開き、舞に思いを巡らせる。


なぜ私はこれほどマイを気にしてるのだろうか?

今までこんな事はなかったというのに。

これが伴侶に対する思いなのかもしれない。

そうでなければ妻にしようなどと考えないだろう。

婚儀というのは伴侶以外とするなど有り得ない。

伴侶を見つける前に恋人という事ならあり得るが。

その上、伴侶であれば突然おかしな感情を持ったとしても全くおかしくない。

まだ確信は持てないが明日シュドルクにでも聞いてみるか。


そう結論づけた時、ちょうど食事の支度が整ったので舞に対しての考えはそこまでにした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ