5 余談の長いお茶会
立ち話は悪いなと思いつつも椅子が足りず舞が困っていると、ちょうど良い所にミシェナが戻ってきた。
なので、椅子と机を用意してもらいお茶会を始めた。
ちなみに椅子と机はミシェナが何もないところに一瞬で出した物だ。
その後ミシェナは退室し、代わりに顔色の悪いアリシアたちが部屋に来た。
……、アリシアたちの顔色が悪いのはミシェナに叱られたせいか?
あまり叱る時間がなかったはずなのにすごい効力だな。
大丈夫だろうか?
3人ともふらついているし。
休ませた方が良いんじゃないだろうか。
舞がアリシアたちを見ていると視線に気づいたアリシアは一瞬目をさまよわせた。
しかし舞の心配そうな表情を見て、大丈夫だと言うようにウインクをとばす。
良かった。
少しは元気があるようだ。
入ってきた様子だけ見ると心が折れた感じだったから心配だったが、ウインクが出来るなら少しは大丈夫だろう。
3人とも顔色も少しづつ良くなっているし、動いていた方が良いのかもしれない。
気がまぎれるし。
私としてもいてくれると大変助かる。
舞の中でひとつ整理がついたところでちょうど良くマリネージュが口を開いた。
何かを考えているようで眉間にしわがよっている。
「ねえ、ひとつ聞いていいかしら?先ほどここに居てお茶の準備をした子はミシェナよね?」
「ああ。さっきいたのはミシェナだが、それがどうかしたか?」
マリネージュが何を悩んでいるのかが分からず舞は聞き返した。
しかしディランが驚いた様子で割り込んできた。
「ちょっと待ってくりゃれ。さっきのがミシェナじゃと?確かに先ほどいた者は昔のミシェナにそっくりだったが、あの様子ではマイ殿の侍女のようにしか見えなんだ。妾にはミシェナが人に仕えるような子に思えぬのじゃが……。」
「わたくしもミシェナは人に仕える子に思えないわ。でもアリーたちもマイの侍女になったみたいだし、完璧にあり得ないとも言い切れないのではないかしら?なぜ侍女になったのかまでは分からないけど。」
「はっ?アリーたちと言うとあの三つ子の事か?あいつらが人に仕えている? 私としてはそっちの方が信じがたいぞ。」
「はぁ、周りを見てみたらどう? 今居るのはどこから見てもアリーたちでしょう?」
マリネージュはわざとらしくため息をつき、ウィングベルトに言った。
ウィングベルトは言葉に従い辺りを見回す。
「確かに似ているが、こんなに幼い姿をあの3人がとるのか?あの3人自体が子供嫌いだったはずだが……。」
「ええ、未だに子供は嫌いだと思うわ。でもあの子たちの場合遊び感覚でしてるんじゃないかしら?」
「遊び感覚?ああ、そういえば人間の大陸に行ったと聞いた事がある。そのために、あの3人は魔王妃候補様を探しに行くメンバーに入っていたぐらいだしな。」
「おお、そういう事じゃったのか!!ミシェナがなぜマイ殿の侍女になったのかやっと分かったぞ。おそらくじゃが……。」
ウィングベルトの言葉で何かをひらめいたディランが突然声を上げた。
だが話すうちに自信が無くなったようで尻すぼみになっていく。
それを気にせずマリネージュが食いついた。
「あら、じゃあ教えてくれないかしら? わたくしは先ほどからその事を考えているのだけどまったく分からないの。正確でなくても良いわ。後でアリーたちには侍女になった経緯を聞くつもりだしね。」
「それならアリシアたちに聞いた方が正しい答えが出ると思うぞえ。妾のはあくまでも予測でしかないのじゃし。」
ディランが困ったように言うがマリネージュは引かない。
「アリーたちはアリーたちの考えがあるだろうしミシェナにはミシェナの考えがあるのではなくて?ディランはこの中で1番ミシェナについて詳しいのだからあなたの答えがミシェナの本心に1番近いと思うの。」
「そこまで言うのなら妾の考えを言うが、本当の事が知りたいならミシェナに直接聞く方が良いぞえ。妾はミシェナがマイ殿にヴィルカイン王国に居たころに仕えていて気に入ったから今でも侍女をしていると思うのじゃ。」
ディランが考えを述べた後ウィングベルトがあごに手を置き口を開いた。
「まあ、ありがちな考えだな。」
「確かにありがちね。でも、だからこそ可能性が高いんじゃないかしら?」
3人はミシェナたちの話で盛り上がっている。
そして舞はその事に違和感を感じた。
そこまで真剣に考えるほどミシェナやアリシアたちが侍女になるのはあり得ない事なのか?
ここまで話しが発展している上に黙っている人たちも耳をこっちに傾けているみたいだ。
まあ、エンゲルは髪のせいで分からないけど。
確かにアリシアたちは侍女として仕えるよりも仕えられるように見えるがミシェナはすごくさまになってるんだが……。
あ、そういえば4人とも王族だったな。
そう考えると侍女というのは考えにくい。
ここで今あり得ないと言っているのもマリネージュとディランと……。
よく分からないのがウィングベルトだが、彼は宰相なのだしミシェナたちと面識があったのかもしれない。
それなら身内の話しというので盛り上がっているんだろう。
他の人は王として王族が侍女になった経緯が気になっているというところか。
舞が状況を整理していく中、マリネージュはがリシアたちに侍女になった理由を聞いた。
それに対して3人は微笑み合うとアリシアが代表として答える。
「わたくしたちがマイ様の侍女になったのはディラン様のおっしゃられた通りですわ。なにしろマイ様は仕えられるべき立場にありながらわたくしたちに名前で呼んで欲しいと言って下さったのですから。」
「その事は確かに魔族受けの良い事じゃが、それだけでそなた達はマイ殿に仕える事にしたのかえ?それではそなた達がマイ殿を主とした理由にちと軽すぎると思うのじゃがのう。」
ティーカップを傾けながら、ディランはアリシアに疑問をぶつける。
すると今度はアニシアが答えた。
「ディラン様のおっしゃっている事はもっともですが、あのような人間たちの中にいれば特に際立って思えます。それにアーシーが綺麗な魂を持っていると言った通りでマイ様はとても素晴らしい方です。1カ月ほど一緒にいて私たちは実感しました。」
「そう、ここまでアリーたちに言わせるならミシェナも同じ理由になりそうね。」
「そうじゃの。まあ、後でミシェナに聞いてみるぞえ。上級魔族が魔王以外に仕えるのは初めての事じゃからとても興味があるのでな。」
「……、切りが良さそうなところでこの話は終わりにしないか?そろそろ本題に入らないとエンゲルがキレるぞ。」
今まで黙っていたヴェルシアが突然口を開いた。
それに反応して他の人たちはエンゲルに視線を向ける。
分からん。
まったくもって機嫌の善し悪しが分からない。
前髪のせいで口しか見えないから表情が見えない。
他の人たちは分かるんだろうか?
「あ、確かにエンゲルの機嫌が悪そうね。ごめんなさい。」
「気づかなかったぞえ。悪い事をしたのう。」
「すまなかった。わざわざ忙しい中来てもらったという事を忘れていた。」
3人はエンゲル謝った。
あれだけで機嫌が分かるのか。
すごいな。
長い付き合いになれば分かるのかもしれない。
舞が感動していると、気を取り直すように宰相であるウィングベルトがせきばらいをひとつして話し始めた。
「余談が長引いてしまって申し訳ございません。本題に入らせていただきたいと思います。まず、マイ様に魔王様と結婚し魔王妃となるつもりがあるのかをお聞かせ下さい。」
「やけに直球だな。まあ、私としてはいくら魔王様が人望のあつい人物だとしてもまったく知らない人との結婚はご免だ。それに、魔王妃というのがどういうものかも分からない。」
舞がそう言い切ると魔の9大貴族たちは話しあう。
大貴族たちにとってマイの返答はまったく考えていなかった事ではないが対処に多少困る答えだ。
少しして決まった答えをウィングベルトが告げた。
「そうですね、マイ様がおっしゃる事は御尤もです。では、1年ほど様子見としましょう。マイ様はその間に魔王様のお人柄と西の魔国に関する事を勉強なさってください。ただ、もし仮に魔王様がマイ様の事を気に入り魔王妃にと望んだ場合マイ様に拒否権は無いという事は覚えておいて下さい。」
「無難なところだな。だが、拒否権が無いというのは痛いな。相手が王だからそれも仕方がないのかもしれないが……。」
今度は舞が少し考え込んだ。
しかしため息をひとつついて頷いた。
「わかった。その条件をのもう。ただ、1年たっても私に魔王様と結婚する気がなく、魔王様にもなかった場合はどうするんだ?」
「それはその時に考えたいと思いますが、おそらく何らかの位にマイ様が付いていただく事になると思います。マイ様の元々居た世界に戻る事は出来ないでしょうから。」
「…………そうか、分かった。」
マイのこの言葉を最後にお茶会は終わりを告げた。