夫の命に関わる未来は、全て変えてみせます
アデライン・ローゼンベルクは、伯爵家の令嬢として生まれた。
思ったことを素直に口にしてしまう性格で、相手の顔色を窺って言葉を選んだり、先のことを計算して立ち回ったりするのは苦手だった。
令嬢としては、少し不器用な性格かもしれない。
けれど、アデライン自身は、それを直そうとは思っていなかった。
そんなアデラインが、ある夜会でローレンス・グランフォード侯爵と出会った。
若くして侯爵となった彼は、整った容姿に穏やかな物腰。
一見すると、誰にでも優しく紳士的な人物に見える。
だが、その穏やかな表情の裏には、計算高い一面があった。
何を考えているのか分からない――。
そんな評判から、未婚の令嬢たちは彼に興味を持ちながらも、深入りすることを避け、遠巻きに眺めていた。
そんなローレンスから、なぜかダンスを申し込まれた。
アデラインは戸惑いながらも、差し出された手を取った。
その瞬間、アデラインの世界は一変した。
「……え?」
今いる場所とはまるで違う光景が頭に浮かんだ。
白い花で飾られた大聖堂。
高い天井から差し込む光。
祝福する大勢の人々。
そして、純白のドレスをまとった自分。
その隣には、黒い礼服姿のローレンスが立っていた。
彼は穏やかに微笑み、アデラインの左手には指輪が輝いている。
――結婚式。
そう理解した瞬間、映像が途切れた。
「……っ」
アデラインは大きく目を見開いた。
目の前には先ほどと変わらぬローレンスがいる。
周囲では何組もの男女が踊っていた。
立ち止まった二人を、踊りながら横目で窺う者も少なくない。
けれど、アデラインは、今見たものを理解できずに立ち尽くしていた。
「ローゼンベルク嬢?」
「……あ」
呼びかけられ、ようやく我に返る。
「どうかしましたか?」
ローレンスが心配そうにアデラインの顔を覗き込む。
ローレンスの青い瞳に見つめられ、何と答えればいいのかわからない。
混乱した頭で考えているうちに、アデラインは思わず口にしていた。
「私たちって……結婚するんですか?」
「え……?」
ローレンスが目を瞬く。
その声に、近くで踊っていた女性が驚いて足を踏み外す。
『痛っ』
『ご、ごめんなさい』
周囲からも、ちらちらと二人に視線が向けられていた。
アデラインの顔が一気に赤く染まった。
「今のは忘れてください!」
慌てて手を離そうとした。
しかし、ローレンスはその手を離さなかった。
「あなたが望むなら」
彼はふっと微笑んだ。
「私は、構いませんよ」
その意味を理解するまで、しばらく時間がかかった。
「ええ!?」
ローレンスの言葉の意味を理解したアデラインの顔はさらに赤くなった。
「……ふっ」
ローレンスはそんな彼女を見て、少しだけ目を細めた。
その瞬間、周囲から思わず歓声が上がり、祝福の拍手が広がった。
それが、二人が夫婦になる未来へと続く、始まりだった。
それから半年後、アデラインとローレンスは結婚式の日を迎えた。
祭壇の前でアデラインの胸の奥が静かに高鳴った。
白い花、高い天井、差し込む光。
そして、自分の隣に立つローレンス。
半年前の夜会で見た光景と何一つ違わない。
隣にいるローレンスと目が合う。
「何だか、夢が叶った気分です」
アデラインは小さく笑った。
あの日見た未来が、現実になった。
ただの偶然なのか。
答えは、すぐにわかることになる。
◇
結婚後、二人は侯爵邸で新しい生活を始めた。
朝食を共にし、仕事へ向かうローレンスを見送り、帰宅した彼を出迎える。
そんな何気ない毎日にアデラインは幸せを感じていた。
「では、いってきます」
支度を終えたローレンスを、アデラインは玄関まで見送る。
いつものように二人は抱き合った。
その瞬間、アデラインの脳裏に光景が浮かんだ。
走る馬車。
激しく揺れる車体。
軋む車輪。
車輪が外れ、馬車が大きく傾く。
ローレンスの身体が宙へ投げ出され、地面へ叩きつけられる。
血に染まり、苦痛に歪む顔。
「……っ!」
アデラインは息を呑んだ。
「アディ?」
ローレンスがアデラインの異変に気づき、声をかける。
「今日は……」
アデラインは青ざめた顔で、ローレンスの手を強く握りしめる。
「絶対に、この馬車に乗らないでください」
ローレンスは玄関の外へ視線を向ける。
そこには、いつものように王城へ向かうための馬車が停まっている。
「困りましたね。今はこの馬車しかありません」
他の馬車は、ちょうど点検に出しているところだった。
「お願いです」
アデラインの必死な表情を見て、ローレンスはしばらく黙っていた。
やがて、小さく息を吐く。
「……わかりました」
「本当に……?」
「本当に」
ローレンスは少し考えるようにしてから、尋ねた。
「馬に乗るのは構いませんか?」
「馬……」
アデラインはローレンスの手を握る。
すると、頭の中に別の光景が浮かんだ。
王城の一室で、ローレンスが会議に出席している。
「……馬なら、大丈夫そうです」
「では、そうしましょう」
アデラインがそう言うと、ローレンスはあっさりと頷いた。
「訳は聞かないんですか?」
「君の予感はよく当たりますからね」
「私の予感?」
「半年前の夜会のことを忘れたのですか?」
ローレンスはそう言うと、馬車へ視線を向けた。
「この馬車に、何か問題があるのですね?」
「はい」
ローレンスは近くにいた執事へ声をかける。
「この馬車を普段より念入りに調べてください」
「かしこまりました」
執事が馬車へ向かい、御者と話をしている。
「では、私は行きます」
「お気をつけて」
ローレンスは馬に跨がると、王城へ向かっていった。
その背中を見送りながら、アデラインは胸の前で手を握りしめた。
どうか、何事もありませんように。
そう願いながら、馬車の点検が終わるのを待った。
しばらくして、執事が青ざめた顔でアデラインのもとへ戻ってきた。
「奥様……」
「どうしました?」
「車輪の留め具が折れていました」
「……!」
「出発前の確認では問題なく見えていたようですが、金属部分に亀裂が入っておりました」
執事は震える声で続ける。
「このまま走っていたら、途中で折れていた可能性があります」
もし、ローレンスが乗っていたら。
アデラインの脳裏に、先ほどの光景が蘇る。
大怪我を負うローレンス。
あれは現実だったかもしれない。
◇
ローレンスを最初の危機から救って以来、アデラインが未来を見ることは増えていった。
ある日は、ローレンスが執務室の棚から書類を取ろうとしている光景。
その直後、棚の上に積まれていた重しの入った箱が崩れ、ローレンスの頭上へ落ちてくる。
またある日は、庭を歩くローレンスとアデラインの姿。
その直後、茂みから飛び出した毒蛇にローレンスが噛まれ、苦痛に顔を歪めて倒れる。
別の日には、ローレンスが会食で料理を口にしている光景。
その料理には、ローレンスが重度のアレルギーを起こす食材が使われていた。
それに気づかず料理を口にしたローレンスは、呼吸ができずその場に倒れ込む。
しかし、アデラインがローレンスに見えた未来を伝え、彼が行動を変えると、予知した未来が現実になることは一度もなかった。
それは、ローレンスがアデラインの言葉を疑うことなく、いつも信じてくれたからだ。
ある夜、アデラインは自分の手をじっと見つめていた。
「不思議だと思いませんか?」
「そうですね」
ローレンスはアデラインの隣に腰を下ろす。
「まさか、君に未来を見通す力があるとは」
「でも……」
アデラインは俯いた。
「私が見る未来は、あなたの命に関わるものばかり……」
そう呟いて、アデラインはローレンスの肩にそっと寄りかかる。
「未来を見るのが、怖い」
アデラインは自分の本音を口にした。
ローレンスはしばらく黙っていた。
やがて、アデラインの肩を抱く。
「君が一人で悩む必要はありません」
ローレンスは穏やかに微笑んだ。
「未来は変えられるのだから」
その言葉に、アデラインは小さく頷いた。
「そうですね」
アデラインは笑った。
「どんな未来だとしても、二人で変えていけますよね」
「ええ。その通りです」
ローレンスがアデラインを優しく抱きしめる。
すると、アデラインの脳裏に光景が浮かび上がった。
王城。
ざわめく貴族たちと覆面の男たち。
床に倒れている国王。
膝をつくローレンス。
その腹部には短剣が深々と刺さっていた。
「……嫌っ!!」
アデラインが顔を覆う。
「アディ」
突然のことに、ローレンスは戸惑ったように声をかける。
息がうまく吸えない。
胸が激しく上下し、指先まで震えてくる。
震える肩に、ローレンスがそっと手を添え、背中を優しくさする。
「アディ、ゆっくりでいい。私を見て」
穏やかな声に促され、アデラインはゆっくりと顔を上げる。
ローレンスには傷一つない。
先ほど見た光景はまだ現実のものではない。
「また、未来が……」
アデラインは少しずつ呼吸を整えていく。
そして、震える声で見えた光景を話した。
アデラインは話しているうちにあることに気づいた。
「ローレンス様の着ていた上着……冬用でした」
予知で見たローレンスは、厚手の濃紺の上着を身にまとっていた。
ローレンスは少し考えたあと、静かに呟いた。
「ということは、半年は先か」
アデラインは不安そうにローレンスを見つめた。
ローレンスはアデラインの手を握った。
「大丈夫。半年も先のことなら、打つ手はいくらでもあります」
その言葉に、アデラインは頷いた。
しかし、その日を境に未来が見えなくなった。
◇
そして、季節は移り、肌寒さを感じるようになった。
その間、危険を予知することはなかった。
アデラインは最後に見た未来を思い出していた。
膝をつくローレンスの腹部に突き刺さった短剣。
せめて、あの未来に近づくものだけでも遠ざけたい。
アデラインができたことといえば、ローレンスのクローゼットから、未来で見た紺色の上着を処分することくらいだった。
それだけでは、ローレンスを守るにはあまりにも心許なかった。
近頃のローレンスは忙しそうだった。
その日も、帰宅したばかりのローレンスに緊急の招集がかかった。
慌ただしく出発の支度をする彼を、アデラインは見守っていた。
「何かあったのですか?」
尋ねると、ローレンスは少し言いづらそうに口を開く。
「少し仕事が立て込んでいてね」
「国王陛下の体調が優れない、というのは本当の話なのですか?」
社交界では、その噂で持ちきりだった。
国王の病状が思わしくない。
そして、王位継承を巡って、貴族たちの間に不穏な動きがあるらしい。
「アディは心配しなくても大丈夫ですよ。今日は先に寝ていてください」
そう言って、ローレンスはいつものように穏やかに笑う。
「……私は、何もできない」
「アディ?」
「ローレンス様の身に、危険が迫っているかもしれないのに」
アデラインは、自分の手を見つめた。
最後に見た、あの未来。
その時期は、もう近いはずだ。
「私もローレンス様の力になりたいのに」
アデラインは、ローレンスの手を強く握った。
「……困りましたね」
そう言いながらも、その表情にはどこか嬉しそうな笑みが浮かんでいた。
「君のそういうところが、愛しいのですが」
ローレンスはそう言って、アデラインの頭を優しく撫でる。
「……危険に晒したくない」
「それは……」
「君は私に未来を見せてくれた。それだけで、もう十分です」
それ以上は何も語らず、ローレンスは馬車へ乗り込んだ。
遠ざかっていく馬車を見つめながら、胸の奥に一つの考えが浮かぶ。
あれから何も見えないのは――。
もしかして、ローレンスがいない未来は、存在しないから。
そう考えると、口に出すことさえ恐ろしくて、身体が震えた。
「……しっかりしないと」
震える身体を抱きしめるようにして、アデラインは自分に言い聞かせた。
◇
王城の評議の間には、王位継承に関わる主要な貴族たちが集められていた。
久々に姿を現した国王の顔色は優れない。
自らの命が残り少ないことを悟った国王は、ついに次代の王を決める時が来たと判断したのだ。
第一王子は優秀で、政務にも長けている。
しかし、独裁的な気質が強く、その強引な手腕を不安視する声も少なくない。
対して第二王子は穏健な性格で、国王の意思をよく理解している。
だが、母親の身分が側室であるため、後ろ盾となる貴族が少なかった。
本来なら、王妃の子である第一王子が王位を継ぐのが当然。
しかし、国王は第二王子の人柄と資質を高く評価していた。
そのため、貴族たちの意見も真っ二つに割れていた。
そして、いよいよ採決が取られようとした、その時。
扉が勢いよく開いた。
覆面をした男たちが、次々と部屋へなだれ込んでくる。
「なっ……!」
貴族たちから悲鳴が上がった。
男たちは瞬く間に部屋を取り囲んだ。
「陛下をお守りしろ!」
ローレンスは叫ぶと同時に、剣を抜いた。
部屋を見渡した瞬間、違和感に気づく。
先ほどまでそこにいたはずの第一王子派の貴族たちが、一人もいない。
「……今日が、その日か」
ローレンスは目を細めた。
第一王子派の貴族か。
あるいは、王妃の差し金か。
いずれにせよ、これは単なる襲撃ではない。
王位継承を巡る争いに乗じた、計画的なものだ。
ローレンスは国王の前に立つ。
襲いかかってきた男の剣を受け止め、弾き返す。
そのまま一歩踏み込み、男の剣を叩き落とした。
別の男が背後から迫る。
ローレンスは振り返りざまに剣を振るい、その男を斬り伏せた。
「ぐっ……!」
男が床に倒れる。
「陛下、今のうちに……!」
国王だけが知る、秘密の抜け道があるはずだ。
国王を逃がし、覆面の男たちを捕らえる。
そうすれば、誰がこの襲撃を企てたのか突き止められる。
この騒ぎも、きっと終わらせられる。
そう考えたローレンスが、再び敵へ向き直り、剣を構えようとした――その時。
「ローレンス様……!」
聞き覚えのある声に、ローレンスは一瞬、耳を疑った。
振り返った先にいたのは、ここにはいるはずのない人物だった。
◇
あの未来で見た場所は王城だった。
国王の姿があったということは、今日がその日なのではないか。
ローレンスに起こることがわかっていながら、屋敷でじっと待つことなどできなかった。
アデラインは御者を急かし、王城へ向かった。
城門には、誰もいなかった。
不審に思いながらも中へ入ると、遠くから剣がぶつかる音が聞こえてくる。
「あっちだわ……!」
アデラインは音のする方へ急いだ。
やがて目に飛び込んできたのは、剣を手にした覆面の男たち。
そして、その男たちと応戦するローレンスの姿だった。
「ローレンス様……!」
アデラインの声に気づいたローレンスが駆け寄ってくる。
「なぜ、ここに……!」
「待っているだけは嫌なの!」
アデラインがローレンスの腕に触れた。
脳裏に、上から振り下ろされた剣がローレンスの身体を貫く光景が浮かんだ。
「上です!」
それを聞いたローレンスがアデラインを抱え、後方へ飛び退く。
剣が二人のいた場所に突き刺さる。
体勢を崩した敵を、ローレンスが蹴り飛ばす。
「右!」
ローレンスは、右側から襲いかかってきた敵の剣を受け止め、弾き飛ばした。
やがて、敵同士が頷き合い、合図を送っているようだった。
ローレンスはそれに気づくと、アデラインの前へ立った。
「君は下がっていて」
ローレンスは、アデラインを背に庇いながら敵の攻撃を受け止める。
剣と剣が激しくぶつかり、甲高い音が響く。
次の瞬間、ローレンスの剣が閃いた。
「ぐっ……!」
一人の男が倒れ込む。
続けざまに襲いかかってきた敵を、ローレンスは次々と退けていった。
やがて、最後の一人が床に倒れる。
辺りに、静寂が戻った。
立っているのは、ローレンスと、最後まで応戦していた数人の貴族だけだった。
肩を押さえている者や、膝をつき苦しそうに息をしている者。
その場にいる全員が、激しい戦いで傷を負っていた。
「私、医務室に行って、人を呼んできます」
「待って、まだ」
ローレンスがアデラインを引き止めようとした、その時。
物陰から覆面の男が飛び出した。
その手には、短剣が握られている。
アデラインは咄嗟に、ローレンスと短剣の間に身を滑り込ませた。
短剣は彼女の腹部へ突き刺さる。
「アデライン…!!」
床に倒れ込んだアデラインを見て、ローレンスの顔から血の気が引く。
「貴様……!」
ローレンスは覆面の男を斬りつけると、すぐさまアデラインへ駆け寄った。
「そんな……アデライン……駄目だ」
「けほっ……!」
咳き込むアデライン。
「必ず助ける」
「……ローレンス様」
「アディ、大丈夫だから」
「ローレンス様!」
アデラインはローレンスの言葉を遮ると、腹部に刺さった短剣を引き抜いた。
「抜いたら駄目だ…!」
慌てて腹部を押さえるローレンス。
しかし、腹部が異様に硬いことに気付いた。
「ね?大丈夫でしょう」
アデラインは、コルセットの上から布を何重にも巻き、さらにその上からもう一枚コルセットを重ねていたのだ。
その瞬間、ローレンスの手から力が抜けた。
「まったく君は……」
「私、あなたの未来を守りたかったのです」
アデラインがローレンスに抱きつく。
「ごほん」
どこか気まずそうな咳払いが聞こえた。
二人が振り返ると、そこには国王が立っていた。
「……感動の再会を邪魔して悪いが、そろそろこちらも片付けなければならない」
国王は苦笑を浮かべる。
「グランフォード侯爵、よくやってくれた」
「陛下がご無事で何よりです」
「そなたたちがいなければ、私はここに立っていなかった」
国王はそう言うと、傍にいた貴族たちへ視線を向けた。
「皆に感謝する」
国王の言葉に、貴族たちは一礼する。
そして、国王は改めて周囲を見渡した。
「今回の襲撃については、徹底的に調べる必要があるな」
その後の調査によって、今回の事件の全容が明らかになっていった。
国王の体調不良の原因は、長期間にわたって少量の毒を盛られていたためだった。
王妃と第一王子派の貴族たちは、弱った国王に後継者を決めるための評議の場を設けさせ、そこで第二王子派の貴族たちを一掃するつもりだった。
第二王子を支持する貴族の中でも、特に大きな影響力を持っていたのがローレンスだった。
そのため、彼は以前から命を狙われていた。
馬車の事故も、執務室での落下事故も、庭での毒蛇も、食事に仕込まれた食材も。
アデラインが予知によって防いできた危険の数々は、偶然ではなかったのだ。
襲撃によって第二王子派の貴族たちを排除し、最後に国王の死を病に見せかける。
そうすれば、王位は第一王子のものになる。
しかし、ローレンスは生き残り、計画は明るみに出た。
その結果、首謀者である王妃と第一王子派の貴族たちは次々と捕らえられ、王位継承を巡る争いは終わりを迎えた。
そして、しばらく経った頃。
王城での騒ぎも収まり、アデラインとローレンスは穏やかな日々を過ごしていた。
あの日以来、アデラインがローレンスの命に関わる未来を見ることは、一度もなかった。
以前なら、未来が見えないことに不安を感じていただろう。
けれど、今は少し違っていた。
未来が見えなくなったことに、不安がないわけではない。
それでも、以前のような恐怖はなかった。
二人で何度も危険を乗り越え、未来を変えてきた。
だから、きっと大丈夫。
未来が見えなくても、二人で選び、二人で歩いていけばいい。
アデラインは、そう思えるようになっていた。
「ローレンス様」
「どうしました?」
「……これからも、ずっと一緒にいられますよね」
アデラインがそう尋ねると、ローレンスは優しく微笑んだ。
「もちろんです」
その答えに、アデラインも微笑む。
そして、ローレンスにそっと寄り添った。
その瞬間――。
アデラインの脳裏に、穏やかな光景が浮かんだ。
侯爵邸の一室。
暖かな日差しが差し込み、窓辺のカーテンがゆっくりと揺れている。
その部屋で、アデラインは赤子を腕に抱いていた。
すぐ隣には、ローレンスがいる。
「……!!」
突然、目を見開いたアデラインを見て、ローレンスが心配そうに覗き込む。
「また、何か見えたのですか?」
アデラインは、しばらく何も言えなかった。
脳裏に浮かんだのは、ローレンスが傷つく未来ではない。
そこにあったのは、穏やかで幸せな光景だった。
そのことに気づいた瞬間、ずっと張り詰めていたアデラインの心に、安堵が広がった。
思いもよらない幸せな未来が見えたことに驚きながら、アデラインは確かめるように口にした。
「私たちに……赤ちゃんが生まれるんですか?」
ローレンスは驚いた表情をして、微笑む。
「あなたが望むなら」
そして、アデラインの耳元で静かに続ける。
「すぐにでも」
その意味を理解した瞬間、アデラインの顔は真っ赤になった。
「……っ」
恥ずかしさに俯くアデラインを見て、ローレンスは楽しそうに笑った。
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