帰路
これは、後にも先にも見なかった、友人の泣き姿を見た少年の話だ。
中学一年の少年とその友人がいた。二人はとても仲が良い。小学校からずっと二人でいた。特にいつもとなんら変わりのない朝を迎えた少年は、友人といつもの待ち合わせ場所で合流し、ともに歩いて登校する。
「増えることはあっても減ることは無いものはなんだ?」と少年が言う。
「なんじゃそりゃ、なぞなぞか」
「おん」
「ガキじゃないんやから」
「わからんからって言い訳すんなよ」
「年齢やろ」
「なんじゃい、知っとるんかいな」
「いや、すぐわかった」
「嘘つけ」
二人はくだらない話をしながら、歩いていく。大体いつもと同じような時間に着いた。
少年とその友人は、特に別れの挨拶もせず、別々の教室へと入っていった。二人は、違うクラスであったのだ。この日も、それぞれの教室で授業に励む。
少年は、新しいクラスでもそれほどに馴染めている。友人の方はというと、馴染めていないことはないが、新学期の不安というものが、少なからず募っていたようだ。少年は何度かうたた寝をしてしまったが、なんとか授業を乗り切った。帰りの道も、二人は共に歩く。その日もいつものように、少年は、学校の玄関で友人が出てくるのを待った。友人が出てきたとき、少年は心臓を誰かに掴まれたように感じた。友人は、泣いていた。瞬時に脳が動き出す。友人は、何も言わず少年の横に行き、早足で歩き出した。少年も早足で横をついていく。少年は思案する。理由を聞こうか。何か慰めることを言おうか。馬鹿にして笑おうか。変わりないように話をしようか。少年は考えた末、何も言わないことにした。少年は友人を見ることもせず、かといって、無視するようでもなく、ただ横を歩き続ける。人の多い学校の近くから遠ざかると、友人の歩みが少しゆっくりになったように少年は感じた。はたから見たらさぞ奇妙な光景であろう。泣きながら歩いている男と、その横を、斜め下をなんとも言えない顔で見つめながら歩く男。しかし、二人の間には確かに、通じあっているものがあった。少年が、友人の涙がだいぶ収まったな、と感じた時にはもういつもの別れ場所に近づいていた。少年は慌てて、どう言って別れようか考え出したが、まとまる前に別れ場所に着いてしまった。急に友人が、泣き腫らした目で少年を見て、口を開いた。
「じゃあな」
少年はなるべく平静を装って
「おう」と言った。
だいぶ後になって少年は友人に涙の理由を尋ねた。少年を腹を抱えて笑った。




