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ネット依存のとある女の話

作者: 夜夏

矛盾の多い女である。二十歳を超えたその女は、いつまでも子供でいたがった。大人というものの特権である酒も飲み煙草も喫みながら、大人というものを嫌がっていた。彼女ははきだめであることを望んだ。はきだめ。誰もの塵箱。それと同時に太陽になることも望んでいた。誰もを照らす太陽。矛盾したそれらが、彼女には同一の価値があるものに思えた。誰かに頼られることが嬉しかった。誰かの中の何気ない、丁度いいものであることを望んでいた。

 大学二年の夏頃から、彼女の貞操観念は一瞬壊れた。大人になりたくなく、華の十七歳で全てを終えたかったという思いを抱きながらも、死ぬ気はなく人生百年生きると思っていた。そのため、一瞬くらい荒んだ人生があってもいいじゃないかと思ったのだ。しかしその瞬間のせいで、彼女は大きく崩れていった。自分の中の可笑しな他人への執着、行為後の虚無感、被害者意識。これらが浮き彫りになり彼女を蝕んでいった。しかしこれも、ある意味はきだめとしての役割であるのではないか。自分が笑顔でなあなあに済まして行けば、誰との関係が崩れることは無い。彼女は、1度できた関係性が崩れることを非常に嫌った。もし崩壊したとしても、ひと月後には忘れるというのに、その経験は何度もしているのにそれを嫌った。それがいつしか汚い執着へと変わっていく。必要とされたいという意識。別に特段過去に虐められたわけでも、誰かに何かを否定されたことがあるわけでもなかった。理由もなくくるこの意識は、彼女の中身をぐちゃぐちゃと掻き混ぜた。

 執着をした。優しい、優しい人だった。はじめ、女が思っているよりも、その人物は彼女に執着をしていた。彼女が誤った時に、その人物は彼女から離れようとした。それは女自身が、その人に執着をしていたことを自覚させられた瞬間だった。彼女は泣かない。泣くことが嫌いである。弱い自分が、何よりも嫌いだった。それなのに泣いた。泣くのが下手くそでありながらも、ほんの数的の涙で枕を濡らしていた。互いの執着は異様であった。1度も会ったことがない、冷静になれば本当に優しい人間かも分からない人物へと、異様な執着を見せていた。長い時を誓った。離れそうになりながらも、決して離れない、貴方から離れてあげないと何度も言いあった。

 しかし、そんなものも呆気なく崩れていく。絶対的な約束などはこの世に存在しない。突如連絡する際の雰囲気が変わった。彼女はすぐにそれに気付く。漸く理由を聞き出した。理由などなかった。ただ、その優しい人間は彼女から離れたがったのだ。彼女はその人物に対して、親のように在りたいと思っていた。親のような、見返りを求めない深い深い愛情を、其の人に与えたかった。まだまだ自身が子供であり、子供でいたいと望んでいるのにも関わらず、我儘を言うことは出来なかった。

 数日、冷戦のようにお互いをただ傍観する日が続く。その人物の調子はとても良さそうだった。病み、彼女に縋っている時とは違う。彼女はこう望んでいた。「自分のことが必要と無くなるくらい、この人の精神が安定し、幸せに、健やかに生きていて欲しい」と。しかし彼女はこうも望んでいた。「自分に縋らなくなるなら、この人はずっと精神を病んでいるままでいい。一生自分に頼って生きていけばいい。離れてしまうくらいならいっそ死んでしまえばいい」と。この2つの意思は彼女を大きく苦しめた。他人と話しているその人を見て、どんどんと気分を害していった。一日の中での浮き沈みが激しくなっていく。割り切ろうとしても、数十分後にはもう気分は落ち込んでいた。

 彼女は自分自身に腹が立った。一人の人間にここまで執着をし、情緒を乱されている自分に腹が立った。また、無責任な言葉を吐き続けていたその人物にも腹が立っていた。「ずっと、絶対、一生」そんなものは無いのである。嘘つきという感情だけに支配されていく。どうしようもないものだった。今これを書いている間ですら、何も解決しないのである。また、その人と距離を置いても生きている自分のことも嫌だった。健康的には生きていない。一日ほぼ何も食べない日もあった。死んでしまいそうな苦しみを抱えながらも生きる自分の体にも嫌気がさす。そして、実際はそこまで傷を負っていないのではないかという思いもある。ただ彼女は自ら傷つき、感傷に浸りたいだけではないかとも思っていた。因みに、まだ5日目である。


 1週間後、その人物はやはり彼女から離れていった。彼女にはもうどうしようもできなかった。ただ彼の生きているSNSのアカウントを見ることで時間を浪費していく。他人と話しているところを見て不快に思いながら、ただただ見続ける。彼女はやはり弱い。もうどうしようも無い。何をしたいのかすら分からない。ただひたすら、あたしはしにたくなった。 

 

 


この女がどうしているのか、自分はもう知らない。

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