19.協力者
翌朝。村が騒がしかった。聞けば早朝に人が路地裏で亡くなっていたらしく、その死因が魔獣によるモノだという事で警備隊がせわしなく出回っていたようだ。
俺はその遺体を見せてはもらえなかったが、それがクロウだという事は直感で分かった。
(あのルベウスダガーは、クロウが王都で……でもなんで)
「ねえ、リン。聞いたかい?」
お使いクエストの草むしりをウルカと共にしていると彼女が話しかけてきた。
「何を?」
「ロカ、助かるそうだよ。薬が手に入ったんだ」
「え?」
「今朝村で人が死んでいただろう?発見したのは僕とカムイなんだ。彼はロカの父親でね。王都まで行って薬を手に入れたらしい。そしてどこかで魔獣に襲われたらしくて……瀕死の彼から薬を手渡され、僕がロカの元へ届けたんだ」
引き抜こうと握る雑草がするり手から抜ける。
「……その人の名前、聞いてもいい?」
聞くのが怖い。でも真実を知るべきだと心が訴えている。ウルカは頷き答えた。
「クロウデス」
名を聞いた時、一気に胸の奥がの心が重くなる。しかしそれと同時に一気に腑に落ちた。
(そうか、だからクロウはダンジョンへ誘ってきたのか……娘であるロカの薬代を稼ぐために)
「……やっぱり、リンは彼の事を知っていたんだね」
やっぱり?その一言を不思議に思いウルカの顔を見上げた。
「彼ね、僕に薬を預けた後にこう言っていたんだ」
『……白魔導士の、嬢ちゃん、には……お前らが必要だ、頼む』
「面識、あったんだね。もしかしてリンが説得して薬を……?」
俺は首を振る。
「私は何もしてないよ。あれはクロウが娘のために、命をかけた結果だ」
「……命をかけた、結果」
いつ死んでもおかしくない危険なダンジョンの中。いつも彼の心の中にはロカや妻がいたのだろう。だからこそ恐れずに進むことができたのかもしれない……人を想う力は大きく、だからこそ彼は強かった。
(でも、俺はパートナーだったはずだ。……なら、俺にくらい話をしてから行けよ)
村を守る。その中には勿論クロウだって入ってたんだ。なのに、勝手にいなくなりやがって。
しかも命が尽きようとしている時に俺の心配なんてしてんじゃねえ。
「……リン……?」
頬を伝う涙。社畜の時に枯れ果てたはずの感情がこぼれ落ちた。
「ウルカ。クロウの死因って、魔獣にやられたって聞いたけど……本当?」
「うん。魔獣だったよ。ただ不思議なことがあって」
「不思議なこと……?」
「傷跡から見るにここらの魔獣にやられたわけじゃないようなんだ」
「どういうこと」
「ここらで生息しているのは獣、鳥類に類する魔獣。けれど彼の傷はいずれにも該当しなくて、付着していた胞子などから植物系の魔獣にやられたのだろうと推測されたんだよ。それで詳しく調査することになって、長老の持つ魔獣の記録書それと照らし合わせてみたんだ。そしたら、どうやら村のダンジョンのどこかにその魔獣は存在するらしい」
……あの日、クロウはダンジョンに来ていたんだ。
薬の件からクロウが王都へ行ったことは間違いない。この短時間で戻ってきてるってことは、おそらく途中の町ででも馬を借り休みなく走り回っていたのだろう。しかも、ルベウスダガー……これを作るには王都付近のダンジョンへ潜り素材を入手する必要がある。
疲労困憊の中、俺を探して村のダンジョンへ入り魔獣に致命傷を負わされた……それで、命尽きる前に薬を家族のもとへ向かい裏路地で力尽きた。
(あの時の血の臭いはクロウだったのか)
「だからね、もしかしたらダンジョンに入れる場所が他にあるのかもしれないって話になって、大人たちが朝から探しているんだ」
「え」
「もし通じる場所があって魔獣が行き来できたら大変だからね。……リン、もしかして何か知ってるの?」
まずい。まだレベルを上げ切っていない。あのダンジョンへの入り口をふさがれたら本気でまずいぞ。もう見つけられてしまったか?いや、結構見つかりにくい場所にあった。大丈夫なはず……けど、見つかればアウト。どうしたら。
「リン、なにか焦ってるの」
「え、いや……」
「目が泳いでるよ。リンはわかりやすいね、ふふ」
くすくすと笑うウルカ。そして彼女はこういった。
「リン、ダンジョンに通じる場所、知ってるんでしょ?」
やっぱりバレたか。なんとなく気が付いているんじゃないかと思っていた。ウルカの勘は鋭いから。
……けど、これに対して俺はどう答える。
「それは……えっと」
「僕たちは仲間、だろ?リン、ずっと前からなにか隠し事をしてないかい?」
息をのむようなウルカの視線。何をどう誤魔化したところで、彼女は容易く嘘を見破るだろう。
「……うん、そうだね。私は隠していることがある。それがダンジョンの入口だよ。私は前からダンジョンへ出入りしていて、だから皆より魔獣との戦闘が得意なんだ。そして、クロウもそこからダンジョンへ入り魔獣にやられたんだと思う」
村が襲われることは言えない。言わないほうがいい。無駄な恐怖と混乱を招くだけだ。皆の知らないところで、知らないまま決着をつけたほうがいい。
「そうか、なるほど……そういう事だったのか」
「でも、その場所はあまり教えたくない。信じてくれるかはわからないけど、あそこから魔獣が出てくる危険性はないんだ」
「そうか。危険性は無い……でも、このままだと大人たちに発見されるかもしれないよ」
確かに。人が一人亡くなっているんだ。村の人たちは今回の原因となった場所を探そうとするだろう。そうなればいくら見つかりにくいあの場所でも、時間の問題だ。
心の中で悩みあぐねているとウルカが口を開きこういった。
「リン……その場所、よければ教えてくれないか。もしかしたら僕が見つからないようにできるかもしれない」
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