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幽霊の手管 十一

 ささやかな後日談。


 取り調べで明らかになった事件の全容は、次の様なものであった。


 空如僧都と棟梁の細君の関係は、今から二年ほど前に始まった。最初は夫の知り合いの僧侶であったのが、激しくなる暴力の中で次第に恋慕へと変わって行き、不義密通の関係が始まった。彼女は禁断の関係にすっかり溺れ、彼もまた火遊びの魅力に取り憑かれ、止められなくなっていった。


 事態が変わったのは半年前。これまで何も気が付いていない素振りだった棟梁が、唐突に妻の周りに男の匂いを嗅ぎ取り始め、その疑いを若いのに向け始めたのだ。乱暴は範囲を拡大し、やがて義弟であるホクロにも強い敵意を向け、八つ当たりを始める様になった。


 ここに至って四人は自らの命を守る為棟梁の殺害を決断し、綿密な計画を立てた。ぼくの宿泊時に決行したのは、親王滞在中に寺で死人が出たという不祥事を表沙汰にせぬ様、寺側が積極的に揉み消しを図ることを計算に入れてのことだったそうだ。事実、初動捜査にあたる兵馬司はこれを自殺と考え、二人の役人を派遣して形式的な捜査を行わせたのみだった。


 廃堂を密室にするという発案はホクロのもので、そうすれば人々は棟梁の自殺を疑わないはずだし、幽霊の噂と合わせて、また恐ろしい怪奇現象が起きただけだと思うだろう、と考えたのである。


 また、廃堂に向かう際、ぼくらを連れて行ったのも計画の一環であり、目の前で扉をぶち破らせることで、つい先ほどまでこの堂が密室であったということを、ぼくに印象付ける為の詐術であった。全てはうまく運んでいた、そのはずであったのに。


「思えば変なこともありましたよ、ええ。彼女の家に─細君の家を訪ねた時に、なんであんなところで、数珠の糸が切れたのでしょうねえ」……


 

 以上、徹底的に計画された今回の事件は大々的に取り上げられ、帝の叡聞にも達した。やがて下された判決は、空如僧都には極刑、また細君も夫を殺害したかどで斬首刑が言い渡されたが、長きにわたる虐待の被害に鑑みて助命され、流刑となった。二人の男に関しては、若いのは絞首刑、ホクロは家族の情を考慮して流刑、という対照的な結果となった。


 また、ぼくは訓練の査閲官として赴いていたにも関わらず、兵馬司の捜査を指揮した越権行為を咎められたが、事件の真相を明らかにした功績と相殺するという形で、公的には不問に処された。だが、拝謁してお詫びを申し上げた際にお叱りを賜わり、次に同様のことがあれば公的な譴責を課すと予告されてしまった。屋敷に帰った時、その話を聞いた『名無し』が腹を抱えて笑っていたので、尻を蹴り上げてやった。


 翌月。ぼくは約束通り、大枚叩いて藍珠を一日買い上げて、湖の蓮見物に出掛けた。満開の蓮華の中艶やかに微笑む彼女の様は、語ろうとしても語り尽くせない美しさであり、ぼくも夢中になってしまう程だった。尚、その時『名無し』は例によってお留守番だったので、機嫌を取る為かなりの苦労を要したことを付け加えておく。


「結局、幽霊は本当にいたんでしょうかねえ」


「居たと思うぞ。何しろ、ぼくのところに直訴しに来たんだから」


「……え?」


 長くなってしまったが、この話はこれまで。


参考資料:杞昀『閲微草堂筆記』

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