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三人の棺担ぎ 四

 また半刻後。林氏とその姉に付き添われて廖阿喜が出頭してくると、早速三人は政庁に通され、知県立ち合いのもと尋問を受けることになった。


 廖は見たところ十五、六の若者だが、どことなくぼんやりとした印象の男で、これが葬儀にまつわるあれやこれやを無事に取り仕切ったとは思われない。だが、見た目だけで人を判断するわけには行かぬ。もしかしたら、良い顔の下にとんでもないものを隠しているかもしれないと思って、ぼくは尋問にかかった。


「名は?」


「廖阿喜です」


「年は幾つだ」


「十六になります」


「王阿雄との関係は?」


「友達です。昔っから仲良くしてたので、亡くなったって聞いた時は驚きました」


 廖は何故自分が白洲に引き出されたのか、全く身に覚えがないという顔だった。聞くところによれば、彼は王阿雄の葬式が終わった後すぐに用向きがあって他の街へ旅に出ており、昨日戻ったばかりなのだという。そのせいで自分の一家にとんでもない訴訟が提起されていることも知らず、突然家に召喚状を持った官吏が押しかけて来たということだった。


「それで葬儀の仕切りを買って出たのか?」


「え、ええまあ」


 急に言葉を濁す廖。何かあるなと思ったぼくは一歩足を踏み出し、厳しく問い詰める。息を合わせて『名無し』がぼくの逆側に周り、二人で彼を挟み込む様にして追い立てる形になった。


「何か隠し事をしているだろう、何もかも有体に申せ。さもなくば拷問にかけるぞ!」


「そ、それは」


「申せ!さては、王阿雄の骸を盗んだのはお前か!この国で他人の墓を暴くことの罪がどのような刑にあたるか、知らぬ訳はあるまい!」


「ち、違いますお役人様!おれはただ、埋葬の手筈を整えただけです!」


「本当にそうか?」


「は、はい。阿雄の知人という人が墓地を手配してくれたので、そこに……」


「その知人とは?」


「お、王子毅さんです。あの人を呼んで下されば、おれが無実だとはっきり証言をしてくれるはずです」


 なるほどな。ぼくはすぐに杜知県に、


「知県様、どうやら王子毅をもう一度尋問する必要がある様です、今度は原告としての聞き取りではございませぬ。墓荒らしの嫌疑者として、勾留すべきかと存じます」


「すぐに手配せよ!」


 流石は杜知県、すぐに人を派遣して王子毅の家に向かわせると、四半刻もしないうちに引っ括って政庁まで連行してくる。ぼくはぎゃあぎゃあと喚き散らす彼を座らせると、腰に下げた佩剣をちらつかせながら、再び尋問を始める。


「さあどうだ、いい加減に泥を吐いたほうがいいのではないか?」


「ば、馬鹿なことを仰らないでください。あっしは原告ですよ、弟の骸を盗まれた被害者で─」


「弟?笑わせる、弔問にも行かず殆ど顔も合わせたことがないやつの為に、態々墓地を買って葬式の手筈まで整えてやったのか?」


「そ、それは、これまでの不義理を詫びるつもりで」


「いじめにあっている親戚を助けずして義理も不義理もあるものか。怪しい奴め、焼鏝を全身に押し付けられたいか!」


「……おい、『名無し』。ぼくが言ってもいないことを勝手に通訳するのはやめろ」


「バレましたか」


「可哀想に、気の小さい男が顔を真っ青にしているじゃないか」


 どうやらこの男、訴状に書かれた理屈ほど堂々たる男では無かった様で、凄惨な拷問をちらつかされると、そのまま泡を吹いて気絶してしまった。これでは殆ど自白した様なものなのだが、規則上本人の直接の自白が無ければ罪に問うことはできない。ぼくは杜知県に言って彼を未決囚の牢獄に入れさせると、ひとまずは明日再尋問することにして、宿舎に帰ることにした。



 その夜。宿舎で諸々のことを(無論誰にも見られずに一人で)終わらせたぼくは、改めて関係者の供述書に目を通していた。すぐ横には読み上げ係の『名無し』が控えていて、うまく読めない字や意味の取れない語句を補足してくれる。


「ふむ、結局阿雄の骸は何処へ行ったのだろうな」


「それについては王子毅の尋問に期待するしかありませんが、やはり拷問にかけますか?」


「ふうむ、拷問は趣味ではない。お前には何度もしてやりたいと思うことはあったが、実際にしたことはないだろうが」


「こっわ。過去最高に怖い真実暴露してくるのやめてくれませんか?」


「別にお前の悲鳴を聞いたとて喜びの感情が生まれるわけでもない……」


 そう軽口を叩きながら供述書と睨めっこを続けていると、ふと彼が呟いた。


「そういえば、少し違和感があるんですけど、いいですか?」


「構わん、なんでも言ってくれ」


「この王子毅の供述書なんですけど、こっちの訴状と見比べると、明らかに筆跡が違いませんか?」


「ん……あっ!」


 言われてみて気がついた。確かに違う、彼が書いたという訴状は明らかに訓練を受けた、読みやすく整然とした字で書かれているのに対し、先ほど書き取らせた供述書の字は酷く癖のあるもので、大変に読みづらい。


「そうなると、彼はこの訴状を誰かに代筆させたのだろうか。自分では良い訴状を書けないから、と」


「そこなんですよ。で、これまたよく見てみたんですが、訴状の末尾にある彼の署名のすぐ横に、もう一人身元保証人の名前が書いてありますよね」


「……確かに」


「この身元保証人の署名と、他の訴状の文章の筆跡、ほぼ合致してるように見えませんか?」


 じっと穴の空く程見つめてみると、確かによく似ている様な気がする。訓練を受けていないぼくにはその程度の認識だが、長い間王府でぼくの筆帖式ビトヘシを務めていた彼のことだ、きっと相応の根拠があっての言葉に違いない。


「分かった、明日この身元保証人─王爵亭とやらについて聞いてみることにしよう」


「わたしは杜知県のところへ行って、この男について詳しく調べてくれる様頼んでみますね」


「頼む、ありがとう『名無し』」


「ええ、どういたしまして」

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