エンディング
ガラカラとシャッターをおろし、祖父が戸締まりをしている。
少し離れた場所で明人と雪乃はそれを見ながら待っていた。
「なんだよ、結局自分ひとりで十分だって。相変わらず気まぐれだなぁ。」
「あの、明人さん、わたしもあるんですけど。聞いてくれます?」
明人は驚いて
「はっ…?なんですか?」と聞き返した。
「映画館あるある。」
「…へっ?」
「わたしいっつも思うんですけど、映画が始まる前に無断録画禁止でストップ映画泥棒って動画が流れるじゃないですか?
あの映画泥棒、かっこ良すぎません?」
「…?」
「警察ランプ人間から逃げまくり、派手アクションからの華麗なる着地!
あれはもう、めちゃくちゃかっこ良すぎるでしょう?!」
「…あぁ~ははっ!確かに!
あの着地は圧倒的主人公感ですね。
普通悪いやつなら悪いやつに見えるように描くはずだけど、格好良くしてる。
映像もめちゃめちゃ凝って作ってますよね。」
「そうなんですよ!
なんかいつも割と真剣に見ちゃうんですよね、私。見応えあるから。」
「確かに、俺も割とちゃんと見てるな~。」
「だから、誰かが気付いてあの映像を無くしたらやだなーって思ってます。」
「確かに無くなったらさびしいな。
でも脅しっぽく暗い感じに作ったら、これから映画を見る楽しみが萎えちゃうから、わざと格好良くさわやかに作ってるかもしれないすよ。」
「なるほど!それは思いもよりませんでした!そうだとしたら、粋ですね!」
盛り上がる二人の元に、笑いながら祖父が戻ってきた。
「さあさ、帰ろうかね。
おやもう12時を超えたな。」
「…すみません!
遅くまで本当に申し訳ないです。」
「いえ、いいんですよ。
とても楽しい夜でした。
お会いしてお話ができて、本当に良かったです。」
「そう言って頂き、ありがとうございます。
私も色んなお話が聞けて、夢のような1日でした。
…あの…明日のチケットは、もう完売なんですね。」
貼り紙を見て、雪乃はさびしそうにつぶやいた。
「やっぱり、本当に閉館してしまうんですか?」
「…はい。」
「…そうですよね。すみません、しつこくて。」
「でも、なんらかの形でこれから何か出来るかもしれない。今、色々と検討しております。
またお会い出来たら嬉しいです。」
「…はい!」
雪乃は笑顔になって大きな声で答えた。
「あの、明日またここに来ます。
外から見るだけですけど。」
「ええ、お待ちしております。」
祖父は笑顔で答えた。
明人も雪乃に言う。
「もし俺を見かけたら声掛けて下さい。
たぶんバタバタしてると思うから、手をふるぐらいしかできないかもですけど。
いそがしさでイラついてたらすんません。
そんで、またどこかの映画館でお会いしましょう。」
笑い合って、じゃあまたとそれぞれの家路へ別れて行った。
***************
休日の朝、目を覚ます。
今日のイベントは前から見たかった映画を見に行くこと。
のそのそと朝食を食べる。
見たい映画ではあるが正直言うと、今少し億劫である。
ちょっと面倒くさい。
家でゴロゴロしていたいという気持ちがある。
でもその気持ちを押して身支度をし、家の外に出る。
外に出ればこっちのもの。
向かうに連れて、だんだん楽しくなってくる。
映画館に着けば、俄然テンションが上がってきた。
外観は昭和テイストで格好良いが、内観はゴシック調で格調高い。
チケットを買って中に進むと、喫茶室がある。みんなゆったりと過ごしていて、羨ましい。メニューもおいしそう。雰囲気も良い。
よし、映画が終わったらここで軽食を取ることに決めた。
シアタールームがある2階へ向かう。
階段を上がると、手摺の装飾が凝ってて驚く。
チャップリンのパネルがお出迎えしてくれる。等身大かな?
ソファーに座って開場を待つ。
ポップコーンとドリンク売ってる。
買おうかな?
でも夢中になると飲食忘れて、結局持ち帰ることになるんだよね。
どうしよっかな…。
…やっぱ買お。
お手洗いも行っとこう。
早めに来といて良かった。
さあ、開場。
段差には気をつけて。
席は…この辺かな?
この映画館は、肘掛けに席番号のアルファベットが、続く数字はドリンクホルダーに書いてあるんだよね。
あった、あった。着席。
どんどん会場内の席が埋まってく。
みんな楽しそうにしてる。
もちろん、スマホの音をミュートにするの忘れません。
あっブザーが鳴って、暗くなってきた。
さあ!映画が始まる!
「本日はお越し頂きまして、誠にありがとうございます。永らくお待たせ致しました。
どちら様も最後までごゆっくりお楽しみ下さいませ。」
〈おわり〉