18 雷鳴
レオはジュードが持ってきてくれた新しい服に着替えて、迎えが来るのを待っていた。人々の命を奪ったと疑われていることに関しては、とても苦しかった。でも仕方のないことだとも思う。村を壊したのは、事実だった。これについては、何か罰があることもあり得た。
でも、すべて正直に話すつもりだった。力のことも話すつもりだったが、これは信じてもらえるかわからない。
「おまえの並外れた動きのことだが、軍の者たちが証言すると言っている」
ジュードが教えてくれた。
「小さな村に住んでいた少年にはありえない動きをしたと」
レオは思わず胸を押さえた。レオの言葉まで疑われないように、手助けしてくれるのだ。
「本部にはすべて事実を把握させたうえで、判断させる」
ジュードは紙にペンを走らせながら言った。ジュードは長椅子の上に書類を積み上げ、仕事をしていた。ルプスの管轄地域で今回のことが起きたので、各方面に報告書をたくさん提出しなければないそうだ。
「おまえはありのままを話すだけでいい」
レオはしっかりとうなずいた。
「本部にも、威圧するような不届き物はいない。もしいたらわたしに言え。潰す」
滑らかにサインするように紡がれた言葉に、レオは思わず首をすくめた。でも、心強かった。
「ジュードさん、ありがとうございます」
「おまえは礼を言ってばかりだな」
「だって、ありがたいんです」
ジュードは少しだけあきれたように、唇の端を持ち上げた。
「でも今は、礼を言われるとうれしい」
「えっ?」
「最初はあまりうれしくなかった」
それはたぶん、今のお礼の方が素直な気持ちで言っているからだ。
レオはなんだか照れ臭くなってうつむいた。
「ジュードさんも、やっぱりすごく優しいです」
レオは言った。ファーガスは、レオが度を越しているからほっとけないんだろうと言っていたけれど。
「数日前まで見ず知らずだったやつに、どうしてこんなに親切にできるんですか」
そんな人のために、軍本部を潰すとまで言うなんてちょっとおかしいんじゃないだろうか。これは素直な疑問だった。
するとジュードは書類を見比べながら言った。
「最初に、ルプスがおまえを保護すると言っただろう」
「はあ」
「管轄地域の市民を守るのは、わたしの仕事だ」
「あっ、そうか」
レオは納得した。
「ありがとうございます」
「ああ」
ジュードはレオのお礼攻撃を華麗に受け流した。レオは笑って、ジュードが持ってきてくれた本に目を落とした。あまり仕事の邪魔をしてはいけない。
ジュードが持ってきてくれたのは、小さい子が読むような昔話の本と、医学の専門書だった。本を持ってきている同僚に募って借りてきてくれたそうだ。試しに医学の専門書のほうを手に取る。分厚くて、重厚な装丁の本だ。紙は古びて茶色くなっており、古い紙独特のにおいがした。開いてみる。文字がぎっしりと並んでいた。思わず心の中でおおう、と声をあげる。これは読めそうにない。レオはさっさと専門書を閉じ、昔話の本を膝にのせた。こちらは医学の本より少し小さくて、薄い。でも古さは同じくらいのようだった。そっと開いてみる。
大きめの文字が並んでいて、絵も描かれている。いろいろなお話を集めた本のようだ。なんだか安心して、ぱらぱらとめくってみた。
手が止まる。
「破壊の、力」
あるお話の中のその言葉に、ひきつけられていた。
そのお話の絵には、崩れた街の中、空を見上げて泣き叫んでいる人が描かれていた。レオはその絵をじっと見つめた。
「その話、知っている」
ジュードの声にレオは顔をあげた。
「今回のことが起こったとき、その話を思い出してしまった」
昔話なのにな、とジュードはつぶやく。仕事の手は止まらない。
「でもおまえが戦うのを見て、また思い出した」
レオは泣き叫ぶ人に目を戻す。
「その話の結末は知っているか」
レオは首を振った。あのときルースは、結末を言わなかった。それにレオは小さいころ聞いたのを忘れてしまっているので知らないのと同じだ。たいてい意味を理解していなかったか、聞いていなかったのだろう。
「いいえ」
レオはそのお話を読み始めようとした。
そのときだった。
すさまじい音が、轟いた。
近い落雷のような音だ。
レオは寝台から転げ落ちる。
見上げると、ジュードがいつの間にかレオと窓の間に、かばうように立っていた。
「えっ、何の音……」
ふたたび、轟音。
その音に殴られたように、呆然としてしまう。
「レオ」
ジュードが低い声で言う。
「寝台の下にもぐれ。じっとしていろ」
ジュードは言うなり、窓から身を躍らせた。