奇態な者
このシリーズも大分お久しぶりですね。
失踪したと思った?ねえねえ失踪したと思った?
残念、続編だ。
なんて、失踪してるシリーズ滅茶苦茶ある私が言えた台詞ではないですねw
PC初心者は皆のバイブスで私の教科書です。
前回以降ちまちまと書いてはいたんですが、中々いい所まで書けなくて出せなかったんですよねえ。
多分次回はシブ版のみRー18になる予定ですがメインカプのすけべではないので・・・ね?
まあ察した方の中でそう言うの読みてえ!って人は次回はシブも読んで下さいませ。
「私はセラ。セラフィーナ・ベッセル。貴方の名前は?」
セラの青い瞳が、真っ直ぐにエメラルドを見つめる。その視線にか彼女の態度にか、青年は戸惑ったように目を瞬かせ、しかしやはり彼女の問いには答えなかった。寧ろ顔を隠そうとするかのように布団を引っ張り、拒絶の意思を示す。
失礼極まるその態度にも、セラは特に不快感を感じる事は無かった。彼女にとっては予想できていたものだったし、助けて貰ったからとすぐ警戒を解くのでは却って心配だからだ。というか、セラが彼の立場でもこうなっていただろう。彼女の場合、手放しに他人を信じられる程真っ直ぐではない、というのがどちらかと言うと多分にある訳だが。
「怪我の調子どう?まだ痛む?」
淡々とした調子で問いかけると、青年がそろそろと布団から顔を出した。そして暫しセラの顔をじっと見、ふるりと軽く首を振って、すぐに布団の中に引っ込める。その返答が嘘だとすぐに察したセラは、鎮痛剤の配合を考え直す事を決めた。
「そう。あ、治療の過程で裸見ちゃったけど、悪く思わないで頂戴ね」
「っ!?」
ついでと言わんばかりにさらりと暴露した事実に、青年は相当驚いたのか、反射的に身体を45度程起こした。直ぐに身体の痛みが蘇ってかまた横たわったが、布団から覗くその顔は耳まで赤く染まっていた。初心な反応に対しそれでも無言を貫くその様が何だかおかしくて、セラは小さく噴き出した。
「な、なにがおかしいんですか!」
笑われた事で余計に恥ずかしくなったのか、青年が若干の怒り口調で、初めて言葉を発した。失礼な態度の割に丁寧な言葉遣いである事を、セラは少々意外に思う。取り合えず、敵と判断された訳ではないらしい。
「ごめんなさい、貴方の反応が余りにも可愛らしいものだから」
「かわっ・・・!?」
事も無げにそう返されて、青年の顔が殊更赤く染まる。端正な顔なのにそれを褒めるような言葉に慣れていないらしいその態度にセラは若干の違和感を覚えつつも、包帯を手に彼に歩み寄ろうとした。
その瞬間、青年の顔の赤みがさっと消え失せて、エメラルドをまた警戒の色に染めた。それを見たセラも動きを止め、一瞬包帯を見下ろしてから、机の上に戻す。それが近付かないという意思表示だと正しく受け取ったようで、警戒の色が若干薄れた。
「今は薬がまあまあ効いてるから痛みもマシでしょうけど、貴方の怪我大分酷いわよ。・・・こんな見知らぬ人間に言われても信用できる訳がないのはわかっているけど、命が惜しかったら下手に動かない方が賢明ね」
極めて冷静に事実だけを淡々と述べる彼女の態度に、青年は若干気まずそうに視線を逸らした。薬で感覚が鈍らされていても、自分の身体が大層やばい状態だという事は悟っているらしい。いくら警戒していたとはいえ、それを治療してくれた彼女に失礼な態度を取ってしまった事を反省しているようだ。
「・・・すみません。助けて頂いて、ありがとうございました」
「礼は要らないわ。目の前で死なれると気分が悪くなるから、それが嫌で治療したまでだし」
警戒そのものは消えないながらも会話に応える気にはなったらしく、青年が謝罪と礼を述べる。尤も、元よりそれらを微塵も求めていなかったセラは、青年が色々考えた上で口にしたであろう言葉を軽く流した。そして、その事に機嫌を損ねたと思って狼狽える彼を置き去りに、部屋を出た。
ーーーーーーーーーー
玄関の扉を開けると、眩い朝の日差しが目を刺してきた。セラは数秒程、腕で作った陰で瞳を守ってから、雲がちらほらと泳ぐ綺麗な青空を見上げる。どうもまた徹夜をしたようだと感慨も後悔も無く思いながら、セラは日課の薬草採りを始めた。
セラは根っからの研究者気質だ。魔法そのものは勿論、魔法薬や通常の薬品、魔道具や魔法の武器・防具の製造、果ては魔物の研究まで、魔法に関わる事なら何でも調べようとする。この庭は、そんな彼女が研究と生活の為に作り上げた植物性魔法素材と薬草、そして野菜の宝庫だ。
適当に今日食すための野菜を幾つか採りながら、セラは考える。どうして彼は、あそこまで自分を警戒しているのか。あの傷は、一体何者に付けられたものなのか。本来、他人を詮索するのは好まないセラではあるが、今回に限ってはそれを突き止めなければならない、と強く感じていた。
彼の態度から察するに、あの警戒態勢は少なくとも彼の本意ではないのだろう。疑う事も失礼な態度を取る事も、彼にとってはそれなりに苦痛である事が表情から窺い知れる。だが、それでもそうせざるを得ない。それ以外に、彼には己を守る術がないのだ。
口元に手を当て思考しながらも、彼女の足は自然と鶏小屋へと向かった。主の来訪に、それが餌の時間の報せであると理解している鶏達が、トコトコと彼女の方へと歩いて行った。小屋の中に生えている野草を夢中で突く雄鶏だけが、まだその事に気付いていない。
(彼は警戒と拒絶を鎧にして、自分自身の心と身体を守ろうとしている。そうするしかなかったのは、誰かが”そうなってしまう”ような事を彼にしたから。その誰かが、があの傷を与えた者かそうでないのかはわからないけど。それでも、一つだけはっきり言える――)
セラの思考を遮るように、雄鶏が高らかに声を上げた。朝が来たのを喜ぶその歌に、セラの意識は現実へと回帰する。それと同時に、他の鶏達は彼女が持つ餌入りのバケツを催促するかのように突き始めた。
「おはよう、皆。ごめんなさいね、今あげるから」
セラがバケツを置くと、鶏達は一斉にバケツへと群がって中の物を貪り始めた。唯一先程の雄鶏だけは出遅れ、しかしどうしても餌を食べたかったのか、無理矢理に他の鶏の間に顔を割り込ませた。結果、鶏の重さが片方だけ偏り、バランスを失ったそれが中身をぶちまける。
勿論、鶏達にとってそんな事などどうでも良くて、土塗れになった穀物を顔色一つ変えず啄んでいた。セラは少々呆れつつもくすりと微笑んで、巣に産み落とされていた卵を拝借し、バケツを残して飼育小屋を出た。
卵と野菜と薬草とを入れた籠を手に、家の中に戻る。すると微かにだが、奥の方から苦し気な呼吸音が聞こえて来た。セラはもしやと思い、調理場に籠を置いて急いで部屋に入った。
青年は先程と同じくベッドの上で寝ていた。だが、眠っているという訳でもなさそうなのにその眼は固く閉ざされていて、時折眉間に皺を寄せながら辛そうに唸っている。どうも薬の効果が切れたらしい。それ自体はセラの予想通りではあったが、効果切れが想定よりも早い事に驚く。
(やっぱり、私が使うような調合薬じゃダメね・・・)
額に手をあてて大まかに熱を計る。解熱剤も恐らく合っていなかったのだろう、触れた所が酷く熱い。触れられたのに気付いてか青年が僅かに目を開けたが、セラの手を振り払うことはせず、すぐに目を閉じた。気力が無いせいなのかある程度信じて貰えたからなのかはセラにはわからなかったが、今はそんな事など些事だ。
配合は一先ず後で考え直すとして、多少でも効果があるならないよりはマシだろう。そう考えたセラは、彼が目を覚ます前に打ったのと同じ薬の入った瓶と注射器を引き出しから取り出した。そして瓶の蓋を開け、中身を注射器に入れようとした。
「あ・・・」
だが、背後でか細い声がしたのを聞き、直前で止めて振り返る。それで青年も声を聞かれた事に気付き、ふいと視線を逸らした。恐怖に染まった瞳を見られまいとしたのだろう、とセラは気付く。毛布の上に投げ出されたままの手が震え強張っていたので、無意味ではあるのだが。
セラは数瞬ほど考えて、注射器を机の上に置いた。その音に青年はびくりと肩を震わせて、恐る恐るセラの方に視線を向ける。恐怖に揺れる瞳は、熱のせいかそれとも別の理由からか、僅かに涙に濡れていた。セラはふうと小さく嘆息して、やはり淡々とした調子で問いかけた。
「飲み薬の方が良い?」
「え・・・」
「注射、怖いんでしょう?」
青年が躊躇うように視線を彷徨わせる。まるで、選択権を与えられたのが不思議で仕方ない、とでも言いたげな態度だ。だが程無くそれが本来は普通なのだという事を思い出したらしく、無言で頷いた。だが同時に、彼はどうしてそんな事を聞くのかという目でセラを見つめていた。
「何よ、別に変な事は言ってないでしょう。私、人が怖がる事を態々する趣味は無いの。同じ効能で服用の仕方が違う薬くらい、直ぐに作れるし」
「す、すみませ・・・」
「どうして謝るの?誰だって怖いのは嫌でしょう。そもそも、私は貴方に頼まれて面倒を見ている訳じゃない。私がそうしたいから、勝手にしているだけなのよ?」
言いながら、セラはてきぱきと飲用の薬品を調合していく。売り物として何度か作った事のあるそれはすぐに出来上がり、先程のとは別の瓶の中に詰められた。あまりにも見事な手際の良さに、青年はぱちぱちとエメラルドを瞬かせた。
「はい、完成。と言っても飲み薬だから、胃に何も無いのに飲ませる訳にもいかないわね・・・。貴方、もう少し辛抱できる?」
「は、はい」
「そう。ちょっと待っていて頂戴」
そう言うと、セラは薬を持ったまま忙しなく部屋を出て行った。本日二度目の置いてきぼりを食らった青年は、再び瞳を瞬かせてキイキイと揺れる扉を見つめた。あの扉、もう結構年だなあという呑気な思考が、一瞬だけ脳裏を過った。——こんなどうでもいい事を考えるのはいつぶりだろう。
「・・・変な人」
ーーーーーーーーーー
数分程すると、セラは湯気の立つ椀が乗ったお盆を持って戻って来た。あまり広くない部屋に、美味しそうな食事の匂いがふわりと広がる。鼻先を掠めたそれに青年は反射的にすんと鼻を鳴らし、セラが持つそれを物珍し気に見ていた。
セラはその様子に軽く首を傾げつつも、お盆を机に置いてベッドに近寄った。青年がまた若干の警戒に身を固くするが、今度は構わず青年の身体に触れた。
「身体、起こすわよ」
青年は元よりセラの意図を察していたらしく、警戒態勢は崩さないながらも大人しく彼女の補助を受け入れた。痛みに悲鳴を上げる身体を半ば無理矢理に起こすのは双方ともに骨が折れる物ではあったが、起きなければ食事も薬の服用も出来ないので致し方ない。
とはいえ、ボロボロの身体は例え上半身のみであっても自力で安定させるのは困難だ。身体を起こした段階で既に酷い脂汗をかいて浅く早い呼吸をしている彼を、セラは壁に凭れさせて何とかバランスを取らせた。少しすると呼吸も安定してきて、通常よりも若干早い程度の物になった。そうなるまで見届けてから、セラは机の上の盆をベッドの上に移した。
目の前のそれを青年はまじまじと眺める。只の卵粥なのだか、そんなに見られると流石に照れ臭くなる。それを誤魔化すようにセラは椀を取ってそれに匙を入れ、彼に差し出そうとした。が、彼の包帯だらけの腕を見てそれを止め、椀を引っ込める。代わりに匙で椀の中身を掬い、彼の口の前に突き出した。
「ちょっと嫌かも知れないけど、口開けて」
セラの言うその言葉の意味を理解できなかったらしく、青年がことんと首を傾げる。だがすぐにセラに従い、口を開いた。食べさせてくれるつもりなのは理解できたようだが、”嫌かも知れない”の意味が分からなかったのだろう。まあ深く突っ込まねばならぬ所でもないし、とセラは構わず粥を注いだ。
「!」
途端、青年はぱあっと顔を輝かせ、頬を緩めた。只の粥を味わうように黙々と咀嚼する姿に、セラはまた可愛い、と思って微笑んだ。口に出ていたのか、青年が一瞬硬直して、顔を真っ赤に染める。
「な、なんですかさっきから。か、可愛い、なんて・・・」
「可愛い物を可愛いと言って何が悪いの?」
「そ、れは・・・うう」
セラがきっぱりとそう言ってのければ、青年は困ったように言葉を詰まらせた。熱のせいで頭が回らないのもあるだろうが、元より口が上手いようには見えない。結局その後何かを口にする事も無く、逃げ道としてセラが差し出した匙をぱくりと口に含んだ。
「熱くない?」
「大丈夫です・・・。美味しいです」
「そう」
そこまで沢山よそった訳でもない椀の中はあっと言う間に空になった。おかわりを持って来るべきか、と思案しつつセラは青年の方を一瞥する。起きているのがきついのか、青年の頭は若干くらくらと揺れていた。満腹かどうかは不明瞭だが、寝かせた方が良さそうだ。
セラは一度調理場に戻って椀を適当に流し台に置き、お湯を沸かしてそれに薬を溶かした。戻ってくるまでの数分で壁にもたれたまま眠りかけている青年を、申し訳ないと思いつつも揺り起こす。
「これ、薬湯。結構苦いけど、飲めそう?」
「だいじょぶ、です」
ぽやあ、と半分眠っている状態の彼の呂律は回っておらず、年の割には高めの声も相まって少し幼い印象をセラに与えた。その一方で、子供なら絶対に逃げ出す程に苦い薬湯を何の躊躇も無ければ嘔吐く事もせずに飲み干した辺りはやはり大人だからなのか、それとも。そこまで考えて、セラは無意味な思考だとそれを止めた。
薬を飲んだ後、またお互いに四苦八苦しながら身体を横たわらせると、数秒と経たない内に青年は眠り始めた。あっという間に深い眠りに落ちて行った彼を見下ろし、暫くは起きないだろうな、と判断したセラは研究机に向き合い、本棚から本を取り出して配合レシピの見直しを始めた。
しかし、天才魔導士である彼女には珍しく、それは難航しているようだった。程無く、セラは諦めるようにレシピを本棚に戻した。そして背後を振り返り、青年の顔を再び見下ろす。
「寝顔はそんなに変わらないのよね・・・」
言いながら、青年の頬を撫でるように髪をかき上げた。すると、それまで長髪に隠れていた耳が姿を現す。彼女のものとは違う先が尖ったそれを見て、セラは顔を顰めた。
奇態な者
おまけスキットその2 「コケッコケッコー①」
※以下の会話は本当はコケコケ言っているだけですが、謎の力で翻訳されています。
ルス『お前達、奴の事は知ってるか?』
クック『知ってる知ってる!ご主人が新しく連れて来たペットのことでしょ!』
ルス『ああ』
ドゥ『ニンゲンみたいな見た目してたわよね。でも、あれって・・・』
スター『え?あれニンゲンじゃねえの?主、オレ等の卵食わせるつもりみたいだけど』
クック『スターは卵産めないでしょ!』
ドゥ『それに、ニンゲンじゃなくても卵は食べるじゃない。蛇とか』
ヘン『ちょっと、やめてよ蛇の話は!アタイ子供の頃に追い回されてからトラウマなんだから!』
ドゥ『それはごめんなさい』
ヘン『まあいいけど~。それにしてもさ~、あの新しいペットちゃん!イケメンだったね~!』
クック『わかる!でもどっちかというと可愛い感じで、何というか守りたい感じ!』
スター『そうかあ?なんかナヨナヨしてて弱そうだぞ』
ルス『お前、あれが弱そうに見えるのか・・・』
スター『ほへ?』
ドゥ『ルス、止めときなさい。鈍感さと呑気さがスターのいい所よ』
ルス『それには全面的に同意する』
スター『何かよくわかんねえけど、お前らがオレを馬鹿にしてるのは何となくわかるぞ・・・』