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三浦天皇

 南北朝時代、皇統はしばらくの間、大覚寺統と持明院統の二つに分かれた。

 大覚寺統の後醍醐天皇は鎌倉幕府を倒し親政を始めたものの、足利尊氏の謀反に会い、比叡山へと逃れて抗戦する。しかし状況は芳しくなく、天皇は一計を案ずる。天皇には多くの皇子がいたが、尊良親王に譲位し、これを正統として、恒良親王や護衛の武将らとともに北陸へ逃した。この時、三種の神器も一緒に持たせている。そして後醍醐天皇は比叡山を下りて偽の三種の神器を足利軍に渡した後、逃走して吉野山を拠点とする(南朝)。そののち、足利軍を欺くために副統として義良親王に皇位を継がせた(後村上天皇)。この偽装工作が上手く行き過ぎたため、副統の天皇が正統の南朝の天皇であると歴史上では語られるようになった。

 この副統の子孫が熊沢家で、正統の子孫は三浦家なのだという。


 明治37年、愛知県に生まれた三浦芳聖は裕福な家の子供であったが、父が事業に失敗して破産したのち、体調を崩して亡くなったことから、寺へと預けられ修行の身となった。そして少年時代の彼は通常の学業の他に宗教関連ひいてはオカルトの知識に興味を持つようになっていったようだ。

 彼は大正13年、父の11年目の命日に父の遺言を元に三浦家の家系図および代々伝わる秘伝を探り当て自分が南朝の子孫であることを知る。また「神風串呂(しんぷうかんろ)」なる秘術を知る。

 この神風串呂というのはいわば占いで、占いたい事柄に関係する場所を2つ選び、地図上でそれを結ぶとその直線上の地名に意味のある結果が現れるというものだ。ただし、結果を解釈するには霊示や神示を得なければならないらしい。

 それから彼の人生観は変わり、皇道派軍人らが主宰する皇国維新運動に参加するようになる。その傍ら、神風串呂を研究して自分の先祖の御陵の探索活動もしていたようだ。明治44年に天皇の正統は南朝とされており、維新には南朝皇胤が待ち望まれていた背景もあった。同時期にやはり南朝皇胤の可能性がある熊沢家が積極的な活動を行っている。

 昭和4年に三浦は、伝手をたどって自身の持つ三浦家の家系図を田中光顕伯爵に見せて本物かどうか鑑定してもらう。田中伯爵はそれを本物と判断。だが、これを発表すると不敬罪で極刑になるかも知れないと告げる。しかし三浦は、自分こそ当の子孫本人であるのだから極刑覚悟で発表すると言い出す。すると田中は、そんな彼にとある秘密を打ち明けた。


 実は明治天皇は孝明天皇の子ではない。幕末に明治新政府の要人が、朝廷と幕府の協調路線を望んでいた孝明天皇を暗殺し、長州藩に密かに匿われていた南朝の子孫の少年を孝明天皇の皇子・睦仁親王だということにしてすりかえ、天皇(明治天皇)として即位させたのだ。


 三浦はその話に驚愕したが、ならば現在はもう南朝の世なのだと知り、名乗りを上げることをやめた。


 ――と、ここまで書いてきて何だが、南朝の正統・副統や明治天皇すり替えの話は三浦芳聖自身が言っているだけの話であり傍証が何もなく、きわめて信憑性が薄い。中には根拠が神風串呂の結果だというだけのものもある。


 昭和30年頃になると、三浦は政治家や宮内庁やマスコミに皇居移転の要請書を送りつけた。彼の行った神風串呂の結果に依ると、天皇は狸に祟られているからとのこと。だがそのような要請は当然無視された。しかしマスコミが面白がって彼を取り上げたため、それなりの有名人になったらしく、出版した神風串呂や南朝秘話に関する本は売れて、彼の開いた神風串呂の道場にも多くの門下生が集ったようだ。

 三浦はそれらの収入で不自由のない生活を送り普通の家庭を築いて昭和46年に亡くなった。

 

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