白仁王
昭和天皇の崩御と前後した頃、全国各地の中小企業に上品な物腰の男が訪ねてきて社長に以下のような話を持ち掛けてきた。御上(天皇)の権限により、皇室の財産から優良企業に対して数十億の融資を行うつもりである。その取り仕切りを昭和天皇のご落胤である白仁王こと白嶌誠哉が行う、と。
初めに言っておくと、これは全くの詐欺であるのだが、詐欺グループの弁舌がとても上手かったためか、これに騙される社長は250人にも及んだのだという。社長たちは詐欺グループに融資の契約の手数料や印紙代、保証金といった名目で数百万もの金を渡してしまったそうだ。
社長たちは契約を結ぶ場で、白仁王から賞状や勲章を与えられ涙した。中には白仁王のことを「陛下」と呼ぶ人までいたそうだ。白嶌誠哉は皇族と全く関係のない、奈良県で借家に住むただの老人で、詐欺グループのリーダーでもなかったのだがその落ち着いた態度は対面した人を疑わせなかった。賞状の菊花紋の花弁の枚数が少ないのでは、と指摘する人も現れたが「私のような者は、正式な皇室の家紋を使わせてもらえないのです」と答えられ納得させられてしまったのだという。
いつまでも融資金が振り込まれず、詐欺だと気付いた社長たちは警察に被害届を出した。詐欺グループが逮捕されたのは平成4年である。ところが逮捕後も白仁王を信じる人は多かった。宮内庁が真実を隠ぺいしたのだと思い込む人もいたのだという。そして白嶌誠哉本人もまた、長いこと演技を続けてきたせいで自分が本当に白仁王だと思い込んでしまったと(本当か嘘かわからないが)言われている。