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短編シリーズ

その人は図書室で小説を書いていた

作者: デンセン


 私は図書委員。


 仕事は貸出と返却された本の整理。後は掃除と施錠ぐらいか。


 仕事はつまらない。


 たいして本が好きなわけではない。なんとなく図書委員が楽だと思ってなった。


「この本を借りてもいいですか」


 ある日、彼は現れた。


 光が当たると赤く見えるサラサラの髪。線の細い顔なのに身長は高そうだ。ただ目が死んでいた。表情もいつから動いていないかと思えるぐらい無表情だ。


「あ、はい。お預かりしますね」


 彼が渡してくれた本の貸し出し手続きをする。


 本は普通のハードカバーの小説だった。


「どうぞ返却は一週間後までです」

「ありがとうございます」


 彼はペコリとおじぎすると、そのまま貸し出しカウンターの前にあるテーブルに座った。


 ああ、ここで読むんだと思った。

なら別に借りなければいいのにと手間がかかった分イラッとする。


だけど彼は読むことなくカバンの中に本をしまい、原稿用紙を数枚と筆箱を取り出した。

それと黒縁のメガネをかける。


カリカリと数行書いては消しゴムで消し、また書いては原稿用紙一枚をそのままカバンにクシャクシャにして突っ込んだりした。

閉館時間になると失礼いたしましたと私に言って去って行った。


 それから彼はたまに来ては本を借り、カウンター前のテーブルで原稿用紙に何かを書く。


 いつしか彼が来ることが楽しみになっていた。


「何を書いているんですか」


 ある日、私は我慢できなくて彼の本の貸し出しの手続き中に聞いてみた。


 彼は少し驚いた顔をしていた。


「いや恥ずかしながら小説を書こうとしていたんですよ。昔、書きたかったなというのを思い出して」


 照れくさそうに笑う彼。


「でも上手くいきませんね。全然書けないし、自分でも何を書きたいのかよくわからなくなっていってます」


 そうか彼は小説を書いていたのか。


「じゃあ、完成したら私に読ませてもらえませんか」


 なんだろう勝手に私の口が喋っていた。


「全然書けてませんよ」

「待ちます」

「字が凄く下手です」

「読めればいいです」

「途中で止めるかも」

「それは最後まで頑張ってください」


 彼は一つ大きく息を吐いた。


「わかりました。期待しないで待っててください」


 そう言っていつもの定位置で書き始める。


また同じ日が続いた。


ある日、私は質の悪い風邪を引いた。

学校でも流行っており、一週間休むことになった。


久しぶりに登校する。

図書室も久しぶりだ。


彼が来るのを待つ、今日は来ないかもしれないが待つ。


残念ながら彼は来なかった。


閉館時間になったので片付ける。


貸し出しカードを整理しようとしたときに、カウンターにある本立てに原稿用紙が入るぐらいの茶封筒があった。


慌ててそれを取る。

なぜなら私の名前が書いてあったからだ。

たぶん彼だ。

名前を教えていないけど絶対だ。


開けて中身をだすと彼が書いていた原稿用紙だった。


じっくりと読む。

字は下手だったけど読めないことはない。


内容は優秀な彼女に釣り合おうとする少年の物語だ。

悩み苦しみ彼女には打ち明けられず頑張る少年の話だ。

彼女との縁が切れかかる寸前に二人が自分の想いを話し合う。

最後はお互いがボロボロになりながらも幸せになるハッピーエンドだった。


文章は稚拙で誤字脱字は多い。

誰が見ても馬鹿にされるだろう。


だけど私だけは感動する。


最後に書かれていた一文。


私の心残りです。書き終わってもそのまま捨てるつもりでした。あなたが読みたいと言ってくれて嬉しかったです。最初で最後の読者様へ感謝を。


この小説は私だけが読める大切な小説なのだ。


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― 新着の感想 ―
[一言] ご返信ありがとうございます なるほど、そうでしたか どうもタイムリープものが苦手で 申し訳ないですが“俺の過去は”は まだ読んでおりませんでした それでも十分、独立した物語として 面白い…
[良い点] 書きあがった小説を直接やり取りするのではなく 間接的に渡しているところがいい 小説の作者君がどんな気持ちで 本立てに封筒置いたのかなと想像してしまう [気になる点] 小説の内容は周平と湊で…
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