大陸暦1976年――04 衝撃の事実
フラウリアが修道院で治療学の授業を受けるようになって、半年が過ぎた。
最初は緊張していた多人数での授業も、今ではもう気負うことなく自然体で受けることができている。授業に関してもベリトのお陰で問題なくついていけているし、それどころかよく理解していると先生に褒められることもあった。
また、これまであまり関わることがなかった同学年の見習いと、実技を通して接する機会が増えたことは、フラウリアにとっても新鮮で楽しいことだった。
だが、その楽しい授業の中でもふいに、寂しさがよぎることがあった。
去年までこの時間は、ベリトと一緒だったのだと考えてしまうためだ。
修道院で授業を受けるようになってからというもの、当然のことながらベリトと関わる時間はめっきりと減ってしまった。そうなってしまうことは、ベリトに『来年からは授業に合流できるな』と言われた時点で分かりきっていたことだった。
だからあの時、フラウリアは素直に喜ぶことができなかった。
勉強が追いつけたことは確かに嬉しく感じていたのに、それよりもベリトとの授業が終わってしまう寂しさのほうが勝ってしまったのだ。
それでも変に思われないように表情だけは作ったが、おそらくぎこちない笑顔になっていたことだろうと思う。自分は気持ちが顔に出やすいから。
ただ、幸いだったのは、去年に引き続き課題を届ける役目を担当させてもらえたことだ。
なので週に二回は、短くも一緒の時間を過ごせてはいる。
全然、会えていないわけではない。
だから寂しさを感じた時には、少しでも話ができて顔を見られているのだから、それだけでも幸せなことだ――と思うようにしていた。
しかし、そうして維持していた気持ちは、ひょんなことから瓦解してしまうことになる。
それは治療学の授業後、教室でアルバと二人、部屋に課題を忘れて取りに行ったロネと、それに付いて行ったリリーを待っている時のことだった。
「――半年だな」
アルバの言葉に、フラウリアは「え」と聞き返した。
意味が分からなかったからではない。これからベリトに会えることに心が浮きすぎていて、アルバの言葉自体が耳に入っていなかったからだ。
「卒院まであと半年だなって」
アルバは温かな苦笑を浮かべて言った。それで聞こえていなかった理由に気づかれていると分かったフラウリアは、羞恥で耳が熱くなる。それでも、なるべく平静を装って答えた。
「そうですね」
見習い六年生であるフラウリアたちは今年で卒院が決まっている。
そして来年の初めに行なわれる卒院式で、正式に修道女として認められるのだ。
その後は星王国、もしくは他国の星教会や星教関連の施設に従事することになる。
「残念そうじゃないな」
アルバは意外そうに眉を上げた。
「え、どうしてですか?」
意外なのはフラウリアも同じだった。
確かに自分は修道院での生活が好きだし、来年にはみんな離ればなれになると思うと寂しくも感じる。だが、それ以上に一人前の修道女であり星教の癒し手――治療士になれるということは、それが一つの目標であったフラウリアにとっては喜ばしいことだった。そのことはアルバにも話したことがあるので知っていると思うのだが、違う意味なのだろうか。
「いや、クロ先生にこれを持って行けるのもあと半年だから」
アルバはそう言うと、フラウリアの持っている課題に目を向けた。
「これを、持って行けるのも、あと半年」
言葉をなぞりながら、フラウリアも手元の課題を見る。
見習いだから授業があり、授業があるから課題が出されて、そしてそれを持って行くのが自分の役目で。
けれど卒院してしまえば、その日々は終わりを告げる。
――私が、ベリト様のもとへと行く理由が、なくなってしまう。
そんな当然のことを、フラウリアは今の今まで考えもしなかった。
「まぁでも、配属先が星都なら会いにいけないことも……フラウリア?」
浮かれていた気持ちが一気に急降下する。
「フラウリア? おーい。フラウリアー」
その事実があまりにも衝撃すぎて、フラウリアの耳にアルバの呼びかけは届かなかった。




