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少女と白の心  作者: 連星れん
前編

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64/203

白光


 黒い影は少女に差し伸べた手を引っ込めなかった。

 いつまでもいつまでも少女に向けて、手を差し伸べていた。

 それでも少女は頭を振った。

 ここから動かないと、何度も何度も頭を振った。

 すると黒い影は低くなって少女を見た。

 少女はそれと目が合った気がした。

 黒いだけで目がどこにあるのか分からないのに、確かにそう感じた。


 ――大丈夫だ。


 それを黒い影が言ったのだと少女が気づくのに、時間はかからなかった。


 ――お前を傷つける記憶ものはもう無い。


 黒い影は回りを見るように、黒い楕円を動かした。

 少女も誘導されるように回りを見る。

 周囲にはいつのまにか、少女を囲っていた黒い霧の姿がなかった。

 それだけではない。

 白い世界に走っていた亀裂もなくなっていた。

 あれだけ感じていた胸の痛みも。

 あれだけ流れていた涙も止まっていた。


 ――だから行こう。


 黒い影は立ち上がり、再度、手を差し伸べた。


 ――フラウリア。


 名を呼ばれて、少女は無意識的にその手を取る。

 黒い影に引かれて立ち上がる。

 それは見上げるほどに高かった。

 その手はとても温かかった。

 黒い手を握りしめて歩き出す。


 白い世界には何もなかった。

 ここには何かがあった。

 でも、それが何だったのかはもう少女には分からない。

 分からないから寂しくもない。

 分からないから悲しくもない。

 だから少女は気にせず歩いた。

 元通りになった白い世界を見ながら歩いた。


 そうしていると、やがて彼方に光が見えた。

 そこが目的地なのかと、少女は黒い影を見上げる。

 するといつの間にか、見上げるほどに高かった黒い影が低くなっていた。

 気づくと少女はもう、幼い子供ではなくなっていた。

 光に近づくと、黒い影の曖昧だった輪郭が鮮明になっていく。

 黒だった部分に色が現れ、人の形を帯びていく。


 その人は、星のような瞳でこちらを見ると微笑んだ。


 ぎこちない、だけど泣きたくなるほどに優しい顔で。


 その瞬間、黒い影は少女の中の光となった――。



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