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少女と白の心  作者: 連星れん
前編

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大陸暦1975年――01 人嫌いの治療士4


 裏門をくぐり修道院の敷地内に入ると、すぐ側の外庭にロネさんとリリーさん、そしてアルバさんの三人の姿を見つけた。

 声を掛けようと足を向けてすぐ、こちらを向いていたロネさんと目が会う。彼女は、あ、と口を開けるとこちらへと駆けだした。私はその様子を微笑ましく見ていたけれど、途中で彼女の走りに勢いがあることに気づき、とっさに身構える。

 思った通りロネさんはその勢いのまま私に抱きついてきた。私はよろけながらも何とか彼女を受け止める。

 ロネさんは私に抱きついたままこちらを見上げると言った。


「フラウごめんねー」


 その顔は、どうしてか今にも泣きそうだった。

 謝られる心当たりも、彼女が泣きそうになっている理由も分からない私は、困ってこちらへ歩いてくるアルバさんとリリーさんを見る。

 二人は同時に苦笑を浮かべると、アルバさんが言った。


「なすりつけたのはいいけど、心配になったみたいでさ」


 ああそれで、と私は内心笑う。


「フラウ大丈夫だった? 怖かったでしょ? 何もされなかった?」

「大丈夫。全然、怖くありませんでしたよ」


 彼女を安心させるために正直にそう答えると、ロネさんは「えぇ!?」と表情一杯に驚いた。


「フラウって内蔵が据わってるんだね!」

「それを言うなら肝だ」


 すかさずアルバさんが訂正をすると、ロネさんは私から離れて嬉しそうに頬を上げた。


「アルバ知らないの? 肝も内臓だよ!」

「え? いや、知ってるけど」

「だから合ってるんだよ!」

「合ってはないだろ」

「なんで?」

「この場合は肝なんだよ」

「でも肝は内蔵なんだよ?」

「いやだから」

 

 アルバさんはそこで言葉を止めて黙考するように彼方を見ると、最後には「合ってるでいいよ」と諦めたように肩を落とした。どうやらロネさんを納得させることはできないという結論に至ったらしい。

 押し問答に勝ったロネさんはというと、消沈するアルバさんの横で「やっぱり合ってるじゃん」と得意げにしている。

 そんな対照的な様子の二人に、リリーさんと私は顔を見合わせて笑う。


「でも、黒い髪をされていたのには驚きました。黒い髪って珍しいですよ、ね?」


 本当に珍しいのかまだ自信がなかった私は、言葉尻が疑問気味になってしまった。

 それに答えてくださったのはリリーさんだった。


「珍しいです。黒髪を持って生まれるのは鳴賀椰ナルカヤ族しかいませんから」

「ナルカヤ族?」


 聞き慣れない単語に、思わず言葉をなぞる。


「ここ星王国せいおうこくの南、諸国連合に加盟している少数民族です」


 国々の集まりである諸国連合のことは聞いたことがあったけれど、その中に少数民族が含まれていることは知らなかった。


「それではリベジウム先生もその、ナルカヤ族なのですか?」

 私の問いにアルバさんは「んー」と唸る。

「どうだろうなあ。鳴賀椰は小柄で目も黒いらしいし」

 リベジウム先生は見る限りでは長身で、目も金色だ。

「あ、でも親のどちらかが鳴賀椰ならあり得るのか?」

「その可能性は低いように思います」リリーさんが言った。「鳴賀椰族と人間との間に生まれた子供は、特徴が必ずどちらかに偏る性質があるそうですから」

「へえ、それは知らなかったな」


 感心するアルバさんに、リリーさんが「それに」と続ける。


「お名前の響きも鳴賀椰族というよりは、白狼国はくろうこくのような気がします」

「リベジウム……ああ、言われてみればそうだな」


 リリーさんの言葉にアルバさんが同意する。

 ハクロウ国、それもまた聞き慣れない単語だった。

 でも口に出したらまた話の腰を折ってしまうかもしれないとあえて黙っていると、リリーさんがこちらを向いて小さく微笑んだ。


「白狼国というのはここ、星王国の西にある国ですよ」


 ……授業のあとにアルバさんに見抜かれたことといい、もしかして私は顔に出やすい体質なのだろうか。


「ええと、すみません」

「謝ることじゃないって」アルバさんが明るく言う。

「そうです。知らないことは覚えていけばいいのです」


 続けてリリーさんもそう言ってくださる。相変わらず優しい二人に心温まっていると、これまで静かだったロネさんが「リリー」と口を開いた。


「どうしました?」

「お腹空いたー」 


 それを聞いてアルバさんが「ああ」と笑う。


「静かだと思ったら、そんな時間か」


 その不思議な言い回しに私が首を傾げると、彼女は面白げに言った。


「こいつ、お腹空くと急に静かになるんだよ。しかも体内時計が正確」


 何だかロネさんらしくて私は笑みを漏らす。


「そろそろ食堂に行きましょうか」


 リリーさんの言葉にロネさんは「ご飯!」と元気を取り戻すと、一目散に走り出した。


「ロネ、走ってはいけません」リリーさんも早足で追いかける。

「全く、忙しない奴だ」


 アルバさんはため息をつきながらも優しい微笑みを浮かべると「私達も行こう」と背を向ける。

 私は何となく背後を振り返ると、彼女達のあとを追うべく歩き出した。



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