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黒い手
頭を撫でていた感触がなくなり、少女は顔を上げた。
黒い影は変わらずそこにいて、少女を見下ろしている。
撫でてくれていたのはやはりこれなのかと、少女は不思議に思う。
どうしてこんなことをしてくれるのかと。
黒い霧と同じではないのかと。
少女はじっと黒い影を見上げる。
その瞳にはもう、不気味なものを見るような色はない。
そんな少女に黒い影はゆっくりと手を差し伸べた。
真っ黒な黒い手を。
少女は首を振る。
たとえこれが黒い霧と同じものではなくても、その手を取ることは出来ない。
手を取ってしまえば、きっとここから連れ出されてしまう。
それは嫌だった。
ここからは出たくない。出られない。
だって回りには黒い霧がいる。
少女を逃がさないようにと、回りを囲っている。
少女に入り込み黒く染め上げようとするかのように、黒いざわめきを放っている。
だけど動かなければ、それ以上のことはしてこない。
ここにいれば安全だ。
痛みにさえ耐えれば、安全なのだ。
だからここから出るつもりはない。
ずっとずっとここにいると、少女はそう決めたのだった。