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少女と白の心  作者: 連星れん
前編
30/198

黒い影


 少女が顔を上げると、そこには黒い影が立っていた。

 人の形をしている、輪郭が曖昧な細長い影が。

 それは少女を見下ろしていた。

 顔と思われる黒い楕円を少しだけ前に傾けて少女を見ていた。

 それには顔がないから表情がわからない。

 どんな表情で少女を見ているのかがわからない。

 そのことが少女にはとても不気味に映り、だから思わず視線を逸らした。

 すると追いかけるように黒い楕円が傾いた。

 それは少女の顔を覗き込むように首を傾げている。

 その黒い影の行動が怖く感じた少女は、再び顔を伏せた。

 そうしたところで逃げられるわけでもない。

 目を背けたところで、それが消えるわけでもない。

 それは少女にも分かっていた。

 それでもここからどこにも行けない少女には、そうするしか術がなかった。

 少女は黒い影から身を守るように身体を丸めた。

 相変わらず胸は痛み、涙も止まらないけれど。

 今は目の前の存在のことで頭はいっぱいだった。


 少女は黒い影がいなくなるようにと願った。

 身体を丸めたまま、黒い影を盗み見ながらそれだけを願った。

 けれどその願いも空しく、黒い影は消えなかった。

 何もせず、ただそこに存在していた。

 次第に少女は不思議に感じ始めた。

 どうして黒い霧のように何も言ってこないのだろうと。

 何のためにここにいるのだろうと。

 その時、頭に感触を感じた。

 少女はびくりと身体を震わせる。

 ついに黒い影が動き出したのだと少女は思った。

 もしかしたらそれは直接、何かをしてくるのかもしれない。

 黒い霧のように声ではなく、触れることで痛みを与えてくるのかもしれない。

 だから少女は身構えた。身体を強張らせた。

 そうして黒い影の行動を脅えながら待った。

 やがて頭の上のそれは、動きだした。

 ゆっくりゆっくりと、頭の上を往復する。

 それは少女の頭を撫でているようだった。

 まるで自分は黒い霧とは違うのだと伝えようとするかのように。

 危害を加えるものではないのだと行動で示すかのように。

 その動きはどことなく不器用で。

 だけど、あまりにも優しくて。

 温かくて。

 痛みからではない涙が、少女の目から流れた。



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