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少女と白の心  作者: 連星れん
その後の後

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201/203

大陸暦1978年――01 いつも通り


 裏門でその姿を見かけた瞬間、まずアルバさん凄いなと思った。

 午後の授業時間、彼女の読み通り、ルナ様が修道院を訪れたからだ。

 衛兵と話をしていた彼女は、通路を歩く私に気づくと、軽やかな足取りで駆け寄ってきた。そして、その勢いのまま抱きつかれる。


「久しぶりーフラウリア」


 ルナ様は私から離れると、笑顔を浮かべた。

 その青い瞳と相まって、まるで今日の青空のように澄んだ笑顔だ。


「お久しぶりです」

「元気にしてた?」

「はい。元気です」

「それにしては、いつもの幸せーな感じが出ていないわね」


 幸せーな感じ。


「いつも、出ているのですか」

「うん。大体ね。にこにこ顔から花びらが舞い散るみたいに」


 それを想像して、なんだか恥ずかしい気持ちになった。私、いつも、花びらを飛ばすぐらいに浮かれてるんだ……。


「あ、今日は先に、ベリトのところに寄ってきたんだけど」


 ルナ様はそう言うと、顔を近づけてきた。


「どうやら、うまく収まったみたいね」


 耳元で囁かれた言葉に、顔が一気に熱くなる。

 そんな私の反応を見て、ルナ様は楽しげに笑うと、ぽんと優しく背中を触れた。


「それで、そんな幸せ真っ只中の貴女が、なにか悩みごと?」


 アルバさんにも勧められていたし、ルナ様が来られたら相談するつもりではいた。でも、まさかその日の午後に機会が訪れるなんて、流石に心の準備が出来ていない。

 それでも、この機会を逃したら、多忙なルナ様に今度いつ会えるか分からない。先延ばしにすれば、先日のようにまたずっと悩み続けることになる。今回の悩みは前回ほど深刻ではないけれど、周りにはそう映らないかもしれない。その所為で、また余計な心配をかけてしまう可能性がある。それは、避けたい。

 うん、と心の中で決意を固めると、私は息を吸って口を開いた。


「ルナ様は、休日、どんな風に過ごされているのですか?」


 それでも、やっぱり恥ずかしさが勝って、つい遠回しな質問になってしまう。


「え、休日?」


 ルナ様が目を開いて、意外そうな表情を浮かべた。

 それも無理はないと思う。悩みを打ち明けられると思っていたら、急にそんな質問をされたのだから。


「はい」

「んーそうねぇ。家族と過ごしたり、友人と過ごしたり、ユイが休みだったら彼女と」


「その」と思わず前のめりになって、ルナ様の言葉を遮ってしまう。

 それに彼女は気を悪くした様子もなく、微笑んで「ん?」と首を傾げた。


「すみません。最後の部分を、詳しく」

「私とユイの休日の過ごしかた?」


 休日に限った話ではないのだけれど、とりあえず私はうなずく。


「はい」

「普通にいちゃいちゃしてるけど」


 さらっと放たれたその言葉に、またもや顔の熱が上がるのを感じた。


「というのは冗談で、いや、冗談でもないけど」


 ルナ様はくすっと笑うと、私の手を取った。そのまま軽く手を引かれて、外庭のベンチに座らされる。


「フラウリア、本当は何が訊きたいの?」


 隣に座ったルナ様が、体を傾けて私の顔を覗き込んでくる。

 遠回しに訊いていたことを、しっかり見抜かれていたらしい。

 ここまで来たら、もう直球で聞くしかない。


「こ」

「こ?」

「こ、恋人というものが、どういうものかと、思いまして……」


 ルナ様は目を瞬かせると、温かな苦笑を零した。


「それは簡単そうで、なかなかに深い質問ね」


 つまり、私の質問が曖昧すぎるということだ。


「ええと……」


 知りたいことを必死に整理して、言葉にしてみる。


「ルナ様は、ユイ先生とお付き合いする前と後では、何か、変わったことがありますか?」

「そうねぇ……もう、随分と前のことだから」

「あの、いつから、お付き合いを」

「修道院を卒院して、碧梟の眼(あおふくろうのめ)を立ち上げて、少し落ち着いたころだから……そうそう十八の時だわ。あら、今の貴女と同じね」


 ふふっ、とルナ様が笑う。


「でも、振り返ってみると、やっぱり大きくは変わっていない気がするわ」

「変わらない」

「えぇ。一緒にお出かけして、お茶を楽しんだり、美味しいご飯を食べたり、お店を巡ってお買い物したり、演劇を観たり。時にはお家でのんびり過ごしたりと、それは、昔も今も変わらないわ」


 私と、同じだ。

 ベリト様は外出があまり好きではないので、お家で過ごすことが多いけれど、それでもしていることはほとんど同じと言ってもいい気がする。


「私が思うに、恋人っていうのは、一緒にいてお互いに幸せを感じられる人のことを言うのではないかしら」

「一緒にいて、幸せ」

「そう。そこに決まりごとも、縛りも何もない。ただ、お互いを大切にし合い、時には気持ちを分かち合って、一緒に過ごすだけでいい。だって、それだけで幸せなんだから」


 ルナ様は彼方を見ると、柔らかく目を細めて微笑んだ。

 彼女の青い瞳が、彼女の心が、どこを向いているのか、訊かずとも分かる。

 その優しい横顔に思わず見とれていると、ルナ様は目を伏せ、微笑みを深めて私を見た。


「だから」


 伸ばされた人差し指が、私のおでこをツンと軽く押す。


「あまり難しく考えず、これまで通りの貴女でいなさい」


 ルナ様はそう言うと、大人のお姉さんの笑顔を浮かべた。



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