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少女と白の心  作者: 連星れん
その後

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184/203

大陸暦1978年――15 似ている


 お茶をご馳走になったあと、フォルデさんが団員さんに呼び出されてしまったので私たちは団長室を後にした。それからまだ開演まで時間があったこともあり、先に劇団内の資料館を見物することになった。

 資料館にはこの劇場の成立ちや、歴代の有名な俳優さんの写真や衣装などが展示されており、それらを見てますます劇への期待に胸が膨らんだ。

 資料館を堪能して客席に座ったのは開演少し前のことだった。劇場の外見からして想像はしていたけれど、中の広さはその想像以上だった。半楕円の劇場内は四階まであって、客席はほぼ埋まっていた。私たちの席は二階の正面席だった。舞台が真正面から見ることができる席だ。私は来るのが初めてで、どの席が良いものかわからないけれど、周りに座っていた人たちの身なりや雰囲気からするに、とても良い席なのではないかと思った。

 そうして期待に心躍る中、舞台の幕が上がった――。



 だいたい三時間ほどの劇が終わり、劇場からは次々と人が出てくる。

 その多くが興奮が冷めやらない様子で、舞台の感想を友人や家族と分かち合っている。

 私たちはその人の波から逃れるように、最初にルナ様が待っていた劇場横へとやって来た。


「どうだった?」

「すごく面白かったです」


 ルナ様に訊かれ、思わず私は前のめりにそう答えた。興奮冷めやらないのは私も同じだった。

 初めて見た歴史劇は、私の期待以上のものだった。

 劇中では歴史書には詳しく書かれていないこと、ルーニアとナギフェリ王女の出会いから、ただの村娘だったルーニアが神星(しんしょう)魔法を最初に見出した神星(しんしょう)魔道士リュムの子孫だと知る事件。竜王国士官学校を首席で卒業し王女のお付きになり、二人の夢である大陸浄化計画の発案。そしてそれを実現するまでの苦難や苦悩、それらが描かれていた。


「ルーニア様も思い悩んだりしたんだなと共感しました」


 歴史書に描かれているルーニアはまさに偉人といった印象だ。

 だけど劇中の彼女は才能に恵まれ人を惹きつける魅力は持っていれど、中身は普通の少女という感じだった。


「もちろん劇中の人物像が本当なのかは分かりませんが」

「この劇はルーニアや身近な人の日記が元に作られているから、大きな脚色はないと思うわよ」

「そうなんですか」


 だったらルーニアは本当に劇中のような人だったのかもしれない。そう思うと現実味のなかった歴史が身近に感じられる気がした。そして歴史というものは遠い昔、実際にこの世界に生きていた人達の記録なんだなと実感もする。


「歌も良かったな」


 アルバさんが言った。


「はい」


 史実の大陸浄化計画では最後ルーニアとナギフェリ王女、そして多くのエルフにより大陸の瘴気を浄化するための大規模な精霊歌が歌われた。それはもちろん劇中でも描かれていた。

 エルフの森の近くの村で育ったルーニアには、子供の頃からエルフの青年の友人がいた。エルフは歌が好きな種族で彼も例外ではなく、それを幼いころから聴いていたルーニアも自然と歌を覚えて歌うようになった。そのあとルーニアはエルフの森に訪れていたナギフェリ王女と友人になり、王女も彼女に勧められて歌を習い始めた。

 その歌が二人の夢を叶える鍵となり、過去の二人から未来の二人へと繋がる場面と、その二人の歌の素晴らしさは、泣きそうになるぐらいに感動的なものだった。


「でも星祭(せいさい)でユイさんが歌っていた歌と似てましたね」


 アルバさんの言葉にユイ先生がうなずく。


「元の曲は同じですよ。星歌(せいか)は実際の精霊歌を編曲したものもありますから」

「そうなんですか」

「はい。劇中で歌われた曲のほうが原曲そのものです」

「演劇で精霊歌を歌うのは世界探せど星霜(せいそう)劇団ぐらいなのよ。だから面白かったでしょう?」


 ルナ様がベリト様の顔を覗き込む。


「……まぁ、普通のよりは退屈ではなかったな」

「素直じゃないわね」


 からかうように笑うルナ様に、ベリト様が眉を寄せて視線を逸らした。

 その様子を微笑ましく見ていて、私はふと思い出す。


「そういえば劇のルーニア様、なんだかルナ様に似ていましたね」


 劇中のルーニアも友人のナギフェリ王女をからかっては、楽しそうに笑っていた。


「なんかそれ、昔にユイにもフォルにも言われたけど、そんなに似ているかしら」

「強引なところがな」

「それ、褒めてないでしょ」


 ルナ様が半眼でベリト様を睨むも、それを意も介せず彼女は言った。


「で、帰るのか」

「なに言ってるのよ。お昼だし昼食を食べるわよ。あ、普段は滅多に食べないってのはわかっているけれど、今日は口うるさいベリトのために良い店を予約したから付き合いなさい」


 先手を打たれてしまったベリト様が、むうと口を結ぶ。二人のやり取りはやはり見ていて微笑ましい。


「立派なところじゃないですよね」心配げにアルバさんが言った。

「服装規定はないけれどそこそこの老舗よ。あとご心配なく。私のおごりだから」


 その言葉に私は慌てた。というのも今日の演劇はユイ先生の奢りだからだ。

 もちろん最初は断った。だけど団長さんが安くしてくれているし気に入ったらまた行ってあげてくださいと、押し切られてしまった。

 それなのに食事まで奢られるのは流石に――。

 そう口に出しかけたら、目の前にぴっと指が突き出された。


「はい。意見は受付けません。黙っておごられなさい。アルバも。ほら行くわよ」


 ルナ様は捲し立てるようにそう言うと、さっさと歩き出してしまった。

 それにユイ先生とアルバさんが苦笑して続く。

 ベリト様を見ると彼女は諦めるように息を吐いてからゆっくりと歩き出した。

 この強引さはやはり劇中のルーニアを彷彿とさせるなあと思いながら、私もベリト様の横に並んだ。



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