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少女と白の心  作者: 連星れん
その後

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大陸暦1978年――14 仕返し


「と訊かれましてつい、浮かれて最近のことをお話ししてしまいました。すみません……」


 罪を告白するようにフラウリアは言った。

 私は頬がひくつくのを感じながら、隣に座るフラウリアを見る。反省が目に見えるかのように、フラウリアは体を小さくして俯いている。

 フラウリアがこのような状態になっているのには、こいつが仕事から帰ってきたときに触れて視てしまった記憶にある。

 それには今日、最近の私との出来事をセルナとユイに話す場面が視えた。

 それだけなら問題はなかった。珍しいことではないからだ。こいつは普段から嬉しかったことや楽しかったことをセルナやユイやアルバに話すことがある。その中で私が凄いだの優しいだのという話しもしたりしている。

 それはまだいい。恥ずかしくはあるがまだ、我慢はできる。

 問題は今日の話の中に、私がフラウリアに触れられるようになったことが含まれていたことだ。

 普段は記憶で視えたことにはなるべくこちらから触れないよう気を遣ってはいるのだが、そればかりは流石に見逃すことができず、それでつい話したのかと確認してしまった。

 それにフラウリアは最初、無邪気な笑顔で認めていた。しかし顔を強張らせている私の様子でことの重要さにでも気付いたのか、神妙な面持ちで経緯を話し始めた。

 そして今に至る。


「二人、だけか?」

「……はい。アルバさんはベリト様の事情をご存じないですからお話ししていません。でも、お二人でもいけませんでした、よね……?」

「そう、だな。好ましくはないな」


 長年に渡り普通に人に触れられなかった私が、こいつにだけそれが克服できたと知られるのは流石に……慚愧に堪えない気持ちになる。


「私、ベリト様のお気持ちも考えず、すみません……」


 フラウリアがさらに俯く。

 そこまで落ち込まれると、こちらが悪いことをしている気持ちになる。


「フラウリア、私は別に怒ってるわけじゃないんだ。ただ、お前にとってそれは嬉しい出来事だったのかもしれないが」


 そこで言葉に詰まると、俯いたまま窺うようにフラウリアが見てきた。


「ベリト様には、違ったのですか……?」


 そう言って悲しそうな目を向けてくる。


「あ、いや」


 ここで誤魔化すのは流石に不味いと、観念する。


「――もちろん、お前と同じ気持ちだが」

「同じ」


 安堵するようにフラウリアの目元が和らぐ。


「でも、それでしたらどうして、お二人にお話ししてはいけないのですか……?」


 私にとってもそれは嬉しい出来事なのに、どうして隠すのだと――。

 それを不思議に思う辺り、こいつと私の性格の違いがよくわかる。

 こいつは嬉しいことがあったら人に話したいタイプだが、私は違う。


「たとえ嬉しく思っていたとしても、人に知られると、恥ずかしいこともあるんだ」


 そう告白することすら羞恥を感じて、ガラにもなく顔が熱くなる。

 すると落ち込んでいた顔が一転、フラウリアの顔がほころんだ。


「……ふふ」


 それから口に手を当てて、笑い出す。


「フラウリア」


 羞恥からつい窘めるように言うも、フラウリアの緩んだ顔は戻らない。


「すみません……恥ずかしがるベリト様が、可愛らしくて……ふふっ」


 笑う合間にフラウリアが答える。

 私も恥ずかしがるこいつを見て楽しむことはあるので人のことは言えないが、それにしてもツボに入りすぎではないだろうか。

 そんなに私の恥ずかしがる姿がお気に召したのだろうか。

 私はなおも笑い続けるフラウリアを睨んでみる。が、こいつはそんなこと気にすることなく一人で笑っている。そんなこいつを見ていると、次第に羞恥が薄れていった。その替わりに面白くない気持ちが沸いてくる。……ようは拗ねたのだ。年始にフラウリアをからかってこいつが拗ねたように。


「……それ以上、笑うと、仕返しをするぞ」


 その所為で、まるで子供のようなことまで言ってしまう。


「どのようなことをして下さるのですか?」


 そう答えたフラウリアの顔は緩んだままだ。


「お前が嬉しくも恥ずかしいと思うことをして、人に話す」

「なるほど。それは仕返しになりますね……ふふっ」


 フラウリアはまだ笑っている。どうやら本気に取っていないらしい。

 そんなこいつの様子に悪戯心が湧きあがった。

 私はひざに置かれたフラウリアの手に触れる。

 緩めた顔そのままにフラウリアが不思議そうにこちらを見てきたので、耳元に顔を近づけて囁いた。


「お前が私にされて嬉しくも恥ずかしいと思うことはなんだ?」


 私の能力はその人がこれまで見て体験してきたこと――それが記憶となったものを視ることができるものだ。

 それと一緒にそのとき感じた感情も色で視ることができるのだが、頭の中で考えた心の声は視ることはできない。

 だが過去の記憶を思い返したり、その人が絵として思い浮かべたものは記憶と同じように視ることができる。

 それを視てやろうと、私はこいつの手に触れているのだ。

 普段は故意にこんなことはしないが、今日ばかりはフラウリアが悪い。

 素直なフラウリアは私が問うたことを考えるように何度か目を瞬かせると、はっとして触れている手から逃げた。

 自分の胸に両手を当てたフラウリアのその顔は、茹で上がったタコのように真っ赤に染まっている。


「お気持ちはわかりました。今後は気をつけます。デボラさんに挨拶をしてきます」


 まくし立てるようにフラウリアはそう言うと、ソファから立ち上がってぎこちない早歩きで部屋を出て行った。

 それを呆然と見送って、先程までフラウリアに触れていた手を見る。


 ……視える前に行ってしまった。


 なにを思い浮かべたのか、皆目、見当がつかない。

 まぁでも、あの様子からしてお灸を据えることはできただろう。

 今後はなんでも迂闊には喋らないはずだ。



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