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少女と白の心  作者: 連星れん
その後

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大陸暦1978年――14 二年目の春


 修道院の通路に、春の風が吹き抜けた。

 風でなびく横髪を抑えながら中庭を見る。そこには春の花が咲いていて、先ほどの風が運んでくれたいい香りが鼻腔まで届いた。


「風も吹いているし、今日はよく乾きそうだな」


 隣を歩いていたアルバさんが、晴れ渡った空を見上げながらそう言った。


「そうですね」


 時刻は午前九時過ぎ。洗濯物を干し終わった私たちは、空になった籠を抱えて通路を歩いていた。

 周囲は静かで辺りにも見習いの子の姿はない。今、見習いの子たちは全員、午前の授業中だ。


「やっとみんな大人しく、授業を受けるようになったかな」


 誰もいない中庭を見ながらアルバさんが言った。

 新年度に入り、修道院に新しい子が入って一ヶ月近くになろうとしていた。

 主に癒し手(いやして)を育成するこのルコラ修道院には、星教(せいきょう)にその素養を見出された子が入る。そしてそのほとんどが孤児だ。

 孤児はこれまで衣食住に困る厳しい環境に置かれながらもある意味、自由な生活をしてきた。だから規則正しい修道院の生活に最初は戸惑う子も多い。

 その中には決められた時間で行動する生活に慣れず、時間になっても授業や礼拝に来なかったり、長いことじっとしていられず授業を抜け出したりしてしまう子もいる。

 それだけでなく起床時間に起きられなかったり、消灯時間に寝られず徘徊してしまう子もいる。

 そういう子たちを一人一人気にかけながら、ここの生活に馴染むよう世話をしてあげるのも私たち先生の役目だ。そのため新年度に入ってからこの一月(ひとつき)、大忙しだった。

 でもたとえ忙しくとも、平穏な生活に慣れていく新しい子たちを、警戒が浮かんでいたその表情が穏やかなものに変わっていく様子を見るのはとても嬉しい。

 私には修道院に入りたての記憶はないけれど、でも自分もこうだったのではないかとその子たちを見ていて思う。きっと私が最初にいた修道院には、ユイ先生以外にもご迷惑をかけたり、お世話になった先生がいるはずだ。

 そんな人たちに私はなにも言えず、ここに来てしまった。

 あのときの状況からして仕方がないとはいえ、お礼も言えていない現状は気になってしまう。修道院の仕事に慣れて気持ちに余裕ができた今、余計に。

 だからいつかお礼を伝えに行きたいなとは思っているのだけれど、記憶もないのにそうするのは逆に失礼だろうか――。

 そんなことを思いながら歩いていると、前方に人が見えた。その人は小走りにこちらに走り寄ってくる。


「フラウリア先生、アルバ先生」


 あの人は……一年生に読み書きを教えている先生の助手だ。


「言った矢先、か」


 アルバさんが苦笑交じりに言う。彼女が慌てているということは、誰かが授業を抜け出したということだ。孤児だった子は生きるために盗みを働いていた子もいるので、大人の動向を見るのがとても上手い。そして先生がほかの子を見てあげてたり、目を離したちょっとした隙に、姿を消す。その子は大抵、どこかに隠れているので、それを捜すのも手が空いている先生の役目だ。

 去年は誰かがいなくなる度に慌てていたけれど、今年は去年の経験から幾分か心の余裕がある。


「少し振りの隠れんぼですね」


 そう。これぐらいのことを言えるぐらいには。

 私の言葉にアルバさんは眉と口端を挙げると、二人で助手の先生を迎えた。



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