大陸暦1978年――13 続 お年頃
朝起きて居間に行くと、フラウリアがソファで本を読んでいた。
年が明けて三日。今日フラウリアは休暇だ。しかし休みだろうとこいつは規則正しく起きる。そしてデボラの朝食の支度を手伝ったあと、普段なら私を起こしに来るのだが。
フラウリアは姿勢良く本に向き合っている。どうやら私には気づいていないらしい。こいつは本当、なにかに集中していると回りが見えなくなる。
「フラウリア」
名を呼ぶと、肩がびくりと跳ねた。そして慌てて本を閉じてこちらを見る。
「あ、ベリト様。起きられたんですね。おはようございます」
「おはよう」
挨拶を返して隣に座ると、フラウリアは閉じた本を横に置いた。
私は何気なくその本を見る。年の瀬に私が本屋で買ってきた小説だ。
「あの、早くに朝食の支度が済みましたので、もう少しあとに起こしに行こうかと思っていたのですが」
そう言ったフラウリアの目は落ち着きなく泳いでいる。
その挙動が先程まで読んでいた小説が原因なのはもう、わかっている。
「そうか」だから私は笑いそうになるのをなんとか堪えながら言った。「面白いか」
「え」
「やった小説、読んでたんだろ」
「あぁ、はい」
白々しい調子でフラウリアが答える。
「以前にケンがやった小説と同じ作者らしいな」
「え、と、ベリト様がお選びになったのでは」
「いや、前の小説、お前が気に入っていたようだからってケンが勧めてきてな」
「わ……! 私は別に、気に入っていたわけでは」フラウリアの声が上擦る。「あ、いえ、その、それは作品を貶す意味ではなくて、小説自体は面白――興味深くはありましたけど、でもアルバさんにお貸ししたら現実味はないなと仰ってて、けれど現実味がないからこそ人気があるんだろうなとも仰ってて、女の子はこういうのに憧れるものだからとかなんとか、いえ、だからといって私も、そうというわけではないのですが」
早口で言い訳をするフラウリアに、ついには笑いが漏れた。
「――ベリト様、また知ってて」
「読んではない。ただ少しケンに聞いただけだ」
フラウリアが耳を赤くして、気恥ずかしそうに口を結ぶ。
「で、面白いのか?」
「……ベリト様、面白がってます?」
「そんなことはない。純粋に感想が気になっただけだ」
と言いつつも、つい顔がニヤけてしまう。
そんな私を見てフラウリアはふて腐れるように眉を寄せると。
「もう、意地悪なベリト様なんて知りません」
と言ってそっぽ向いた。
「拗ねたのか」
「拗ねました」
そこは素直に認めるのかと、私は笑ってしまう。
「そうか。それなら仕方がない。新聞でも読むから取ってくれ」
「はい」
フラウリアが机の端に置いてある新聞を渡してくれる。
「私のことなんて知らないんじゃなかったのか」
それを受け取りながら言うと、フラウリアがはっとしてまた顔を背けた。
そんなフラウリアに私はまた笑った。




