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少女と白の心  作者: 連星れん
その後

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174/203

大陸暦1978年――13 続 お年頃


 朝起きて居間に行くと、フラウリアがソファで本を読んでいた。

 年が明けて三日。今日フラウリアは休暇だ。しかし休みだろうとこいつは規則正しく起きる。そしてデボラの朝食の支度を手伝ったあと、普段なら私を起こしに来るのだが。

 フラウリアは姿勢良く本に向き合っている。どうやら私には気づいていないらしい。こいつは本当、なにかに集中していると回りが見えなくなる。


「フラウリア」


 名を呼ぶと、肩がびくりと跳ねた。そして慌てて本を閉じてこちらを見る。


「あ、ベリト様。起きられたんですね。おはようございます」

「おはよう」


 挨拶を返して隣に座ると、フラウリアは閉じた本を横に置いた。

 私は何気なくその本を見る。年の瀬に私が本屋で買ってきた小説だ。


「あの、早くに朝食の支度が済みましたので、もう少しあとに起こしに行こうかと思っていたのですが」


 そう言ったフラウリアの目は落ち着きなく泳いでいる。

 その挙動が先程まで読んでいた小説が原因なのはもう、わかっている。


「そうか」だから私は笑いそうになるのをなんとか(こら)えながら言った。「面白いか」

「え」

「やった小説、読んでたんだろ」

「あぁ、はい」


 白々しい調子でフラウリアが答える。


「以前にケンがやった小説と同じ作者らしいな」

「え、と、ベリト様がお選びになったのでは」

「いや、前の小説、お前が気に入っていたようだからってケンが勧めてきてな」

「わ……! 私は別に、気に入っていたわけでは」フラウリアの声が上擦る。「あ、いえ、その、それは作品を貶す意味ではなくて、小説自体は面白――興味深くはありましたけど、でもアルバさんにお貸ししたら現実味はないなと仰ってて、けれど現実味がないからこそ人気があるんだろうなとも仰ってて、女の子はこういうのに憧れるものだからとかなんとか、いえ、だからといって私も、そうというわけではないのですが」


 早口で言い訳をするフラウリアに、ついには笑いが漏れた。


「――ベリト様、また知ってて」

「読んではない。ただ少しケンに聞いただけだ」


 フラウリアが耳を赤くして、気恥ずかしそうに口を結ぶ。


「で、面白いのか?」

「……ベリト様、面白がってます?」

「そんなことはない。純粋に感想が気になっただけだ」


 と言いつつも、つい顔がニヤけてしまう。

 そんな私を見てフラウリアはふて腐れるように眉を寄せると。


「もう、意地悪なベリト様なんて知りません」


 と言ってそっぽ向いた。


「拗ねたのか」

「拗ねました」


 そこは素直に認めるのかと、私は笑ってしまう。


「そうか。それなら仕方がない。新聞でも読むから取ってくれ」

「はい」


 フラウリアが机の端に置いてある新聞を渡してくれる。


「私のことなんて知らないんじゃなかったのか」


 それを受け取りながら言うと、フラウリアがはっとしてまた顔を背けた。

 そんなフラウリアに私はまた笑った。



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