大陸暦1977年――10 休日の終わり
急ぎめにお風呂に入り寝支度をしたころにはもう二十二時半を過ぎていた。
修道院にいたころは就寝時間が二十一時だったのもあり、ここに住み始めたころもそれに倣っていた。けれど今は遅番や泊まりの当番などで就寝時間が遅くなることもあり、最近はお家でも二十二時ごろに眠ることが多くなっていた。
それでも今日はもう寝る時間は過ぎている。それはベリト様もわかってくれているようで、私が自室に行ったときには彼女はすでにベッドにあがって本を読んでいた。
今日はルナ様がお休みらしいので一緒に寝ることができる。だいたい週に一度のその日を私はいつも楽しみにしていた。
私がベッドにあがると、ベリト様は本を閉じて横に置いた。それから仰向けに寝転がってふうと息をはく。
「お疲れになりましたか?」
「あいつの相手をすると、一気に体力を削られる気がする」
「ルナ様、お元気ですもんね」
「お前も折角の休暇なのに疲れただろう」
「いえ、とても楽しかったですよ」
いつも通りにベリト様と一緒に過ごせて。それに加えて今日は個人的にやってみたかった歌が思いがけずベリト様と一緒に過ごせる時間にもなったし、ベリト様の素敵な演奏も聴けたし、ルナ様とユイ先生と一緒に食事をして歌も歌えたしと本当に楽しかった。
「それに少し、昔も思い出しました」
「昔」
「家族と過ごした記憶です」
私はベリト様の机に目を向ける。そこには私の部屋にあるものと同じ、四人で写った写真が飾られている。ルナ様が押し切って置いたものだ。
「一緒にいて温かい……今日はそれと同じ感じがしました」
「家族ね……」
ベリト様が天井を見ながら遠い目をする。それを見て彼女の前で家族の話はよくなかったかもしれないと反省しかけていると、ベリト様がふっと笑ってこちらを見た。
「そうなると親はあの二人になるのか」
「そうですね」私は安堵してうなずく。「そうだと嬉しいです」
「あいつらが親だとうるさそうだ」
「ユイ先生は静かなかたですよ」
「あいつは静かにうるさい」
その言い様に思わず笑ってしまう。
「それでお前は娘か」
「はい。ベリト様も」
「こんな可愛げがないのに?」
ベリト様が冗談めかして言ったので私も冗談で返してみる。
「反抗期の娘もかわいいものですよ」
「だれが反抗期だ」
柔らかく言い返されて笑っていると、ベリト様が天井に手を伸ばした。
「ほら、もう寝ないと明日に響くぞ」
「はい」
ベッドに寝転がる。するとベリト様が天井の魔灯を消した。
「おやすみなさい。ベリト様」
「あぁ、おやすみ」
その言葉を最後に部屋に静寂が訪れる。
体勢を変えて体を横にすると、前から温もりを感じた。
ベリト様の体温――それがシーツの中で伝わってくる。
路地裏で寝ていた孤児のころや、一人で寝ていたころには感じられなかった人の温もり。
それがとても安心を覚え、そして幸せを感じた。




