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少女と白の心  作者: 連星れん
その後

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117/203

大陸暦1977年――04 寝落ち


「それでねーこれがもうおかしいんだけれど――」


 晩酌を初めて一時間ほど経ったころ、いつも通りよく喋るセルナの話しを聞きながらふと右を見ると、グラスを両手で持ったままフラウリアがぼんやりとしていた。

 私の言った通り本当に少しずつ飲んでいたようで、グラスにはまだワインが残っている。その手を見ると、先ほどまで丁重にしっかりとグラスを持っていた手が、今はどことなく頼りなかった。

 そろそろ限界か――そう思って手を伸ばしかけた矢先、フラウリアの手からグラスが(すべ)り落ちた。


「っと」


 それを間一髪、下に手を添えて受け止める。

 すると今度は肩に重みを感じた。見ればフラウリアが肩に寄りかかっている。

 その(まぶた)は完全に閉じられていた。


「あらあら」


 セルナに勧められてソファで飲んでいたデボラが、微笑ましげに笑った。


「どうやらお酒、弱いみたいねぇ」セルナも笑う。

「それ以前に、初心者が飲むには強すぎただろ」


 角もなく甘くて比較的、飲みやすくはあっただろうが、それでも普通のワインより度数が高いのだ。初心者が最初に飲むものとしては、適当とは言えない。


「それもあるでしょうが」ユイが言った。「それでもグラスに軽く一杯でこれでしたら、外で飲ませないほうがいいかもしれませんね」

「って、起きたら言っといてあげてね、ベリト」


 それはまぁ、言うが。横目で肩で眠るフラウリアに視線を落とす。


「これどうするんだよ」

「寝かしといてあげればいいじゃない」

「人ごとだと思って……」


 百歩譲ってデボラだけならまだしも、この二人に肩を貸すなんて状況を見られているのは流石に辛い。


「動きにくいなら膝枕でもしてあげれば? ベリトさま」


 セルナがフラウリアを真似たようにからかってきた。

 それにイラッとしながらデボラを呼ぶ。


「デボラ」

「はいはい」


 私が言いたいことがわかったのか、デボラは立ち上がると私たちの座っているソファの端にクッションを置いた。それからフラウリアを反対側に横にさせて、そこに寝かせる。


「でもそうかー」セルナが言った。「フラウリアはお酒を飲むと寝ちゃうタイプかぁ」

「なんで残念そうなんだよ」


 私はフラウリアが残した少しのワインを飲み干して、グラスを机に置いた。


「だって人は酔うと普段、抑制されたものが出るって言うじゃない? だからフラウリアはどうなるかなーて楽しみにしてたんだけど」


 抑制、ね。


「そのわりにお前はそのままだな」


 こいつは私たちが年代物のワインをゆっくり味わっている間に、デボラと一緒に家の貯蔵ワインの二本目を開けている。


「そう?」


 いや、そのままは言い過ぎだな。一定量を超えたらうざさは増す。


「それは普段から思うがままに生きているからですよ」


 涼しい顔でユイが言った。

 皮肉にも取れるその言葉を、セルナは素直に受け取る。


「なるほどー」


 それからあははと楽しげに笑った。普段以上に動作が大きい。酔いが回ってきたな。


「でもーベリトもほんと変わらないよねぇ」

「そもそも酔わないからな」


 今はたまにしか飲まないが、壁近へきちかに住んでいたころはよく酒に付き合わされることがあった。それは安酒だったにもか変わらず、いくら飲んでも悪酔いや二日酔いをすることは一度もなかった。

 タバコを吸っていたときもそうだったが、おそらく私はなんでも中毒になりにくい体質なのだろう。


「酔わないお酒って意味あるー?」


 怪訝そうにセルナが訊いてきた。


「味がわかるだろ」

「そうだけどーお酒は酔ったほうが楽しいと思うけどなぁ」


 そりゃ酔っている本人はさぞ、楽しいことだろう。

 私は以前、相当に酔ったセルナに絡まれたときのことを思い出して内心、げんなりした。


「ユイも酔うまで飲まないしー」


 セルナが不満そうな顔でユイを見る。


「私まで酔ったら誰が貴女の面倒を見るんですか」

「それもそうかー」


 またセルナが笑う。そしてグラスのワインをあおる。

 それを見て、私はユイと目を合わせると『これ以上、飲ませるのはよくない』という気持ちが一致するかのようにうなずきあった。



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