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少女と白の心  作者: 連星れん
前編

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大陸暦1975年――02 呼び出し3


 院長室を出たあと、私はロネさんに手を引かれて修道院の中庭へとやってきた。

 中庭は修道院の中心、建物に囲まれる位置にある。そこにはベンチや噴水が設置されており、回りには今が旬の夏期の花が咲き乱れている。

 その中庭には今日、何人かの見習いの姿があった。その中にはアルバさんとリリーさんの姿もあり、二人は噴水の淵に座って話をしている。

 それを見つけたロネさんが私の手を離れて駆けだした。


「リリー」


 ロネさんに気づいたリリーさんは立ち上がると、駆け寄ってきた彼女を受け止めた。


「ただいま!」


 抱きついたまま見上げてそう言ったロネさんに、リリーさんは優しく「おかえりなさい」と返すと、続けて「ユイ先生は何のご用だったのですか?」と訊いた。

 その言葉に私は内心、はらはらする。

 呼び出された理由を訊いて、リリーさんがロネさんを叱らないか心配になったからだ。


「昨日のクロ先生のことだよ!」


 でも私の心配を余所に、ロネさんはリリーさんから離れると溌剌とそう答えた。

 それだけで事情を察したのか、アルバさんが苦笑を浮かべる。


「さてはお前、報告忘れてたな」

「忘れてた!」


 その怒られる可能性など微塵も考えていない真っ直ぐさに、つい私は心配していたのも忘れ感心してしまう。でもすぐに感心している場合ではないと思い直し、リリーさんを覗うように見た。彼女は案の定とでも言うべきか、苦々しい顔を浮かべている。

 そのリリーさんの表情に再び、はらはらとした気持ちでいると、彼女は大きくため息をついてから私に顔を向けてきた。


「私が連れて行って報告させておくべきでした。すみません、フラウリアさん」


 粛々と頭を下げるリリーさんに、私は慌てて手を振る。


「いえ! 怒られたわけではありませんから」

「ですが、注意はされたでしょう?」

「でも全然、大丈夫でしたから」


 笑顔でそう返すも、リリーさんは申し訳なさそうに苦笑を浮かべている。おそらくロネさんが報告し忘れたことを、自分の責任だと感じているのだろう。

 そのリリーさんの姿勢は、いつもロネさんと一緒にいる立場としてのものだと考えるのが普通なのかもしれない。でも私にはそんなリリーさんがあたかも、妹を思いやる姉のように見えた。それは今まで二人を見ていて軽い気持ちで思ったことではなく、本当の意味でそう感じた。

 私はリリーさんの返答を待っていたけれど、彼女は何も言わなかった。顔に苦笑を浮かべたまま口をつぐんでいる。もしかしたら返答に困っているのかもしれない。

 ならばと私も掛ける言葉を探すけれども、すぐにはこの場に適したものが思い浮かばない。それでもと悩み続けていたら、それを見かねたのかアルバさんが「まぁさ」と口を開いた。


「フラウリアもこう言ってるんだし、気にすんなよ」


 アルバさんの助け船に、私もここぞと便乗する。


「そうです。本当にお気になさらないでください」


 すると今度は私に便乗するように「そうだよ!」とロネさんが声を上げた。


「リリーは気にしなくていいんだよ!」


 にこやかにロネさんが続けて言ったその言葉に、私は思わず目をしばたかせてしまった。

 ええと、それはその、悩ましている原因である当人が言っても効力が発揮されるものなのだろうか……?

 そう、当惑しながら私が思っていると、


「それはお前が言う台詞じゃないだろ」

「それは貴女が言うことではありません」


 アルバさんとリリーさん二人から同時に突っ込みが入った。あ……やはりそうですよね、と私は苦笑する。

 突っ込まれた当人であるロネさんは目をぱちくりしながら二人を見ると、何か間違ったことを言ったかなあ、とでもいう風に不思議そうに首を傾げた。その姿が何ともおかしくて、私は笑ってしまう。それに釣られたのか続けてアルバさんとリリーさんも笑みを漏らし、みんなが笑ったのを見てロネさんも嬉しそうに笑顔を浮かべた。


「ったく、お前は」アルバさんが仕方がないとでもいうように優しく零す。「それで、交代の理由は訊かれたのか?」


 ううん、とロネさんが左右に首を振る。


「訊かれてないけどフラウが言ったよ。ロネの代わりに行くって言ったよ」

「そうなのか?」アルバさんがこちらを見る。

「はい。そう申し出ました」

「気を使っていませんか?」リリーさんが気づかうように言う。

「使ってないですよ。私は本当にリベジウム先生のことを怖いとは思っていませんから」

「よかったなロネ。フラウリアに感謝しろよ」


 アルバさんがロネさんの頭をぽんぽんと手で叩く。


「してる! 決まったらもっとする!」

「なんだ。まだ決まってないのか」

「ユイ先生の一存では決められないそうです」それには私が答えた。

「院長なのにですか?」意外そうにリリーさんが言った。


 先ほどは疑問に思わなかったけれど、言われてみればと思う。

 院長は修道院の運営と見習い育成を星教会せいきょうかいから一任されている役職だ。それは修道院に入る前に、星教会のことを修道士様が教えてくださったので覚えている。

 その修道院の全権を委ねられている院長が、星教会で定められた規則自体を変えるとかならまだしも、ただ課題を持って行く人間の変更を独断できないのは確かに違和感がある気がする。


「まぁ、治療学の先生にでも相談するんだろ」


 アルバさんはリリーさんの疑問に答えるように言った。

 それはそうだろうと私も思う。たとえ決定権があるとしても、ユイ先生ならば必ず治療学担当の修道女様にも相談なさるだろうと。でもそれなら「一存では決められない」という上の人に相談するような意味合いの言葉は使わず「担当の先生に相談してみます」と言う気がする。

 その違いに何か引っかかりを感じるけれど、でもそんな私とは対照に、リリーさんはアルバさんの言葉に納得したように「なるほど」と頷いた。

 だから私もこれ以上、深く考えるのは止めておいた。



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