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少女と白の心  作者: 連星れん
その後

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大陸暦1977年――01 新鮮


 朝食のあと、片付けを済ましたデボラはフラウリアを連れて買物に出かけた。

 一人になった私は、修道院が春期休みということもあり仕事部屋ではなく二階の自室で過ごしていた。昨日の今日でもう屋内にフラウリアの気配がないことに違和感を覚えながら、ほかに急いでやることもないので以前に買い込んだ本をひたすら読み進めていた。そして、それが最後の一冊になったころに二人が買物から戻ってきた。時刻は十四時前だった。

 出迎えはしなかった。そんなことをしなくとも、デボラはともかくフラウリアの性格ならば、真っ先にあちらから帰宅の挨拶に来ると思ったからだ。だが、予想に反してフラウリアはすぐに顔を出してこなかった。気配の場所からするに一階の居間でデボラと二人、何かをしているようだった。

 階下の気配が気になりながらも本を読んでいると、二十分ほど経ってからフラウリアが二階へと上がってきた。控えめに扉が叩かれる。


「開いてる」


 私は本に目を落としたまま答えた。扉が開く音がする。


「ベリト様。ただいま、いえ、少し前ですけど戻りました」

「あぁ」

「服代と昼食代までも出していただいて、お給金が入りましたらお返ししますので」

「いや、それは別――」


 本から入口に顔を向けて、思わず言葉が止まった。

 帰って着替えたのか、それとも買ったときに着替えたのか、フラウリアは白いブラウスに濃い緑のワンピースを着ていた。それだけでなく髪は左右が編み込まれてハーフアップされており、後ろに緑色のリボンで一つに留められている。


「ベリト様?」


 朝とは全く違った様相に不意打ちを食らっていた私は、フラウリアの呼びかけに我に返ると、苦し紛れに言った。


「髪、どうした」


 フラウリアは照れくさそうにはにかむと、自分の髪に触れた。


「先ほどデボラさんが結ってくださいました」


 二人で何をしていたかと思えば、それか。

 こいつはこれまでにもたまにサイドアップして三つ編みをしていることはあったが、それとは随分と印象が変わって見える。もしかしたら服との相乗効果もあるのかもしれない。


「服もデボラさんが選んでくださって。私はこんな立派なものではなくてもいいと言ったのですが……」


 フラウリアは身に付けている衣類を見ながら、引け目を感じるように言った。

 生地は少しいいものを選んだようだが、それでもそんじょそこらの市民が着るような衣服だ。立派というほどのものではない。まぁ、それでもこいつには贅沢に感じるのだろう。

 それにしても……。私は伏し目がちになっているフラウリアを見る。

 今さらだがこいつ、まつげ長いな。しかも髪と一緒にまつげの色も抜けてしまっているから、少し日に焼けた肌との対比で余計に長さが際立っている気がする。

 それだけでなくこいつはもともと目鼻立ちがよく整っている。その所為で本人は気づいていなかったようだが、孤児の中でも少し浮いていたのだ。そして自分の身を顧みず孤児を助けていたことと、フラウリアの気質によりそれなりに好意も寄せられている。良い意味でも悪い意味でもだ。だからこそあんな目に――。

 あの記憶を思い起こしそうになり、私は思わず眉を寄せた。


「やはり、不相応ですよね……」


 落ち込むような感じでフラウリアが言った。自分の態度を誤解したらしい。


「いや。違う」私は慌てて否定する。「少し、ほかのことを考えていた」


 続けてまぁいいんじゃないか、と言いかけて思い留まる。こういうときに曖昧な言い方は、よくない。

 私は気持ち意気込んでから、言った。


「服も、髪型も、お前によく、似合っている」


 こいつが風邪から全快したときのように、口調がぎこちなくなってしまう。

 本心を口にするのは、まだ慣れない。


「本当ですか」

「世辞は言わん」


 私はぎこちなさを紛らわすために、ぶっきらぼうに答えた。それでもフラウリアの頬は嬉しそうに上がった。


「それと金は返さなくていい」


 卒院生には新生活を始めるにあたって支度金が渡されているが、フラウリアの分は事前にユイから全部預かっている。もちろん家賃も食費もいらないとユイには言っておいたのだが、フラウリアが折れなかったらしい。それでもここは私の持ち家ということで、家賃を取らないことだけはなんとか説得してくれたようだ。なので今後は食費を入れることになるのだが、それもデボラには低めの金額を出しておけといっている。


「そういうわけにはいきません」

「いい」

「よくないです」


 きっぱりとフラウリアが言ってくる。本当にこういうことに関しては引かないなこいつは。

 この場合はどう言えば納得するかと頭を悩まして、ふと思いついたことを口にした。


「卒院祝いだ」


 フラウリアは目を見張ると、続いて嬉しそうに微笑んだ。


「ありがとうございます」


 どうやら納得してくれたらしい。そしてなるほどなと思う。特別な祝いごとならばこいつは素直に受け取れるのだと。しかし祝いならばもっと良いものを買ってやったのに……だが、そう言ってしまったからにはもう別に買うこともできない。

 そのことを少しばかり後悔しながら、突っ立ってるフラウリアにソファへ座るように勧めた。フラウリアは隣に座ると、初めて行った市街地のことを話し始めた。

 昨日はよく寝たお陰か、眠くならなかった私は仮眠を取らずにフラウリアの話を聞いていた。



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