2話 西からの商隊と魔道具
周囲の風を切り分けながら視認できる限界の速度で迫ってくる物体を、手に持った木剣で右にいなし、そのままの流れで上体を捻って正面の相手の左胴に一閃を放つ。
カンッ!という小気味のいい音を立てて木剣がかえるのを確認し、全身の緊張を解いた。
「やったぜ! これで10勝目だな」
「疾すぎて反応できなかったよ。 オルター、ここ数日で一気に強くなったんじゃない? 」
「もうお前の黄金時代も終わりだ、ファイ。 ここからは俺の連勝記録が始まるぜ!」
「そう簡単には負けないよ?」
「そう言ってられるのも今のうちだ」
そう言って二人で笑い合う。ファイが来てから、俺たちはライバルのように競い合い、高め合っていた。――俺の方が負けの数は圧倒的に多いが。
「よし、あとは町で母さんに頼まれたもの買って帰るか」
今俺たちがいる河川敷は村の中心地から少し外れたところに位置しており、ここから家と反対方向に行くとまあまあ大きな町がある。
近くの村の人々はみんなここに買い物をしに来るため、昼間はいつも人でごった返している活気のある町だ。
道中、俺たちは同じく町へ向かう途中の商隊に出会った。
どうやら、西の方にある港のある町から他国の珍しい品を売りに来たらしい。
「おーい。 ちょっと見せてくれよ」
「だめだ。 これは売り物なんだ。金を払わない子供に見せるものはないぞ」
「じゃあさ、おじさん。 見せてくれたら、町で売るのを手伝ってあげるよ。これでも僕たち、町でちょっと顔がきくんだ」
「仕方ないな。 見せるだけだぞ、触るなよ?」
「おう!」
ファイのナイスフォローのおかげで、荷馬車に積んである中身を見せてもらうことができた。
「ファイ、見ろよこれ。 見たこともないのがいっぱいだ」
「ほんとだね。 おじさん、もしかしてこれ魔道具?」
「ああそうだ。 ここの国では製造技術がなくて作られてない、超希少品だ」
「魔道具? 聞いたことないな」
「魔法を発動するための補助具みたいなものだよ。適性のない人でも魔力さえあれば、その道具に刻印された通りの魔法が使えるようになるんだ」
「ほぉ、よく知ってるな。 もしかしてここの国の人間じゃないのか?」
「……うん、まあね」
魔道具か。世界には本当に俺の知らないものがいっぱいあるな。適性がなくても魔法が使えるようになるなんて。――待てよ、そしたら俺にも魔法が……?
「おじさん、それ貸してくれよ! 俺も魔法使ってみたい!」
「ダメに決まってるだろ。これは高価な上に、使用回数に制限があるんだ。どこの馬の骨とも知れないガキに商品価値落とされてたまるかよ」
へぇ、使える回数がが決まってんのか。聞いたところあんまりたくさん出回ってないみたいだし、庶民には手が届かないな。ってこのおっさん今……
「馬の骨って言ったか!?」
「ああ、言ったぞ。 間違ってねえだろ?」
「まあまあオルター、落ち着きなよ。 ごめんなさい、おじさん。珍しいもの見せてくださってありがとうございました。では、僕たちはこれで」
「こっちの坊主はちょっとばかし好感が持てるな。どっかのガキと違って礼儀がしっかりしてる。町では祭りもやるらしいし、楽しんでこいよ、じゃあな」
「はい。ありがとうございます。 オルター、行こう」
こうして俺たちは商人のおっさんと別れ、足早に街へ向かっていった。
途中、
「あ! おいちょっと待てお前ら、商品売りさばくの手伝うって言ったろ!」
というようなおっさんの叫び声が聞こえたが、当然のごとく無視して道を急いだ。
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