1話 出会い
本日二話目です。
今夜の夕食をとり終わり、ずっと屈んでいて固まった腰を伸ばすと、自分の影がとても長く伸びていることに気づいた。
「もうこんな時間か。 そろそろ帰らないとまた母さんに叱られるな」
今日の収集物を背負っていたカゴに投げ込み、俺は帰路につくことにした。
「ん? あれは――人、なのか?」
俺の視線の先、遥か遠くに、殆ど点としか認識できないほどの大きさとなった人影らしきものがふと映り込んだ。
俺の村は王都やその他の主要都市からは程遠く、特にこれといった特産品や名物もないため、あまり外から人が訪れることはない。
そのことが余計に俺の好奇心を擽ったのか、気づけば俺はその人影に話しかけるべく歩き出していた。
「おい、どうした? こんな所に来るなんて、迷子にでもなったのか?」
さっきまで見えていた小さな人影の正体は、俺と同じくらいの年代の少年だった。
「……」
「言葉、分からないのか?」
ここの村は隣国であるネイブールとの国境線の割と近くに位置しており、もしかしたら気付かずにこちらにきてしまったのではないかと思ったのだ。
「わかる。 少しだけ」
カタコトではあったが、どうやら言葉は通じているらしい。
「ネイブールから来たのか?」
「うん」
「他に仲間はいないのか?」
「いない」
「そうか。もし家遠いんならうちに来るか? ちょうどもうすぐ夕飯の時間だしな」
「ありがとう」
夕飯の時間だから家に来いというのは自分でも意味がわからなかったが、もう少し一緒にいてみたいという気持ちが伝わったのか了承してくれた。
「じゃあ、行こうぜ」
これが、俺と他国の少年――ファイの出会いだった。
♦︎
ファイと出会ってから、もう二ヶ月が過ぎた。
村には俺と近い年頃の子供がいなかったこともあり、その頃には朝から晩まで二人で遊ぶことが常となっていた。
最近の俺らの間での流行りは、『一騎討ちごっこ』だ。
村の外れの河川敷の一本道に二人で距離を離して向かい合って立ち、互いに名乗りを上げてから木剣を手に相手に向かっていく。
本当は馬があればいいのだが、残念ながら村の馬は俺らが勝手に使っていいものではない。
この遊びを提案したのは俺だが、ファイが中々に強く、10回やっても一度か二度しか勝つことができない。
「やぁぁぁあ!」
駆け出した勢いを殺さないようにしつつ、上段に構えた木剣を素早く中段まで落とし、横薙ぎの一閃を放つ。
ーーよし、もらった!
だが、手にした剣に手応えはなく、虚しく空を切るだけに終わったことを伝えてくる。
同時に首筋にひやりとした感覚を覚えるが、全力の一撃を放った後の体勢から回避まではうつれない。
「まいったまいった」
6勝29敗。また不名誉な戦績を一つ増やしてしまった。
「いやぁ、振り下ろしだと思ってたら真横からきたからびっくりしたよ」
「さっきのは決まったと思ったんだけどな」
ファイはもうこの短い間に、俺の国の言葉をすっかりマスターしていた。
「今日の勝負も終わったことだし、お昼を食べに帰ろっか」
「そうだな」
「おばさんのパン美味しいからな〜」
ファイはなんだか、二ヶ月なんかよりもっと長い付き合いの親友みたいだ。
俺はこの頃、そんな感じをよく覚えるようになっていた。
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