皇居でのお話…終幕-2
長くなっちゃった
「終わったみたいねぇ?」
「そうだね」
キュールが俺に話し掛けてくる。
彼女は相変わらず酒瓶を飲んでいる。
夜空の下で飲む姿は良いと思うけど、それが一升瓶っていうのは全く良くないね。
今俺たちは、皇居を見下ろせるビルの屋上にいる。
今丁度、空間圭や他の三人が燃える宮殿から出てくるのが見えた。
「しっかし、消費しすぎたかなぁ」
「全くよ、特にそら、まけい?だっけ。アレに潰されたのが痛いわ」
今回はかなりの費用が掛かった。
三日ほど前に襲わせた人形部隊、それとヘリの全滅は痛かったなぁ。
兵隊はともかく、ヘリは痛すぎる。
ヘリの値段は馬鹿にならないからなー。
「なのにフィブル、貴方はなんであんなの助けたがったのかしら?」
「うーん、なんとなくかなー」
神器を取りに行かせた人形は一体。
何故か結界が解かれていたので投入することが出来た。
あとは神器を取ってくるだけだったが、圭を助ける為にほとんど蒸発してしまい、一つしか取ってくることができなかった。
「アレさえ助けようとしていなければ、ここには三つ揃っていた筈なのに、ねぇ」
キュールの手にバケツサイズの水の塊が飛び乗ってくる。
その水はまるで生きているみたいに見えるが、それが神器を取りに行かせた人形だ。
その水が体を震わせれば、元の人形に戻る。
炎の悪魔にぶっかけたせいで体積が減り、最早首しか失くなってしまっているけど。
「やっぱ、なんとなくで助けるのは良くなかったかなー」
「…これからは、何かするならちゃんと理由を教えて欲しいわ」
うん、まぁ、そのときは教えるよ。
「まあ、神器は無事に回収出来たんだし、あの人形狂いはどんどん作ってくれるから消費したっ、!?あー、もう最悪だ」
「どうしたの?」
突然の不快感、背中を舐められたような感覚。
悪態をついた俺にキュールが驚いたように聞いてくる。
「あの人形狂い、また俺の人形を勝手に作ったみたい」
「…アッハッハッハ!ま、また、フィ、フィブルの、ハッハッ!」
「笑いすぎ」
笑い事じゃないんだから。
あの気狂いの人形師リオは、時々俺達の人形を作っては遊ぶ。
その人形がただ単に俺たちに瓜二つとかそれくらいならいいさ。
しかし残念なことに、それはただの人形ではない。
人形の感覚は、俺たちに繋がっている。
「ハァ、ハァ、ごめんなさいね。でも、笑わずには居られないじゃなぁい?何かされたんでしょ?」
「…背中を舐められた」
「アッハッハッハッハ」
笑わないで欲しい、笑い事じゃない。
もし交戦中にされたらたまったもんじゃない。
それはキュールも、よくわかっている筈だ。
「ハッハッ、ハァ、ハァ、ハァー。ふぅ。ほんと、あなたっておもしっ!?」
あ、これは間違いないね。
舐められたね。
「リオー…!」
「御愁傷様。まぁ普通に考えて同じくらいの時期に処分させたし、同じくらいの時期にまた作ってもおかしくないからね」
リオは何度言ってもやめない人間だ。
過去に何人も被害に遭っている。
しかも頼まれごとは完璧にこなすから質が悪い。
俺達九人の中でも好きと嫌いで半々くらいに別れるようなやつ。
俺は嫌いではないけどね。
「あいつ!帰ったら一発殴ってやる!」
キュールは嫌いなようだけど。
悪いやつじゃないんだけどねー。
ただちょっと、独特って言うか何て言うか。
使えるやつなんだからちゃんと利用してあげないと。
「じゃあ、神器は回収出来たし、そろそろ帰る?」
「えぇそうね、殴るじゃなく土に還すくらいにしなきゃ」
あ、駄目だこれ、完全に話聞いてないわ。
もう用はないし、引きずって帰ろうか。
俺は転移の門を開きキュールを引きずる。
「はーい帰るよー」
「待たぬか小僧供」
俺達の耳に届いたのは老いた声。
正体は分かっている。
「やあ、久し振りじゃないか!会えて嬉しいよ、オーン?」
振り返って見れば、若い悪魔を肩に担いだオーンの姿。
俺の白々しい対応に、キュールがじと目を向けてくる。
こんなの彼に対する挨拶程度のことなのに、何がそんなに不満なんだ?
「ハッ、白々しい。邪魔ばかりしおって」
僅かに怒気を込めた表情で言ってくる。
何のことかはもちろん分かっている。
敢えて邪魔するように事を行ってたからね。
三日程前に部隊を送り込んだのと、さっき炎の悪魔に水をぶっかけたこと。
他にも結構いろいろやってるなぁ…。
「ハハハ、それで?何か用かい?」
わざわざここまで来たってことは、神器を寄越せとかそういうことかな?
俺には渡すつもりはないし、力ずくなら取られないけど。
「…いや、今はやめておこうかの。アレは暫く、小僧供に預ける」
「あら、そうなの?貴方のことだから、てっきり『俺達のだ!寄越せー!』とか言いそうなのに」
オーンにしては珍しいな。
『ワシらの問題じゃから余所者は失せぇ』とか言って何度か邪魔されてたんだけど。
神器こそ、君たちが最も必要としているモノじゃないか?
「残念ながら、アレ一つでは意味が無いからのぅ。今回はたまたま彼処へ入り込めたが、この先、いつか入り込むことが出来るとは限らんからのう。それの保管よりもこちらが優先じゃ」
「三つ揃ってれば全力を持って奪い取りにきたってことだね。それは怖いな、オーンはとても強いだろう?まあ、オーンが本気を出してくれるのかはわからないけど」
「…」
彼は本気を出さない、いや出せない。
そんな彼とやり合ったところで、結末は見えているしつまらないだろうね。
「でもあれだね、結界を突破しようなんて難しいことをしようとするなんて、流石悪魔達だね」
「主らに出来てワシらに出来ぬ筈なかろう」
「いや、出来ないいけど」
「?」
あれ?もしかして、勘違いしてるのかな?
「結界が解けたのに関しては全く関わってないよ」
「…そうなのか?」
「うん、たまたま解けてたから人形部隊を投下しただけだし、神器を回収できた」
「…へー」
あ、なんか元気無くなっちゃってるけど大丈夫?
「はぁ、まあよいわ。こんなもん担いで戦う余裕などありゃせん、早く行くがいい」
「そうだね、そうするよ。あんたも、いつアレに見られているかわからないんだから、拠点に帰るときは気をつけたほうがいいよ」
「貴様に言われんでも分かっとるわい、貴様より何千年長く生きていると思っておるんじゃ」
「それじゃ、お疲れ様。…ふぁあぁ」
トントン
電話を切って欠伸をしていると、入り口のドアが叩かれる。
「どうぞ」
「失礼します」
この声は、メイちゃんだね。
メイちゃんは俺の部下に当たる。
一応他の関係性もあるが、今は別にどうでもいいか。
「言われていた通り、皇居の守護結界の操作を終えてきました」
「うん、お疲れ様」
メイちゃんには、皇居の結界の操作を頼んでいたんだ。
メイちゃんのおかげで、うまく事が運んだよ。
「時間的に、空間少年から連絡が来るそうですが、どうでした?」
「うん、ちゃんと来たよ」
「あっ、やばい、聞き忘れてた」
「もしかして、宮殿や相良様のことですか?」
「…うん」
「はぁ、貴方って人は…間抜けが過ぎるんじゃないですか?」
「えっ、ちょっと酷くない?」
あ、メイちゃんがアホを見るような目で見てくる…。
辛い…。
「いえいえ、そんなことはありませんよ?私は、心の中では何度も同じことをする馬鹿丸出しな御老人だと思ってはいますが、そんなこと一言も口に出してはいないですよね?」
「いや、今口にして…。はぁ、俺だって疲れてるのに…」
「ならもう休んでください」
あぁ…メイちゃんの眼差しが冷たい…。
俺のこと心配してるのは分かるけど口調が冷たいよ…。
「いや、まだ終わってないかもしれないでしょ?迎えに行かせた人たちに報告してもらわないと、僕だって休めないよ」
「はぁ、またですか…。そろそろ私の能力を忘れるのはやめてほしいんですがね」
「…あっ」
あいっけねぇ!テヘペロ(・ωく)
「テヘペロじゃないですよ」
「ごめんごめん。完全に忘れてた」
「はぁ、全く…」
呆れ、そう言いながらメイちゃんは目を見開く。
すると、彼女の目がゴロゴロ動く。気持ち悪い。
まぁ、わざわざ俺の為にその能力を使ってくれてるからいいんだけどね。
むしろ失礼だよね俺。
「…喜んでください。相良様、天皇陛下並びに赤炎少年は無事なようです。ただ、天皇陛下は気を失っているようです。また、空間少年の姿もありません。ですが、宮殿の方は無事に焼け崩れています」
「おお、そうなの!良かった!…ふぁあぁ」
あ、欠伸したらメイちゃんに睨まれちゃった。
悲しい。
圭君はどっか行っちゃったのかな?
泡餓君は残ってるってことは空間君が泡餓君に陛下を任せたってことかな?
「圭君が気になるけど、まぁ、良かったー!やっと終わるぅ!はぁー、良かった良かった」
「はしゃぐのも良いですが、本殿はどうするんですか?」
楽しく笑っていた俺の肩がピタッと止まる。
「あ…」
「それと、三日程前。貴方は覚えていないかもしれませんが、皇居の結界が解けていた件に関しても調べる必要がありますよ」
「…あっ」
「貴方は本当に役立たずですね」
メイちゃんが自分の携帯を開き何事か打ち込んだ。
「では、宮殿の修繕費は協会と貴方で分割ということで」
「…ちなみに、割合は?」
「1:1ですが何か?」
「…いえ、なんでもありません」
経費で落ちないのか…。
懐が寒いなぁ…。
かなりの量伏線を張ってしもうたわい
大丈夫かのぅ…
設定間違っておらんと良いんじゃがのぅ