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世界の闇は陰にて嗤う  作者: おれんじじゅ~す
GW ~空間の魔術師~
32/46

知能が低いのか理不尽

転移が発動し、圭たちは聖山と泡蛾のいる空き地に戻ってきた。

景色が変わると、それと同時に詩織の意識が途絶え倒れていく。

それを途中で紗耶香が支え、ゆっくり座らせる。



「聖山ぁ!」


空き地に圭の声が響く。

その声を聞いて、テントから聖山が出てくる。


「思ったより早かったね、何かあったの、ってえっそれ」

「重症だ、早く手当を」

「う、うん」


聖山はテントに戻って救急箱を持ってくる。

一緒に出てきた泡蛾は、詩織の腹を貫いている腕を見て言葉をなくした。


転移のとき範囲内にあった、詩織を貫いたディーの腕部分だけがこの場所へ転移した。

腕の切り口は鋭く、切れたと言うより消滅した感じになっている。


「これは酷いね。下手に引っこ抜けば一気に出血して死ぬ。ここから病院でも間に合うかどうか」

「聖山、少しの間なら俺の空間魔術でどうにかできる。あとはここで空いた穴を防げるか、だ」


圭の魔術なら、腕を抜いて空いた穴に壁を作り、漏れや空気との接触を防ぐことが出来る。

しかし、転移魔術を二回使ったことで圭の魔力は残り僅かだ。

ここから病院まではもたない。

ここで、腕を抜きどうにかして穴を塞がなければならない。


「…私がやる」


ここで紗耶香が名乗り出た。

考えがあるようだ。


「お前が?」

「…出来る。だからあなたは、遠くに行って」

「んん?」


紗耶香は出来ると主張するが、何故か圭を離れさせようとする。

圭は意味が分からない、とガンを飛ばしている。

聖山も困ったような表情を浮かべる。


「…あなた、臭いって、この子が言ってる。…あなた、が離れないと、この子、力を使ってくれない」

「は?」

「ふむ、なるほどね」


喋り慣れていない感じで話す紗耶香の、その理由に益々意味がわからなくなる圭。

それからすぐに、「あっこの子は痛い子なんだ」と認識を改めた。

一方の聖山は、なんとなく理由がわかったようだ。


「雨水君、その子のこと、圭くんに言ってもいいってことだよね?」

「…うん」

「え?存在してんの?」


圭に「この子が~」と言っているのだから、教えても問題ないよね?ということを質問し、それを了承する紗耶香。

圭の方は、紗耶香の言う「この子」が完全に架空の存在だと思っていたが、聖山の対応から本当に存在しているっぽいことを悟った。


「圭君、雨水君は精霊と友達なんだよ」

「へぇ、精霊」


『精霊』

精霊とは、魔獣とはまた違う存在で、感覚的に言えば幽霊のようなものだ。

見える人には見え、実体は無く触れはしない。

魔力を持っており、悪魔とは若干違いがあるが『魔法』を使いこなす。

精霊に気に入られれば『契約』をすることが出来、精霊の力を使うことが可能となる。


「彼女の精霊は、どうやら君が臭いから近くに居て欲しくないそうだ」

「意味が分かんねぇな。俺からなんの匂いがするってんだよ?おい」

「え、いや俺に言われても困るって。彼女に聞いてよ」


精霊は圭から臭うと言っているが、圭にはその匂いが感じられない。

何も言われてないことから圭だけでなく、他三人にも匂いが感じられていないはずだ。

何も匂わないのに、なんの説明も無しにただ「臭いからあっち行け」と言われてハイそうですか行ってきますぜヒャッホウ!とはならないのだ。


「…臭いって」

「なんの匂いか聞いてんだろうがよぉ!…ちっ、じゃあ俺は手伝わなくていいんだな?」

「…臭いから、あっち行けって」

「こんの…!」

「まぁまぁ圭君、精霊はそういうところがあるから諦めよう」


全く会話にならない精霊にほぼキレた圭は、聖山に宥められ離れていく。


「雨水君、腕を抜いていいかい?」

「…大丈夫、準備はできた」

「よし、泡蛾君ここを押さえて」

「あっ、はいっす」


完全に空気と化していた泡蛾に、詩織の脇腹を押さえるように伝える。


「じゃあいくよ。せーのっ」

「くっ」


聖山が一気に引っこ抜く。

気絶しているはずの詩織が痛みに喘いだ。


腹の空いた穴からは、臓物がこぼれ落ちるようにはみ出ている。

泡蛾は人を殺したことはあるが、魔術の性質故真っ黒になるため内臓などのグロテスクな物には耐性があまり高くなく、顔を顰める。



真っ暗な空間の中、紗耶香の隣に淡い光が生まれた。

その光は踊るように詩織の患部へ向かう。

そしてそれが触れたとき血が止まり、抉れた場所から光が広がっていく。


その淡い光こそが精霊だ。

精霊の姿は素質ある者か、その精霊が許した相手しか見ることを許されない。

精霊が強めの魔法を使うとき、常人にもその存在を知ることが出来る。



穴の空いた部分に、網目状に光が降りて行く。

それから肉がゆっくりと再生していく。


詩織の治療をしている間、手が空いた圭は辺りの警戒をしている。

空間系の魔法を使う以上、オーンがこの場所へ来る可能性は否定出来ない。

とは言っても、出口用魔方陣を破壊すれば使えなくなるので、暇になっている。




いくらか時間が経った頃、詩織を覆う光が消えた。

空いていた穴は見事に塞がっている。

詩織の呼吸は今では、落ち着いた一定のリズムを保っている。


「終わったのかい?」

「…うん、終わった」

「あー、よかった。おっ、どうやら朝になってしまったようだね」


詩織の容態に気を配って集中していたら、既に日が顔を出している。

圭の方は既に寝ていた。


聖山はテントから毛布を持って詩織に掛ける。

他に泡蛾と紗耶香にも睡眠を促そうとしたが、紗耶香は既に毛布にくるまって寝ていた。

行動が早い。



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