懐かしい夢
「ただいま!」
「おかえりなさい」
家の周りにある森から帰ると、母さんが出迎えてくれた。
家は木造のログハウスだ。
「かあさん、きょうのごはんは?」
「今日はね、圭の大好きな肉じゃがよ」
「やったー!」
リビングに入ると、父さんが話しかけてきた。
「圭、魔術の練習はどこまで行ったかい?」
「きょうはね、いしころをうかせたんだ!」
「おぉ、遂に物を動かせるようになったか。あとで、見てあげるよ」
「わーい!」
久し振りに、父さんが魔術の練習を手伝ってくれる。
最近はずっと仕事だったから嬉しい。
躍る胸を押さえる。
そういえば、兄さんにこれを頼まれていたんだ。
兄さんの居る部屋へ入る。
「にいさん、たのまれてたのつかまえてきたよ」
「ありがとう、圭。その机に置いといてくれ」
「はーい」
兄さんに頼まれていた物を渡したし、本を読もう。
そういえば、土を触ったから手が汚れちゃったんだ。
手を洗って、子供部屋にある絵本を取ってリビングソのファーに座る。
「ねぇねぇおにいちゃん」
「なぁに?あん」
妹の杏に呼ばれた。
「みてほしいものがあるの。ついてきて」
「いいよ」
僕は本を閉じて杏についていく。
杏は、子供部屋に入っていく。
その後に続いて僕も入っていく。
杏は魔力や精霊を視れる魔眼を持っている。
その眼で精霊と遊んでいるところをよく見る。
時々、精霊が変なことやってるって教えて連れて行ってくれるけど、僕には見えないからわからない。
僕が部屋に入ると、後ろに回ってドアを閉める。
そして、今入ってきたドアを指差し。
「このドア、あけてみて」
そう言った杏は、ドアから離れる。
自分で閉めたのになんでだろう、そう思いながら開けてみる。
「…え?」
そこにはソファーでくつろいでいる父さんと、夕飯を作っている母さんがいる、はずだった。
それが、どうだろう。
ソファーも、テーブルも、台所も、壁も床も、全てが燃えている。
父さんも母さんも焼け焦げて、床に転がっている。
「ひぃっ」
信じられない光景に腰を抜かし、尻をついた。
「おにいちゃん」
杏が僕の肩を叩いて呼ぶ。
「なっ、なんっ、なんで、これ、あ、あん――」
動揺しながら杏の方を振り向いた。
そこにあったのは身体中が焦げ、目が抉り取られ、眼孔が剥き出しの杏の姿。
『ゼンブ、オマエノセイダ――』
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァー」
久し振りにあのときの夢を見た。
人を殺しまくって興奮していたのかもしれない。
とにかく嫌な夢だった。
「朝か?」
そこはどこかの一室のようである。
圭が寝ていたのはソファーの上で、体には毛布が掛けられている。
辺りを見回すと、日が射す窓と、椅子で寝ている泡餓の姿が。
圭は立ち上がり、泡餓を揺する。
「泡餓、起きろ」
「んん…もうちょっと…ムニャムニャ」
ガンッ
キレた圭は、泡餓が寝ている椅子の脚を蹴る。
「ふぅいあ!なんすか!敵襲っすか!」
「朝だ朝、てめぇ着いたら起こせって言ったよな」
「あ、すいませんっす。起こしても起きなかったもんで、聖山さんに報告してそのまま仮眠取ることにしたっす」
「あー、そうか、魔力使いすぎたしなぁ」
魔力をほとんど使い切ったため、体に疲労が溜まり、そのまま深い眠りに入ったのだ。
魔力を完全に使い切ると気絶してしまうため、戦闘中は魔力の残りに気をつけなければならない。
「ところで泡餓、天皇はどこだ?」
「天皇陛下なら、宮内庁の方々と共にいるっす」
泡餓は聖山に、皇居に残してきた死体の調査を仰ぐついでに天皇をどうするか聞いたら、宮内庁に一旦預けるということを聞いた。
そのときには既に聖山は宮内庁に連絡をしていたため、宮内庁の職員がすぐにやってきた。
その際宮内庁長官から「なんで先に連絡してくれないんだ」と苦情が入ったそうだ。
「宮内庁と一緒か」
「それで、長官から直々に依頼として入ったんすけど、必要になったらまた呼ぶって、しばらく暇になったんすよ」
「それなら死体の調査とかしてていいか?」
「あっ、それなんすけど…」
泡餓はとても言いづらそうにしている。
「なんかあったか?」
「…いえ、何も無かったんす」
「無い?」
「はい、無いんす。死体も、血痕も」
圭が殺しまくった連中は、まるで幻覚でも見ていたのか、と思うくらいに存在していた証拠が無かったのだ。
あったのは建物に付いた僅かな傷跡だけ。
それ以外は、普段通りの皇居だった。
「どういうことだ?」
「さぁ」
「時間はあんだよな?とりあえずあそこを調べに行くぞ」
「えぇちょっ、聖山さんに許可を得ないと!連絡しないで苦情入ったばっかなんすから!」
「そんじゃあさっさと取ってこい」
「この人完全暴君じゃあないっすか!俺はパシリっすか!朝飯食ってからにしましょう!」
圭の横暴さに困りつつも、結局はいつも通りの泡餓だった。