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世界の闇は陰にて嗤う  作者: おれんじじゅ~す
GW ~空間の魔術師~
16/46

ある夜に

三人称視点で

書きやすかったらこれでいくかもしれない

月明かりが照らす夜。

大窓から月が覗ける一室で、月明かりを背に机に並べた書類を整理する老人の男性がいた。

彼は自分の仕事を、数日後に自分の息子に引き継ぐ。

今しているのは、最後の書類整理だ。


「もうすぐですか…」


誰も居ない部屋で悩ましげに呟く。

彼の仕事は書類整理では終わらない。

五月一日、新元号になる日に最後の仕事が待っている。

その仕事には代々、三種の神器として国に言い伝えられている物が用いられる。

その神器には多大な力が宿っているとされているが、それを感じることが出来る者は、殆ど残っていない。


しかし彼は、その数少ない人物の一人である。

その力の強大さを一度、肌で感じたことがある。



三種の神器は、日本各地の神社へ奉納されている。


これは、世間を欺くための嘘だ。

彼が今居る、皇居に保管されているモノは全て古来から現存するものだ。

代わりの物ではない。

皇位継承の際に使われるモノは実物ではないとされているが、三つとも神器の実物である。

何故矛盾のようなことをするのか。


それは、例え神器の力を狙う者共に奪われるリスクを背負ったとしても、儀式の際に使用しなければならない物だからである。


神器の役割は、国の平穏無事を守り続けることだ。

どれだけ争いが起こったとしても、神器を祀り続けることで国を維持することが出来る。

だが逆に、少しでも扱いを疎かにすれば、国は滅びの危機を迎える。



元々日本という国がある島は、人が住めるような場所ではなかった。

そこを住めるようにしたのが三種の神器だ。

震える大地、燃え爆ぜる山、荒れ狂う海。

それらを収めるのが神器の役割だった。

そしてそれを天皇の先祖に渡したのが、天照大神を名乗るものだ。

天皇の先祖は神器の力で島を住めるようにし、国を作った。


しかし神器とはとてもデリケートな物だ。

少しでも扱いを間違えれば国を覆う力にむらができて、地震や噴火などが起こる。

それを神は天皇に伝え、それを子孫へ伝えるように言った。


だが天皇も人間であり、間違いは起きる。

神器の力を私利私欲のために使おうとする者。

自らが神器を操り国を護っているのだという、名誉を欲する者。

その者共が先祖の言葉を忘れたとき、必ず大災害に見舞われてきた。

その度に皆心を入れ替え、国の安定に尽力する。

そうして国は続いてきた。

この国の歴史の多くは、三種の神器によって紡がれたと言ってよいだろう。


だが時代は進み、情報の流通がスムーズになった。

そのおかげで神器の存在が世界中へ流れた。

それと同時に、神器は力を求める組織に狙われることを知った。

このままでは、国が危ない。

だから隠すように散らした、ように見せた。



神器は変化を望まない。

神器は三つ揃って役目を果たす。

これが現天皇の悩みのタネだ。

他にもっと良い方法は無かったのか。

どれだけ考えても神器の特性によって実現は不可となる。


せめて継承の儀で使うのはレプリカ、複製にしてほしい。

だが神器は、天皇にしか扱えない。

神器を扱っていないなら、その者は天皇ではないのだ。

神器に正式に、天皇が変わったという事実を教えなければならない。

なんとも面倒くさい性質だ。

神器を公に晒せば面倒事がやってくるのに、晒さねば国は続かない。


「はぁ…」


溜め息をついて、作業の続きを行う。


「そんなに仕事が面倒なのかよ」

「!?」


突然聞こえてきた青年の声に驚き立ち上がり、そちらを振り向く。

大窓の前に立っていたのは白髪混じりの、年の頃十五程の少年だった。


「わかるぜ、仕事って面倒だよなぁ」

「君は誰ですか?」

「俺か?俺は空間圭(そらまけい)だ。あんたが天皇でいいんだよなぁ?」

「ええ、そうですよ」


天皇は会話をしながら、圭に気付かれないように、いつでも動ける準備をしていた。


「まぁまぁ落ち着けよぉ、天皇。俺は仕事をしに来ただけだ」

「仕事、ですか」


仕事と聞いて、察する天皇。

この時期に来たということは、三種の神器が関係していることは確か。

音もなくこの部屋に侵入するとは、相当の手練れだということがわかる。

油断をすれば、やられる。


「そうだ、仕事だ」

「!」


圭がそう言うと、天皇の背後の扉が蹴破られた。

そこから、防弾チョッキにヘルメットで銃を構えた特殊部隊のような者共がなだれ込んできた。

銃を構えられた天皇は、自らの死を覚悟した。


「サヨナラだ」


圭はそう言うと、


パチンッ


と一つ指を鳴らした。

それと同時に、特殊部隊は皆一様に体中から出血して倒れた。

突然のことに動揺を隠しきれない天皇。


「あなたは一体…」

「あぁ?協会から話来てねえのか?」

「協会…魔術師協会の方ですか?」

「そうだよ。俺は協会からの指令であんたの護衛に来た」

「なるほど。それはありがたいですね」


天皇は圭が味方だと知り落ち着いた。

先に話が来ていないことに少し不満を持ったが。


「とりあえずその書類を仕舞っとけ。ここは危険だ、移動するぞ」

「分かりました」


机の上の書類を引き出しへ仕舞っていく。

たとえ窓から狙撃されても、彼の魔術なら自分を護ってくれるだろうと安心しているそこへ


「面倒だからあんたが警戒を怠るなら護らねえぞ」


という言葉を聞いて少し焦って仕舞う。


「これから玄関までゆっくり進め」

「ゆっくりですか?」

「そうだゆっくりだ」


そう言うと、圭の姿が見えづらくなった。


圭の意図を理解出来ない天皇。

協会が寄越した人材なら信頼に足る人物だろうが、これになんの意味があるのだろうか。

よく分からないまま廊下に出て玄関へ向かう。

そこへ、先ほどの奴の仲間が走ってきた。


ダダダダダダダッ


当然撃たれる。

廊下と言っても窓が幾つも付いているので、見晴らしは良い。

つまり、狙撃のいい的だ。


パリンッ


横の窓が割れライフル弾が打ち込まれる。

普通なら既に蜂の巣状態だろう。


「ははっ、掛かった掛かった!」


だが此処には魔術師がいる。

撃ち込まれた弾丸は全て、当たる前に空間に静止している。

打ち込まれたどの弾も、狙いは肩や脚と、殆ど即死の場所が狙われていない。

これだけで、敵の狙いを察することができる。


「お返しだぁ!死ね!」


弾の向きが変わり、飛んできた方向へ帰っていく。


「グハッ」


敵の体が蜂の巣となり、血を吐き出して倒れる。


「自分の弾で死ぬなんて、滑稽だよなぁ!」


次々とやってくる敵を殺していく圭。


とても楽しそうに人を殺す圭に、天皇は戦慄した。

人の死をバカにしてわらうのが、こんな少年だなんて。

魔術師協会は大丈夫なのか、と。


そこで天井から、男が染み出て来るのが目に入った。

それは異能力と呼ばれるモノだ。

そいつは圭を見つめている。

その手にはナイフが握られている。


「フンッ」

「グッ」


そのままなら恐らく、男に気付いてない圭はやられていただろう。

だが天皇が、隠し持っていたナイフを男に投げ刺した。


「へぇ、やるなぁ。流石天皇だ」

「それより、私を囮に使いました?」

「あ?それがどうした。面倒な仕事が纏まってくれて楽だろ?」

「はぁ…」


開き直る圭に、天皇は溜め息を吐くしかなかった。


「先を急ぎましょう」

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