始まりの合図-5
その日の夕方、宮野作也は。
「あぁー!!」
最後にカッコつけて痛めの発言をしたのが恥ずかしい!
という感じで布団にくるまり、枕に顔を沈めていた。
何があったのかわかりやすく纏めると。
街に魔獣を放った
その魔獣たちを討伐していく人々が、一つの建物から出てきていた
だがその建物から出てきた、二人が怪しい動きをしていた
ビルの上から見た限りでは、魔獣を一般人の方へ導いているように動いてる気がした
それに見入ってしまったせいで、不覚にも背後をとられてしまった
不死身でも痛いものは痛いので、なんとか刀で刺されないように話し掛け、時間を稼ぎ
後方に創った穴から狼に襲わせることで、わずかな隙を作ってある程度離れたところへ退避
忘れていた宣戦布告ついでに怪しい二人組はたぶん組織の裏切り者だろうと予想して、彼女の組織に潰れてもらわないように忠告をした
だがそのとき言っていた言葉がよくよく考えみると、かなり痛めのモノだったことに気づき布団を被って悶えている
宣戦布告をしたが、警戒だけさせて自分は特に何もしない。
何もしないというか目立ったことはせず、ひっそりと暗躍?していこうという考えだ。
宣戦布告をすれば、なんか大々的に仕掛けてくるんじゃないかと思わせ、無駄な警戒をさせ、本命を簡単に突けるようになるのではないかという考えだ。
彼女の組織に潰れて欲しくないのは後ほど。
さて、今回のことを起こした経緯について話そう。
加害者も被害者も消せばいいと思ったあとすぐに、なんでそんな思考に陥ったか疑問に思った。
自分が考えるようなことではない、自分の思考が自分でコントロール出来ていない。
自分が自分じゃない何かになってしまったような、有り得ない思考になっている。
心当たりはあった。
それは、この能力。
この力を得たことで自分の中の、人として大切な何かを失ってしまったのか。
あの説明書には、副作用はないと書かれていた。
果たして本当にそうなのだろうか。
よく考えれば、あの本を信用し過ぎていた気がする。
普通なら有り得ない(魔術を知る前)ことなのに、それが当然、それが正しいというように、説明書を鵜呑みにしていた。
きっと、これが能力の副作用だ。
自分の力という存在に信頼を持ってしまう。
何故得たのかよく知らないのに、使おうと考えてしまう。
これはきっと良くない。
いずれ自身の破滅に向かうだろう。
ただ、それならそれで引っ掛かることもある。
自分が力を得た理由。
わざわざ文字化けさせて表示する必要があるのか。
俺には思い付かなかった。
なら、説明書の全てが嘘ではない可能性もある。
だから、能力の根源などというものを探してみようと考えた。
能力の源がなんなのか。
どこかそういう空間や次元にあるのか、自分の中にあるのか。
説明書は珍しく答えなかった。
不明とも言わなかった。
もしかすると、それが能力の限界で、人間が能力の根源に触れることは出来ないのかもしれない。
だが、人間でないならどうだろう。
それこそ神とか悪魔とか。
人間より上位の存在なら知っているかもしれない。
なら、探るしかない。
俺だけがこんな力を持っているとは限らない。
持っている者達が組織になっているなら、何か行動を起こせばその者達と接触できるかも。
ここまでの殆どが可能性の域を越えないが、実際に見て確かめればいい。
そして、どうせならあいつらに嫌がらせをしてやろうと考えた。
決行するのは、引っ越し直後。
出来るだけ早くことを起こしたい。
それでカレンダーを見て、三月下旬に祝日があるのを知った。
引っ越し直後にやるなら、ご近所さんへの挨拶とかが遅れる。
なら平日にやれば、仕事がある人が殆どで帰ってくるのは夜になり、それならご近所さんへの挨拶は翌日で済むかと思う。
翌日が祝日なのに怪我をさせるという嫌がらせにも繋がり、丁度良いから三月二十日にする。
それまでどういう風にすれば死なない程度に被害を大きくできるか考え、目立つ弱点を付けた魔獣を放つことにした。
弱点を付ければ、警察の人なら簡単ではなくとも魔獣を駆除できるだろう。
そして決行日、引っ越しを午前中に済ませてお昼を食べ、街に戻る。
自分の姿を見られないよう、様々な効果を付与したコートを着た。
このコートは視覚的に見えなくしたり声を変えることもできる。
一気に魔獣を生み出すなんて一瞬で気絶してしまうので、予め石のなかにある仕組みをしておき、街にばらまく。
迷宮の入り口は、物に直接開くので、持ち運びできるが物よりも大きな入り口にはできない。
なので石のなかに長い空間を創って底にバネを置き、一メートル程の棒で押し込む。
これで入り口の穴が開けば棒が飛び出すようになる。
その棒にも同じように、今度は一メートル四方の板を入れておく。
そしてその板の中に魔獣を入れておいて、同時に解放する、ということにした。
入り口のサイズを変えるだけならたいして疲れることはない。
毎日少しずつ魔獣を貯めておいたので、あとは入り口を開くだけ。
できるだけ高いところから見下ろしてあいつらが被害を受けるところを見たいので、一番高いビルに登る。
一時が過ぎ、あいつらが午後から遊び始めるのならそろそろだろうと魔獣を解放する。
魔獣が暴れ始め、混乱する街。
人を瀕死になるくらいにして離れるように設定しているため、死者は殆ど出ない筈だ。
それから十分ほど経つと、警察が発砲を始める。
きっと上司から発砲許可が降りたのだろう。
それとほぼ同時に、警察以外の数人によって魔獣が倒され始めた。
なんか魔法みたいなものを使っている。
恐らくあれが、俺が考えていた秘密の組織だろう。
警察とほぼ同時に動き始めたということは、国と繋がっている可能性がある。
国と繋がっているなら、国にも魔法についての資料があるかもしれない。
それからちょっと考えて、目立つように襲うと思わせておいてこっそりと漁ろうと思いつく。
だんだん多くの人が、ある家を出入りし始める。
その内の一人を見ていると魔法を使ったので、恐らくあそこが拠点なのだろう。
その出入りを見ていると、知っている顔を見つけた。
井浦奈美だ。
いじめられていたあの子が魔法使いとは流石に思わなかった。
井浦と他三人くらいが家に入っていく。
そんなとき、違和感を覚えた。
家から出てきたある二人を見つめていると、どうやら魔獣を一般人の方に導いているようだ。
それには少し焦った。
予定では、魔獣は大体同じ場所に居座らせて、無駄に集団で襲わないようにしていた。
一般人でも倒せるようにだ。
だが、あの二人に自分で釣られると移動してしまう。
もうこの際一般人はどうでもいいが、その組織を裏切るという可能性は困る。
もしその裏切りで国と繋がる組織が潰れれば、能力の根源の唯一の手掛かりが消えてしまう可能性がある。
また、あの二人が手掛かりを奪ってしまえば、俺がそれについて知ることができなくなる。
あの二人はどうにかせねば。
そう考えていたら次は、頭に刀を突き付けられた。
刺されたくないからと焦って口を回し、自分が探しているモノについての発言をしてしまったことに、新居に戻ってから気づいた。
しかも言葉選びがちょっと痛い。
彼女が気にしていないことを願う。
それで時間をかけてなんとか新しく魔獣を生み出して隙を作り、屋上から飛び降りて迷宮の力で転移陣を創って新居に帰った。
それで現在の新居だが、一軒家で一人で住むには少し大きい。
祖父が用意してくれたが、別にアパートでもいいのにな。
案外俺のことを大事に思ってくれているのかもしれない。
使わないだろうガレージと作業できる空間があるのは嬉しい。
能力の研究ができる。
さて、ニュースはどうなっているだろう。
それなりに死傷者は出た。
魔法や魔獣について何か発表があるのか?
ワクワクしながらテレビを点ける。
『今日一時頃、山から降りてきた野生動物の群れが民間人を襲い、多数の死傷者が出ました』
へぇ、なんか無理がある気がするんだけど。
たぶん大丈夫なんだろうな。
テレビを消して、ご飯を食べて寝る。