表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界の闇は陰にて嗤う  作者: おれんじじゅ~す
始まりの目覚め
10/46

始まりの合図-4

非常階段を駆け、屋上まで登ってきた。

屋上を見回すが、人影は見えない。

人影は見えないが、代わりに魔眼で視ることでその存在を見つけることが出来た。

街を見下ろして居るのか、屋上の縁に座っている人型の魔力が見える。


その魔力に歩み寄る。

姿は見えないが、魔力の流れがあの魔獣たちのような機械的な動きではないから、ここには今回の黒幕が隠れているのだろう。

それにしても姿を消す魔術なんて、聞いたことがない。

これは強敵かもしれない、気を引き締める。


すぐ近くまで来たので、刀をそいつの頭に突きつける。


「お前が魔獣を放った犯人か?」


私が声をかけたとき、そいつがビクッと動くのが見えた。

ここまで人が来るのは想定外ということか。

なら今、不意を突けているのなら、この優勢の状態を守りたい。


「…あぁ、そうだよ?驚いたなぁ、いつの間にか後ろにいるんだねぇ」

「何故こんなことをした」

「怖いなぁ、人に物を尋ねるときはまずじ」

「状況が解っていないのか?」


こいつは余裕ぶっているのか、本当にこの状況でも余裕なのか。

情報が少なすぎてわからない。

頭であろう場所を刀で小突く。


「ちょっやめてやめて。わかったから、刃物で刺そうとしないでよ怖いなぁ。なんで魔獣を放ったか、ね…。君は、時々ニュースとかでやってるいじめ問題についてどう思ってる?」

「いじめ?」

「そう、いじめ。僕はね、それを無くしたいと思ったんだよ。どれだけニュースで報道してても、いじめは無くならない。生徒を守る先生ですら、見てみぬふりだ。根本的なことを解決しなければ、無くならない。なら、どうすればいいか。直ぐに思いついたよ。いじめをする側も、受ける側も、居なくなればいいってね。それで、僕の話を聞いて、君はどう思った?」


私の回答を求め、話を振ってくる。

確かに、いじめは社会問題と言っていいほど、ニュースで取り上げられる。

自殺した、というニュースも聞かないことは無い。

いじめは無い方がいい、それは私も思う。

だが、どちら側も死ねばいい、などとは思わない。

そんなのは、本末転倒だろう。


「…それは、随分と短絡的だと思うが?」

「そう、そうなんだよ!」


自分が求めていた言葉を聞けてとても喜んでいるのが、その声から感じ取れる。


「僕も直ぐにこの考えは短絡的だと思ったんだよ。それで別の方法はないかを考えて、この力をゆっくり、時間を掛けて行使すれば、無駄に殺しまくる必要は無くなることに気付けた。でも、一つ疑問が残った。

これまでの僕なら、殺す、なんて結論に至ることは無い。なのに、その考えにたどり着いてしまった。そこでようやくその可能性に気付いた。この力を得て、思想が、思考が変わっているのではないかとね」

「力を得た…?」


力を得ただと?

あの魔獣は、魔術ではなく異能なのか?

それなら、魔獣たちの魔力に関して説明はつくが。


「そうそう、力を得たんだよ。それで、僕なりにこの能力について調べたんだ。するとどうやら能力の根源っていうのがあるらしくて。僕はそれが、僕が変わった原因なんじゃないかと思ったわけだ。んでさ、君は能力の根源について、何か知っているかい?」


知っている訳がない。

私は魔術専門、異能については全く知らない。

そもそも魔術師協会は異能のことをどれほど知っている。

能力の根源とやらについての研究はされているのか?

そんなことも知らない。

というか、


「話がずれていないか?」

「あら、気付かれちゃった。魔獣を放った本当の理由はね、君みたいな、一般じゃあ知られてない組織に入ってそうな人を誘き出して、能力の根源について聞くため。で、どうなの?知ってるの?」

「知らない」

「そうかぁ」


あまり残念そうにしていないため、恐らくこの返答は想定内なのだろう。

もし知っていたとして、それを話す訳はないのだから聞く意味は無いと思うんだが。


「話を戻す。お前の話から察するに、お前は一人でこれを行っていたのか?」

「どうだろうね」

「話す気はないという訳か」

「意味はないからね」

「そうか。最後に、お前()は何者だ」


これほどのことをたった一人で行うなど、いくら異能力者であっても不可能に近い。

必ずどこかの大きな組織が力を貸しているはずだ。


「…あくまでも、僕は一人じゃないと見ているわけね。そうだなぁ、僕はただの能力者だからねぇ。特に何者という訳ではないかなぁ。とりあえず、僕は創造者(クリエイター)とでも名乗っておこうか」

「そうか」


例え命の危機であっても動揺を見せず、仲間を売らないのはしっかりしているな。

これほど肝が座っているなら、普通に生きていれば、きっと大物になったのだろう。

残念に思いながら私は刀に力を込める。


「ならお別れだ。さような――っ!」

「あぁ、忘れてたわ」


その瞬間、私の背中を刺すような悪寒が走った。

とっさに振り向き、創造者に突きつけていた刀で斬りつける。

そこに迫っていたのは、狼の魔獣だった。

運良く刀が魔核を斬りつけたから良かったが、あのままならきっと、首を食い殺されていただろう。


「僕は、やめるつもりはない」


直ぐ後ろに座っているはずの者の声が、横から、それなりに離れたところから聞こえた。

一瞬で離れたことに驚き、そちらに首を向けると、黒いコートを着た後ろ姿が、ビルの下の世界を見下ろすように立っていた。


「これは、君たちへの宣戦布告だ。きっと僕がやろうとしていることは、君たちから見れば異常なんだと思う。でも、僕はこの道が正しいと思うから往く。だから君も、自分が正しいと思うならその道を、自分を信じて歩んでくれ。愚かな人の悪意に負けないでほしい。以上だ、さようなら」

「っ!?」


そう言うと創造者は、ビルを頭から飛び降りた。

ハッとなって、創造者が降りた所へ駆け寄る。

しかし、下には、誰も居なかった。

創造者の魔力も確認することができない。

今の一瞬で、その存在がその場から消え去った。


何故、どうやって消えたのか。

可能性はいくつかあるが、恐らく創造者は、瞬間移動を行った。

さっき数メートルを一瞬で移動したのも恐らくそれだ。

これが魔術なら、氷魔術に並ぶ、不可能と言われた魔術だ。

私が見逃した、ではなく私を見逃してくれたことになる。


だが、恐らく創造者は異能力者。

名前からして何かを創るのだろうが、何を創れるかが重要だ。

本当に一人で行っていたのなら、魔獣と瞬間移動の二つを可能にする能力だ。

どこでも自由な場所に魔獣を召還できる、甘く見てはいけない存在、脅威となる可能性が高い。


私は携帯で拠点に連絡を取り、たった今黒幕と遭遇したことにし、逃げられたこと、目的、推測される能力を伝えた。


『了解。引き続き魔獣の討伐を頼む』



創造者(クリエイター)は、口調からして恐らく男であった。

彼が何故最後にあんなことを言ったのか、私にはわからない。

だがその言葉は、私に深く刺さった気がする。

彼が自分を信じて押し通るなら、私も、私自身を信じて私のするべきことを成す。


彼はいじめに拘っていた。

彼も、何かを抱え込んでいて、それに押し潰され、崩れてしまったからこんな災害を引き起こしたのかもしれない。

彼が誰か、信頼している人に話せれば、傷つく人は居なかったかもしれない。

でも、彼自身が彼の言ういじめの被害者なら、私はどうにかしたいと思ってしまった。


彼は、私が内心に秘めた悩みを意図せずとも解決してくれた。

自分勝手な考えであるのはわかっているが、少なからず彼に感謝し、彼が何かを成すことを願ってしまっている。

止めねばならない敵対する立場になるはずなのに。

彼に、抱えている物を打ち明けたくなってしまう。

彼なら解決してくれるのではと思ってしまう。


でも、街に魔獣を放って混乱させたクズに、そんな考えを持ってはダメなんだ。

お父さんと同じ道を辿ってしまう。


だからもし、次に会うことがあれば、お礼を言ってから捕まえよう。

それが私なりの彼への慰めであり、感謝だ。


私は創造者に対する感情を秘め、残りの魔獣の討伐に向かう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ