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婚約破棄と真実と 3

ジャンル別日間ランキング5位になりましたー!

ありがとうございます!!

今回はこれまでの詳しい説明回(?)です。


 事件が起こった後、夜会は気まずくも再開したらしかった。

 なぜ曖昧な言い方なのか、と言えば、国王と宰相、そしてセーティとベフィ、ティスロナはルシカ達が連行されたことを確認すると、応接室に移動したからである。


「……それで、聖女、とはどういうことですか。説明して頂けるのですよね?」


 応接室に入って、最初に口を開いたのは宰相だった。

 さぞかし、聖女について疑問があったことだろう。


「聖女は聖女よ。知っているでしょう? 聖女は神の使いよ」

「そういうことではありません! 何故、この者が聖女だと言えるのですか」

「……セーティ様、私も知りたいです」

「…………ティスロナ様が、そう、仰るのであれば」


 渋々、セーティは頷く。ティスロナから訊かれなければ恍けるつもりだったのだ。

 一方ベフィは、我関せず、といった様子でボリボリ、ムシャムシャ、と夜会の去り際に何気なく取ってきた夜食を頬張っている。事実、聖女に関してはベフィではなく、セーティの担当なのだ。何の考えもなしに割り込むほど、ベフィは愚かではない。

 そして、セーティは躊躇いを見せながらも、息を吐いて意を決する。


「――聖女にはある特徴があるの。聖女にしかあり得ない特徴よ。知っての通り、聖女とは神の使い。聖なる力を持つ、神聖な存在。それ故に、聖女が聖女たる所以、聖なる力を身体の中に宿す者は皆、髪や肌の色素がなくなり、白くなるのよ。そして、聖なる力は嘘を吐いたり、他人を故意に傷付けたり……とにかく、邪な行為をすると弱まり、最終的には失くなる。そうすれば、その者の髪や肌の色は元に戻り、聖女ではなくなるのよ。つまり――」

「あいつらが言っていたことを行っていれば、この者の髪色は白くない、と……」

「ま。そういうことね。加えて、聖女の特徴は遺伝されず、その者の聖なる力によって決まっているの。それと、一応言っておくけど、老人の白髪と聖女の白髪は明らかな違いがあるから」


 本当に最後のは言う必要は感じられない。

 ティスロナを見ていれば分かるが、聖女の白髪には光沢が見られる。光が当たるとキラキラ、と輝くのだ。特に月光に照らされた聖女の白髪は実に幻想的で、それを一目見るだけでも幸運と呼べるだろう。


「なるほど。ご丁寧な説明を、ありがとうございました。尋ねようと思っていたことまで仰られるとは」


 感服しました、国王の斜め後ろで立つ宰相は、どこぞの執事にも劣らないほどの恭しさで腰を深々と曲げた。一国の宰相としては中々優秀らしい。

 大国である帝国の皇帝に対し、ふんぞり返る者はほとんどいなく、こういった対応には慣れているベフィでも、この宰相にはほぅ、と感心できる。ベフィの隣にいるセーティはあまりこういったことに関しては興味がないのだが。


「あら? 王族であればそれくらい察せられないとやってられないわよ」

「ああ。そういう奴は屑と言うんだ」

「あら、ベフィ。違うわよ。これは無能、と呼ぶのよ」


 ティスロナへの対応としてはクズでも正解だけど。

 クスクス、と目を細めて口で弧を描き、セーティはベフィの方は見ずに、正面に座る国王と宰相を見つめる。

 言いたい、伝えたいことを隠すセーティではない。


「……それは、我が国の殿下――いえ、ベルリラ様が無能、と仰っているのですか」

「ふふ。よく分かったわね」

「白々しい……」


 視線からして完全に挑発していたのはセーティ自身だ。隠そうと思えば完璧に隠せるものを、わざと伝えてきたのだ。これは分かった、ではなく、分からせられたのである。

 魔女の如き眼光で、ふぅ、と息を吐くと、セーティはつまらなさそうに持っていた扇子で口元を隠した。欠伸をするために。


「もう、良いかしら。私、早く帰りたいんだけど?」


 セーティとベフィの目的は果たされた。ティスロナを連れ帰る、という目的は。

 既にこの国に用はない。この応接室に何も言わずに連れられて来たのは、ティスロナの母国という配慮と連れ帰るためには必要な話し合いをするため。聖女について話し終えた今、セーティとベフィが帰らない理由はない。

 夜会ということもあり、夜遅い。ただでさえ眠いというのに、こんな面倒で面白みのない話をしなければならないとは、拷問以外に何でもないのではなかろうか。

 扇子を閉じ、立ち上がろうとした、丁度その時だった。宰相がハッ、と気付いて慌ててセーティを止めたのは。


「お待ちください。それは、ティスロナ孃も連れて、ですか?」


 おそらく、夜会中での『お迎えに参りました』というセーティの発言を思い出したのだろう。今更の話である。


「当たり前じゃない。言ったでしょ、お迎えに参りましたって。ティスロナ様には帝国の教会に来てもらうわ」


 やはり。宰相の心の声が聞こえるほど、宰相の目は雄弁に語っていた。


「どうして、でしょうか。聖女はどこの国で保護しても良いはずです。王国の教会でも」

「――貴方、巫山戯ているの?」


 宰相が言いたいことは一つ。教会であればどの国でも良い。つまり、王国の教会でティスロナを保護したい、ということだ。

 そう。聖女は国同士、教会同士の決まりによって、聖女の意思を制限することはできない。また、強要することも禁止されている。そのこともあり、聖女の多くは余程のことがない限り、母国の教会や国に保護され、力を振るう。他国が力任せに聖女を奪うなど、断じて許されないことなのだ。

 下手したら、セーティとベフィの行為は禁忌を犯すことになる。

 にも拘らず、セーティの態度は堂々としており、一般常識を謳っている宰相を萎縮させるものであった。


「っ……り、理由を」

「この期に及んでまだ分からないのかしら?」

「どう、いうことです」


 覇気を放つセーティに耐え、未だ言葉を発せられるだけ、この宰相には魅力があるものの、やはり、合格点には遥かに及ばない。


「ハァ……呆れた」


 セーティの口はそう漏らす。

 一つ一つ説明しなければならないのか、とうんざりしていたセーティは意外な助っ人がいることに気付いていなかった。


「サンムイル。もはや我が王国に信頼はないのだ」

「な……?」

「あら、国王は話の分かる人じゃない」


 静かに、大きな動揺も応接室にやって来てからはなく、この場を正視していた国王が漸く重い腰を上げた。

 多くの人をまとめ上げるだけあって、王国の現状を最も理解しているのは国王に違いない。夜会ではその力は発揮できなかったらしかったが。他者を魅了し、惹き付ける、王としては素質の持った人物のようだ。


「我が王国は聖女に度重なる苦痛を強いてしまった。この夜会を見れば分かるだろう。例え聖女だとは知らずとも、人にやってはいけない行いをしてしまった。それを己で解決することができなかった、自制ができぬ国である、と見られても仕方ない。そんな国がどうして信頼を得られようか」

「っ、ですがっ……! ………………いえ……何でも、ございません」


 ほう。どこからともなく出た感嘆。紛れもない、セーティのものである。ベフィが覚えず、二度見してしまうほど、滅多にないことである。

 あのセーティが、とベフィであっても驚かずにはいられない。いや、長い間共にいたベフィだからこそ、外いきの仮面を捨ててしまうほどの衝撃があった。


「全く。この国は国王以外は無能のようね」

「っ…………」


 ベフィの驚きを無視し、セーティは認識を改めた発言をする。セーティをよく知らない宰相からしたら、侮辱にしか聞こえない発言を。

 案の定、宰相は身を乗り出し食ってかかろうとしていた。途中で思い留まったようで、それ以上のことはせず、代わりに、標的をセーティからティスロナに変える。


「で、ですが、ティスロナ孃は?! ティスロナ孃はどうなんです!」

「――――はい?」


 蚊帳の外であったティスロナは聞いていなかったのか、放心していたのか、首を傾げた。その一方、徐々に改善しつつあったセーティの機嫌が再び、「……なぁにを言っているのかな」と言うのと同時に下がる。


「ティスロナ孃が王国を選んだ時は、王国にいてくださるのですよね?」

「何を……」

「サンムイル……」


 宰相の暴挙にセーティは警戒、国王は呆れた声を出した。

 国王の呆れを含みながらも咎める声が届いていないらしい宰相の蛮行は止まらない。


「ティスロナ孃! お選びください! 帝国に行っても幸せになるとは思えません。もしかして、ベフィ皇帝に取り入ろうとでも思っているのですか? 例え聖女であっても、正妃がいてはそれも難しいのではないでしょうか。もし、王国にいてくだされば――」

「プッ。アッハハハハハハハハハハハハハハハ!!」


 突然響き渡ったセーティの爆笑。

 誰も無視できない、耳に届かないはずがないセーティの笑い声に、目を血走らせた宰相もポカン、と口を開けて惚ける。国王もティスロナもまた、セーティのツボがどこであったのか、理解できていないようだった。

 唯一、ベフィがセーティのツボを知っている。知っていて、ベフィは眉を顰めるしかなかった。


「セーティ」

「いやいやいやいや! ベフィ、これは仕方なくない?!」

「何がだ。俺は鳥肌が立ったぞ」

「やだ。私だって不愉快に決まってるじゃない」

「何……?」


 今回何度目かのセーティのベフィの理解不能なやり取り。ただ、辛うじて分かることは、二人ともが顔を顰めるほど不快に感じたということだ。

 それもそのはず。何せ宰相が思うセーティと現実のセーティの正体が全く異なるものなのだから。これが最高に不愉快で、最高に笑えて止められない。


「ふふ。私はベフィの実の妹よ? ね、お兄様」

「気持ち悪……」


 婚約者? 正妃? ――違う。セーティは名乗らなかったものの、本物のベフィ、ジガヴェスト帝国皇帝の妹である。

 わざと名乗らなかったセーティはやっぱりね、と顔を歪めた。

 どこまでも冷静なセーティとベフィとは対照的に、国王とティスロナ、宰相は皆一様に驚愕の反応を見せる。


「な、なにぃ??!」

「ええっ?! そうなんですか?!」

「あらあら、まあ」

「ちょっと待ってください。皇帝の妹は病弱で歩くこともままならないと……」

「まあ! そんなデマが流れているの? ふふ。面白い。私、病なんて一度もなったことないわ」


 ジガヴェスト帝国皇帝の妹と言えば、幼き頃より病弱で表舞台からさっさと退場させられた、という噂が流れていた。舞踏会などに出て来ない、貴族でも一人も見たことがない、などが油となって、そのどこからともなく出現した噂の火が燃え上がっていたのは今から二、三年前のこと。今ではすっかり、それが真実となって貴族の間ではジガヴェスト帝国皇帝の妹の話題はすっかり地雷となっていた。実は地雷どころか、笑いの種でしかない。確実に、帝国の城内でそんな噂を信じている者はいない。むしろ、その噂を何を馬鹿な、と一笑して終わる。彼らが知っているジガヴェスト帝国皇帝の妹は病弱とは縁遠い、無邪気で変わり者なのだ。

 まあ、帝国の城内にいる者は優秀で、城内で起こることを流したりしないため、帝国内でも城にあまり来ない者の大半はその噂を信じている節がある。


「つーわけで、俺に正妃はいねーよ。ついでに、婚約者もな」

「残念だったわね、宰相様?」

「ぅ……ぐぅ…………」


 やはり、この宰相、ティスロナを王国に縛り付け、王国を繁栄させたかったようだ。

 ティスロナに帝国でも居場所がない、と思わせ、王国ならば過ちを犯さなければ居場所を作れる、と言って誑かそうとしていたのだ。頭の使いどころは悪くないが、相手が悪すぎる。これだから中途半端に才能がある人は面倒臭い。王国は宰相のような人が多すぎるのだ。

 今回の夜会にいた王国の貴族の一部では、あれだけのことがあっても、ベルリラを国王に仕立て上げようと画策していた。自分の傀儡となり、名だけの王にするには、ベルリラのように無能であればあるほどやりやすい。衆人監視の中でセーティとベフィがティスロナを聖女だと明かした理由はそれもある。彼らに、どう転んでもベルリラが王になる未来はない、と知らしめたのだ。聖女信仰は国を越え、身分を越えて広まっている。聖女を虐げた人が王になり得るはずがない。そうでなくとも、ベルリラは傀儡にするにも無能すぎる。ティスロナの件を抜いても、(ルシカ)に騙される程度に視野が狭い。無能であればあるほど操りやすくても、限度というものがある。彼らはそれを見誤った。

 そんな彼らも含めて統率できるほどの才能が第二王子にあるのかどうか、で王国の未来は変わる。とは言え、国王に見所があることを知れただけで応接室に来た甲斐があった。


「あの……もう一つ、教えてください。貴方々が奪った装飾品は、本当に貴方々が贈ったものなのでしょうか?」


 満足したところで帰ろう、と立ち上がったセーティにまたしても宰相が尋ねる。

 これまでと違い、ただの確認として訊いたのだろう。


「当然だ」

「貴方々……ああ、首輪のことね? さっき、言ったはずだけど? これは私にしか作れない世界でたった一つのものだって」


 手に持っていたネックレスを掲げ、国王と宰相に見せる。

 セーティが独自の製法で作り出した宝石とそれを飾る鮮やかな鉱物の欠片はどんな装飾品にも劣らない。どれほど目が肥えていたって、見蕩れずにはいられない。

 ふふん、と胸を張るセーティにベフィはジト目を向ける。


「おい。言い方」

「何よ」

「首輪は止めろって言ってんだろーが」


 これまでに何度もベフィが注意してきたことだった。

 セーティは自分で作ったネックレスのことを『首輪』と呼ぶ。毎回、ベフィは違和感を捨てられない。


「? どうして? 私とティスロナ様を繋げて逃がさないためのものなんだから、首輪でしょ」


 刹那、応接室の気温がマイナスに下がった。


「お前……頭イカれてるって…………あーー……頭いてぇ……」


 兄妹であるベフィにもドン引きされるほど、セーティの性格は歪み、狂っていた。

 セーティの歪みを受け入れる者を、ベフィはこの世でたった一人しか知らない。



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