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世界樹の裾〰彼女が始めた街作りの物語〰  作者: テオ
2幕:アイゾンウェルの魔槍
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09.「アーデルハイド様のお通りだ!」

ケーレンハイトのルーンパド「ドムレス」。

王都の北側のエリアでは最も大きな工房であり、ここで扱えないルーンアイテムはないと言われている。

事実、扱いの難しいアーティファクトを持ち込む冒険者たちで連日賑わいを見せる。

ここでなければメンテナンスもできないからだ。

優秀なマイスターたちが集まっていること、大型の設備が揃っていること。

ルーンを扱うことに置いて必要なモノは全て揃っているという謳う文句は誇張でもなかった。


「また随分と酷使しましたね、アーデルハイド」


眼鏡を掛けた神経質そうな白髪の老人が目を細める。

エアというマイスターは今年で70にはなる女性ではあるが、

未だにその知識と技術に衰えはなく、ドムレスの中心メンバーの一人である。


「武器は使ってこそだろうさ」


アーデルハイドは肩を竦める。

アイゾンウェルの魔槍も扱いが難しいアーティファクトだ。

アーデルハイドがケーレンハイトを拠点とするのもドムレスがあるからである。


「まあいつものことです。

 作業は3日、料金は3万4000ラピス。

 部品の交換が発生した場合は別途請求します」


「3日……?

 珍しく暇なのかよ。それともアタシを最優先にしてくれるってことか?」


告げられた納期にアーデルハイドは眉をひそめる。

いつもは10日くらいはかかっていたはずだ。

ドムレスは常にオーパワークのためただのメンテナンスだけでも順番待ちで結構かかる。

それが取り扱いの難しいアーティファクトであればなおさらだ。


「馬鹿なことを言うんじゃないよ、誰が暇なものですか。

 ただここしばらくゴーレムのメンテナンスが来てないですからね。

 あれさえ来なければマイスターも回せるのできちんとした納期で仕上げられる


「ゴーレム……ハツカ=エーデライズが来てないのか」


「そうですね。ケーレンハイト自体にもいないようです。

 いつもであれば、もう2回はメンテナンスに来ているはずですがね」


ゴーレムはとにかく目立つ。

工房に顔を出さなくとも街にいるかくらいは人の噂ですぐわかるのだ。

アーデルハイドは顎に手を当てて考える。


「休業でもしたのか、あいつ」


「さて、私たちは何も聞いてませんからね。

 ゴーレムの整備は稼げるとはいっても

 マイスターへの負担が大きかったので私は一向に構いませんが」


眼鏡をくいっと上げるエアはあまり興味がなさそうだった。

アーデンハイドは前金を払って槍を預け、工房から出る。


「……あいつ。まさか死んではいないだろうな」


ハツカとは特別に仲が良いわけではないが、

歳が近いのと、希少なアーティファクトを持つ同士で話をすることは何度かあった。

彼女はギルドには所属してはいないがケーレンハイトでも上位に入る稼ぎ頭であり、

冒険者たちの中でも一目置かれている存在なのであった。

傍若無人が服を着て歩いているようなアーデルハイドにとっても珍しく実力を認めている存在だ。

彼女の特に判断力、直感は他の冒険者にはないものだ。

ドールマスター、しかも珍しいゴーレム使い……

彼女のクラスにとって一番重要な施設はルーンパド。

そこに顔を出していないというのは、何かあるはずだ。

死んでいなければ、ゴーレムを手放したか、あるいは「何かうまい話」を見つけたか。

彼女は冒険者の集まる酒場へ行く。

アーデルハイドの所属するギルド「シルバーバード」の拠点ともなっている酒場で、

依頼を受ける時だけでなく最も情報が集まる場所でもある。

アーデルハイドが扉を開けて入ると、その姿を認めた全員が一瞬言葉を止める。

広い店内にいるのは30人は超える冒険者がたむろしていた。

性別は男の方が多いが年齢や種族がバラバラの統一感がないいかにも冒険者らしい集まりである。

そして彼女が難しい表情を浮かべていることに気づくと、

無言で視線をそらすか、そそくさと席を外して離れていくかどちらかだった。

ポーカーフェイスとは無縁な彼女はとにかく機嫌が顔に出る。

機嫌が良ければ突然に挑発紛いに絡まれることも多く、

機嫌が悪ければ八つ当たりのように喧嘩を売られることも多い。

「アイゾンウェルの魔槍」の使い手として実力を認められるだけでなく、

「気まぐれな金髪爆薬」と非常に情けない2つ名で影で呼ばれていることを彼女自身はまだ知らない。


「やはー、おかえりアーデルハイド」


そんな彼女に気安く話しかけれる数少ない存在がシルバーバードのギルドマスター。

まるで枯れたススキのように哀愁漂う青年の名をアーレスという。

まだ歳は24だが妻が三人もいて、しかも既に子供が6人もいるらしい。

重婚を認められていないわけではないが、

一般的には一夫一妻である王国においては珍しいタイプである。

だが彼こそがケーレンハイトの中で最も勢力を持つギルドのマスター。

パッと見て印象に残らない無個性な感じではあり、

3人の妻の尻にしかれて生活費を稼ぐために四苦八苦している様からは想像できないが。

そこに至るまでの経緯やギルドを立ち上げた理由が不明など、割と謎が多いマスターではある。


「マスター。ハツカ=エーデライズが街にいないんだってな」


アーデルハイドに世間話をするという概念はない。

開口一番、用件を告げる。


「おや、君も聞いたのかい」


寡黙なスキンヘッドのマスターが果実酒をそっと置く。

ケーレンハイトの近くの果樹園でとれるどろっと甘いラプターの実を漬けたものだ。

アーデルハイドはそれをぐっと一息にあおり、「ふっ」と息をつく。


「元気に活動してるみたいだよ、彼女は」


「へえ、まあ死んではいないとは思ったが、あいつどこにいやがる」


アーレスはくいっくいっと上を指さした。


「どうやらここより北側のエリアを中心に活動してるって話さ」


この何とも弱そうなギルドマスターは実際に戦闘ともなると見た目以上に弱い。

それでいてマスターを務め、そんな彼のギルドにメンバーが集う理由は

その情報収集力とマネージメント力。

個性的というより、アーデルハイドといったアクが強すぎる冒険者たちを

きちんと取りまとめているだけでも凄いのだが、

それ以上にケーレンハイト、いや近隣の街を含めても一番の情報を持つ。

……余談だが情報収集のため一日酒場にいるため、

子供たちからは毎日飲んだくれて遊んでいるように思われているらしい。


「北側……?」


ケーレンハイトも既に王国の北に位置する街だ。

ここより北に行くと正直あまり何があるのかピンとこない。

隣国との間には大きな山岳地帯があるため、実質王国の突き当りになるだろう。


「そんなに儲け話はないはずだけどさ。

 正直、僕も彼女が何してるかわからないんだよねぇ」


「へぇ……」


ドールマスターであるハツカ=エーデライズにとってゴーレムのメンテナンスは死活問題。

活動しているということは、それを何らかの方法で解決していることだ。

ケーレンハイトより北側にそんなルーンパドがあるなんて聞いたことがない。


「ククク……」


これは面白くなってきた。

このギルドマスターをもってわからないと言い出した。

わざわざ隠したり嘘を言うようなマスターでもない。

つまりは情報通のマスターですら知らない「何か」がある可能性。


「最近、アタシは退屈してたんだ。

 ハツカ=エーデライズ……

 このアーデルハイド=アイゾンウェル様に黙って面白いことをしていたら許せねぇな!」


ニイッと子供が見たら泣き出すような笑みを浮かべる。


「マスター、しばらく街を離れるぜ」


2杯目の果実酒を飲み干したアーデルハイドは酒場から出ていく。


「アーデルハイド様のお通りだ!」


その足取りは、彼女にしては珍しく上機嫌なものだった。

たまにいますよね、すぐにフルネーム叫ぶキャラ。

リアルではそういう人をさすがに見たことがない。

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